28 好きだからサヨナラ
突然の別れがきた。
リュウ達のパーティー「暁の光」は、すでに私の大切な居場所。ここに留まりたいが、今のままだとリュウ、オーグ、ダリアに迷惑がかかる。
無力化した男爵家のワルダーと騎士4人を利用して水のウインを先に攻めたい。
足取りが重いワルダー達を冒険者ギルドから出るように促すが、後ろから声がかかった。
リュウだ。
「すまんユリナ。みんな俺のせいだ」
「・・違うよリュウ。私は、ダンジョンでスキルを手に入れたときから、こうなる運命だったの」
「暁の光」の3人とギルマスだけ、私の近くに寄ってもらった。
ジュリア達にダンジョンで陥れられたことから、順を追って話した。
友達3人が無惨に殺されたこと。
炎を浴びながら、高い崖から落ちたときに、スキルを得たこと。
落ちた直後に立ち上がったところをジュリア達に見られたこと。
私を捕まえに来た風のカルナを殺したこと。
「ジュリア達はギルドの追及を避けるため、街を去った。だけど、私の捕縛を命じられたカルナは行方不明だし、いつかは私のスキルを探りに戻ってくると思ってた」
「く、尚更、俺が男爵家のやつなんかに関わらせなければ」
「ううん。たまたまワルダーと水のウインが繋がっただけ。ウインが隣街にいるってことは、すでに動き出してたってこと」
「それでも・・」
「いいえ。考えを変えれば、これでウインから不意打ちを食らわずに済む。それは結果的に良かった」
「・・ユリナさん、これからどうするんですか?」
「全員倒せるか分からないけど、ある程度の決着が着くまでは、ここにはいない方がいい」
「登録」
「そうです。もう私達は仲間です。出ていく前にパーティー登録をしましょう」
「・・ありがとう。けど、ダメよ」
「何でだよ、ユリナ」
「みんなが私も「暁の光」に入れって言ってくれたとき、本当に嬉しかった。だけど、このスキルのことがあるから先延ばしにしてきたの」
「ユリナさん・・」
「ギルドの記録では、私はソロ冒険者。他の街から貴族や有力者が来ても、パーティーを組んだ記録がなければ、3人との線は薄くなる。そうよねギルマス」
「・・ああ。私もギルマスとして、権力者に聞かれても無関係だと言える」
「でしょ。ダリア達が聞かれても、収納指輪持ちだから便利に使ってたって言って」
「そんな訳ないだろ!」
「リュウ、ガキね・・」
「何だと!」
「そんなことだから、みんなを危険をさらすのよ」
「ぐ・・」
「オーグみたいに冷静になりなさい」
「なってる!」
「ダリアみたいに周りをしっかり見なさい」
「見えてるよ!」
「馬鹿なガキ。 ダリアもオーグも危ない目に遇わせないために、引くことも覚えなさい。嫌でも嘘をつきなさい」
「うっせえ、ユリナなんか、どっか行っちまえ!」
「・・行くわ」
涙をギリギリでこらえている。
あと一晩だけでもみんなと過ごしたい。リュウの温もりを身体に刻みたい。
だけど、ここに止まることでリュウ達3人を危険にさらす。恐らく、この街の領主は間を置かず動き出す。
私のスキルがハイヒールやグレートヒールどころではないほどの回復力を秘めていることは、そろそろ伝わるだろう。
リュウとは、綺麗に離れたかった。
だけど、彼が私に未練を残すことは、それがそのまま彼のリスクになる。
嫌われるくらいの方がいい。貴族に彼らと私の関係性が悪かったと思わせるためにも・・
「俺が頼りないから、嫌なのか」
「そうよ。もうリュウが嫌いよ」
・・好き。
「もう、俺のことは嫌いか・・」
「大ッ嫌いよ!」
・・離れたくない。
「嫌いなら、何で革袋に入れて、収納指輪なんかくれた」
「・・」
「なんで、収納指輪に武器や防具だけじゃなくて、ユリナのギルドカードも入ってるんだよ」
「う、うう、うえっ」
「また帰って来たいんだよな。俺らのところに戻ってくる気なんだよな」
リュウが近付いて来た。離れなければ未練が残る。
「リュウ・・」
これからは何人も人を殺すだろう。だから、リュウ達を突き放すしかない。
だけど、私は元からそんなに強い人間じゃない。
『超回復』で体は治しても、心は疲弊していく。
リュウに抱き締められた。
「まだ、色んな意味で俺は力が足りない。今、一緒に行っても足手まといになる」
「そうよ。死なせたくないの・・」
「今回のことで痛感した。俺はちょっと喧嘩が強いガキのまんまだ」
リュウに会えて良かった。
仲間を亡くして、たくさん泣いた。だけどリュウがいてくれたから、涙が辛いだけじゃなかった。
「あなたは、オーグやダリアと一緒にのしあがって行ける。可愛い子もたくさん寄ってくる。こんな冴えない年上女なんか、たちまち忘れる」
「忘れない。だから、お前の持ち物は預かっておくだけだ」
「・・忘れて・・」
ありがとうリュウ。言葉に出さないように、心の中で呟いた。
そっとリュウの手を離して、カスガ男爵家の馬車の方に、ワルダー達と向かった。




