55 方向転換とレベル測定
いつかジュリアを倒しに行く。
だけど、本当の元凶だったスターシャを倒し、少し気が緩んだ。
復讐のその先を考えるようになった。
「等価交換」の素材さえあれば丸一年間でも動き続けられる。
だけど私の気持ちは、間を置かず戦い続けられるほど強くなかった。
ナリス、モナ、アリサごめん。少し方向を変える。
今は慌てる気持ちが薄れてきた。
私のスキルは、知れば知るほど強いことが解った。
まあ、風のカルナと水のウイン、2人から大容量の収納指輪を奪ったことが大きいのだけど。
「等価交換」で使える有機物を持つ限り、高位戦闘職のような「仕事」ができる。
カナワの街から出ることになった流れの中で、リュウにはシビアになれと言った。
ごめん、リュウ。
私の方が、人を切り捨てて、割り切れる方じゃなかった。
だから、まず自分の居場所を作りたい。
仲間の代わりにならなくても、気持ちの拠り所が欲しい。
仇の1人、光のマリリの情報集めも、普通にはできないと思う。
保留している。
何気にマリリとは、私達4人はほとんど話したことがない。
特に印象がないのだ。
165センチ、白銀のストレートの髪。妖精のような美形。強烈な魔法適正。
これだけ明確な情報があるのに、個性を感じなかった。
もしかしたら、シクルのように、普通の人間が、ジュリアに悪の道に引き込まれただけかも知れない。
ジュリアに比べると、印象も恨みも薄いのだ。
それに仇の1人だったけど、シクルを助けてしまった。
「ナリスと同じ顔をしたターニャに泣かれたら、殺せないな・・」
力一杯ぶん殴りはしたが、寸前に傷を治した。
同時に、熱や冷気で身体が傷付けられない土属性ドラゴンパピーの鱗をプラスしてみた。あれで簡単にはシクルとばれないだろう。
実際に自分以外の人間に「行ってこい変換」を使ったのは初めてだった。
なんとなく成功した感じだ。
「シクルを生かしたのは、ターニャの護衛」
それならナリスだけじゃなく、モナとアリサも許してくれるはず。
◆
移動しはじめて3日目。
全速走りも多用してターニャの村から250キロ南のオルシマの街に着いた。
国の南部で、かなり発展してる街。
ジュリアの親の領地は、北に1200キロの王都近く。簡単には出会わないだろう。
冒険者カードはリュウに預けたまま。だから新しい冒険者カードを作る。
Fランクスタートだけど、今ならランクは簡単に上げられる。
「リュウとの繋がりが消える気がするのは嫌だけど・・」
目標はBランク。
レベルとスキルがある、この世界。ソロ冒険者のBランク以上となれば、攻撃力は未知数。
有力者が迂闊に手を出して、取り返しのつかないダメージを受けた話が幾つもある。
だから、そっちを目指す。
Bランクまでは盗賊討伐、高ランク魔物の納品など、武力のみでも到達する方法がある。
◆
冒険者ギルドに到着した。
登録し直して、レベル測定をやる。
ドラゴンパヒー、推定レベル50越えの魔物を何百と倒した。
「レベル80とか行ってて、ギルド内騒然とかなったら、どうしよう・・」
今日はミスリルワンピースと、ミスリルサンダル。キラキラで目立つが仕方ない。
緊急時、街中で「等価交換」を使う可能性もゼロではない。
街のド真ん中で綿の服着て「等価交換」
そして丸裸。これだけは避けたい。
ちょっとワクワクしながら、冒険者ギルドに入り登録。
ギルド員割引きで10000ゴールドを払って、測定開始。
私は、ドヤ顔で腕を組んでいる。
測定結果を見た、受付嬢さんの顔色が・・
変わらない?
なぜ?
「読み上げてよろしいのですか?」
「・・はい」
「ユリナ様のレベルは29ですね。HP87、MPは・・ゼロでございます」
「レベル29?」
HPも1レベルアップの最低数「3」を繰り返し87。
全てが低すぎて愕然とした。冒険者ギルドを出ながら考えた。
「超回復、等価交換コンボ」ですごく格上の相手を何度も葬ってきたのに・・
誰かが後ろから追ってきて話しかけてるが、頭に入らない。
「ああ、もしかして」
この世界のレベルアップは魔物を倒したときの「貢献度」が重要だ。
お貴族様がパワーレベリングなるものを試し、失敗に終わった話がある。
「神の判定」という現象。
経験値は誰が止めを刺したかではなく、「誰が貢献したか」が重要なのだ。
お貴族様がパワーレベリングを狙ったときは、レベル60のオーガを使った。
冒険者6人に依頼。
オーガを痛めつけ、お貴族様は止めだけを刺した。
するとお貴族様のレベルは8から9に上がったのみ。
経験値の大半はオーガに傷を追わせた戦士4人、戦士の傷を治した治癒魔法使い、メンバーにブーストをかけた付与魔法使いで分配された。
神はズルを許さない。
そうなのだ。きっと私は「等価交換」にお膳立てをしてもらっている判定なのだろう。
「等価交換」は、ただの不思議現象。
私の攻撃とは見なされない。
等価交換終了後の残りカス。それが私の経験値になる。
私は弱った獲物にトドメを刺しているだけ。程度が低いパワーレベリング状態だったのだ。
ダルクダンジョンで最初に遭遇したオオカミは推定レベルが65~80。
その時は、私のレベルが8。
「等価交換」で瀕死になったオオカミの首を締めただけでも、かなりレベルが上がったんだろう。
だけど次は、20メートルの蛇を「超回復、等価交換コンボ」のみで倒した。
おそらく、そのときの獲得経験値はゼロ。
ドラゴンパヒーとランドドラゴンも、私が直接ダメージを与えた記憶はない。
自分のパンチが、えらく弱いと思った。
こんな、悲しい秘密があったなんて・・。
がっかりした。
石畳が敷かれた街中をあてもなく歩いている。
すると、声がかかった。
「姉ちゃん、シカトすんなよ。手に嵌めてるのは収納指輪か」
さっき、冒険者ギルドでなにかを言っていた若い3人組だ。
「ええ、そうだけど」
「俺らのパーティーに入れてやるよ」
「・・私、ソロなの。縁なかったわね」
「まあまあ、そう言わず。魔力ゼロの劣等人だろ」
「トラブルから俺らが守ってやるから」
トラブルと言えば、こいつらに声をかけられたことがトラブル。
何度も断ったが、3人組は絶好のカモを見つけたとばかりに、引く気配はない。
そうして私達4人は押し問答をしていた。
豪華な馬車が猛スピードで接近していることに気がつかなかった。
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