45 罠
これから、久しぶりの対人戦。
前に倒した仇の1人、水のウイン。
あいつ実家、カスガ男爵家の奴らが私を捕まえに来た。
商人の荷物持ちに扮した5人、おそらく剣持ちの騎士。
と、思ってると、少し状況が変わった。
敵が増えて、武器も変えた。
私は相討ちからの「超回復、等価交換コンボ」だけが、戦いの手段。
接近戦の剣士ばかりで楽勝、となめすぎてた。
3人のレンジャー風が追加。そして、私と距離を取って散会。
私から、最低でも5メートルの距離。そして、全員が違う武器を構えている。
これは、罠だ。
「「等価交換」の犠牲者から、私が超近接型って話は聞いていて当たり前か・・」
剣を構えてる奴が1人もいない。
ドスッ。
右太ももに衝撃。
長い槍が刺さって、引き抜かれてた。技の初動が速くて、見えなかった。
『超回復』
「む、傷が治った。すごい回復スキルだ。これがあるから、我が槍を避ける必要もなしか・・」
いや、いやいや。
あんたの技がキレすぎて見えてない。過大評価のし過ぎだよ。
だけど、お陰で冷静になれた。
苦手な武器。「長い無機物の道具」は、こいつだけだ。
あとは、オモリ付きの紐。長い木の棒。拘束用ネット、などなど。
いざとなれば「有機物接触」に使える、武器ばかり。
一瞬でも、心配して損した。
水のウインと同じ、鉄製の捕獲用武器。その類似品を何本も用意されたらヤバかった。
だけどウインは、鉄製刺股を使って負けている。
それが報告されたことで、選択肢から外されたのだろう。
つまりここに、私を止められる物はない。
次は単純にナイフが飛んで来た。2本同時で左肩と右腕に刺さった。
『超回復』
高等技術だ。だけど、もうナイフ使いは私の獲物。
相討ちでいい私は、すでに走り出していた。
レンジャーは逃げずに、次のナイフを投げた。私は、怯まない。
彼の反応が遅れ、左手首に私の「等価交換」を食らった。
「あああ、腕が」
「ヤコブが!くそ接近させるな。特殊な気功術を食らうぞ」
「ふんっ」
槍が向かってきた。
レンジャーから向き直ったばかりの私は、槍を真っ直ぐ胸で受けてしまった。
ずぶうううう!
手練れの技だが、1回目が効かなかったから、今度は深く刺してきた。
背中を抜けて1メートルは槍先が突き出していそうだ。
非常に痛い。けど、勝った。
『超回復』&「破壊的絶対領域」ぱきーん。
バシュッ、バシュッ。私の身体から、何かを発射した音がした。
『超回復』時に異物の混入を拒む私の体。
刺さった槍を心臓の真横で断裂させた。
そして刹那の時間で前、後ろ、その両方に、強制排出した。
まるでロケットのように・・
べぎいっ!「ぐわあああ!」
槍使いの槍は、高速で押し戻された。
槍を握る指は折れ、掌の皮は剥がれた。
猛スピードで後退した、自身の槍の石突きが左胸にぶち当たった。20センチほどアバラ骨の間に食い込んだ。
致命傷を負って、3メートルも吹き飛んだ。
「ぎゃっ!」
声に反応して後ろを見ると、真後ろに飛んだ槍の穂先も、いい仕事をしていた。
進路上にいた筋肉君の腹に深々と刺さっていた。
「な、何が起こった・・」
「女は武器も出していないのに、3人もやられたぞ」
「こらえろ。きっとあれは魔法だから、やがて魔力が切れる」
「連れて帰れば借金も返せて、次期当主に取り立ててもらえるぞ」
勝手なことを言っているが、明らかに動揺している。
私は長いトレント枝を収納指輪から出し、「超回復、等価交換」コンボ。
1人ずつ無力化していった。
20分後、私はボロボロになった服を着替えていた。
「さあ、尋問タイムよ。20分もかかったし、手早く済ませましょ」
そのときだ。
「ユリナさーん!」
ターニャの弟ダン君が必死の形相で走ってきた。
「どうしたの血相を変えて」
「大変だ。姉ちゃんが拐われた」
「え?」
私が交易所を離れたあとだ。
普通に交易していた「マルセル商会」の商人と荷物持ちが暴れた。
「ターニャはどこに連れていかれたの?」
「村の子供3人と一緒に馬車に乗せられて、どっかに行った。助けようとした父ちゃんが「火剣スキル」で大火傷を負わされた」
「お父さんとこに行くよ、ダン」
「罠」だ。
走りながら、これが「罠」の本命だったと気付いた。
「火剣」の話は氷のシクルから聞いていた。
いちゃもんを付けてトラブルを起こした男爵家はオトリ。
穏やかな商会に扮した盗賊団が本命。
二段構えの作戦に、まんまと引っかかった。
ここでの目的はターニャだった。
とにかく、ナリスのお父さんの元へ急いだ。