30 超回復変装術は見破れない
リュウと今度こそ離れた。
最後に「待ってる」と言ってくれた。
待つ必要はない。
これから私は、あの女と命の取り合いをする。
◆
男爵家の馬車は、ギルドの近くに停めてあった。
ワルダー達を馬車の荷台に押し込めた。
「こんにちは、御者さん」
「へ、誰?」
いきなり御者台に座ると、御者が驚いていた。
私はあらかじめ、身長15センチ減。
「等価交換」の準備をして、御者の左足首に手に触れた。
「等価交換」ばちっ。
御者は左足の膝上まで、棒のようになった。自分の脚を呆然と見てる。
「ななっ、お前は何だ。俺の足に何をした」
黙るように言った。
未知の攻撃。顔が引きつった御者に指示し、街の出口に向かった。
すでに街の門には領主による検問。門番は2人いた。
「すみません、カスガ男爵家の御一行ですね」
「はい。なんでしょうか」
「街の中で問題が起きたため、申し訳ございませんが、中を改めさせていただきます」
若い門番が、私を見た。
「その御者台にいる少女は?」
「はい、マヤと言います」
10歳になり、男爵家の下働きとして雇ってもらう。
そんな嘘ストーリーを並べてみた。
「手配があったのは身長160センチの18歳女性。先輩、どう思います」
「聞かんでもいい。その娘は120センチ。お止めして申し訳ありませんでした。お通り下さい」
「ご、ご苦労様です」
馭者は最後に、一言だけ絞り出した。
馬車に乗り込んでから門に着くまでに、私は自分の太ももをザク切りにしまくった。
ついでに首も切って『超回復』のシステムを使って少女に変装した。
横で見ていた御者は、今も青い顔をしている。
水のウインが滞在しているキセ街まで4時間。カナワを出発して、南北街道沿いに走る。
途中から街道が川に近づき、大きな川と平行して走った。
ワルダーの馬車は、この街道でオークに襲われていた。
だけど普通なら、めったに魔物が出ない。
暗くても順調に進んだ。
「そういえば、ギルマスに道具をもらったな」
ギルマスは「魔法マニア」「スキルオタク」。その次は「武器コレクター」
私のスキルを見て、私だけが使えそうなアイテムをくれた。
武器というか、道具というか・・。
普通の冒険者なら使わなそうな物。ぶっちゃけ、死蔵品だ。
それをいじってるうちに、キセの街が見えてきた。
日も暮れた。こんな時間帯に門は開けない。
だが、ワルダーは馬鹿そうでも貴族家の長男。
通行証を提示。川沿いの門の方に向かった。そっちなら、夜間緊急用の入り口がある。
◆◆
水のウインが泊まってるのは、この街で1番の宿屋だそうだ。
街の規模は小さいから、2階建ての防衛機能も低い造り。
攻め方はシンプル。
縮んだ少女スタイルのままで挨拶に行き、油断させる。
体のどこかを触って「等価交換」で倒す。それだけだ。
というか、それしか攻撃手段がない。
しかし、いきなり誤算。
なぜか街の門の外に水のウインがいる。
水魔法適正A。164センチ、巨乳のツリ目美人。
白いブラウスに赤みがかったスカートをはいている。
「ワルダーちゃん、何があったの?」
馬車からワルダーが転げ出し、姉のウインに何か訴えている。
「あひゅ、あう、あう」
「喋れなくされたのね。どおりで魔力が乱れてると思った」
声は、少しも乱れてない。心配した風でもない。
「で、ユリナは連れてきたの?」
不味い。こっちを見た。
ジュリアの仲間は高レベル魔法使いばかり。
広範囲の魔力感知もできると言っていたが、こいつも例外ではなかった。
先手を取り損ねた。
ワルダーがこっちを指さした。
逆らったら口を元に戻さないと言っておいた。
けれど、姉への忠誠心か、それとも恐怖心か。そっちが勝っていた。
「その魔力ゼロ娘がそうなのね。ワルダーちゃん」
「はふん、はふん」
「そう。小さくなってるけどユリナなのね」
ウインは偽りの「善人」だったころに言っていた。
何でも言うこと聞いてくれる、忠犬のような弟がいると。
それが最低貴族のワルダーだったか。
10歳程度の身長で、見るからに非力。
そんな状況でウインににらまれている。
油断させて接触。
見事なまでに作戦は、失敗に終わった。
さて、どうすべきか。
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