26 大好きだよリュウ
「馬鹿が、こんなとこでファイアランスなんか打ちやがって!」
ギルマスが男爵家のワルダーを殴り倒した。
ワルダーの護衛騎士4人もギルド職員達に床に押さえつけられ、敵は全員が無力化された。
炎はすぐ消えたけど、冒険者ギルドは大騒ぎ。
「リュウ!」
ファイアランスが、至近距離から発射された。
私の右腕、そしてリュウの左脇に当たった。
練度が低くくても、中級魔法。私は衝撃でリュウと引き離されて転げた。
『超回復』
私の手や頬の火傷は治った。
だけど、リュウも吹き飛ばされている。
仰向けに倒れてる。
「うそ・・」
リュウの火傷。
左の脇腹から煙が上がっている。
焼け焦げの中に、大量の血が滲みはじめている。
急いで駆け寄って手を取った。見たまんま、致命傷だ。
『超回・・』
唱えようとして、オーグとダリアに止められた。
「ダメよ。ユリナさんここでスキル使っちゃ」
「制止」
「何でよ!」
「リュウに言われているの。ユリナさんのスキルは恐らく私とオーグの予想通りだって」
「え・・」
「だから、人前で絶対に使わせるな。使ってもらうときは、人がいないとこを選べって」
「リュウ、厳命、ユリナ、保護、秘密、保護、ユリナ、優先、最優先」
リュウを見た。
荒い呼吸の中、しっかりと私を見ている。
「使うな・・。俺は大丈夫・・。今は・・ダメだ」
「リュウ、申し合わせ通りにやるわよ。オーグと抱えて外に出すから、それまで持ちこたえて。オーグいい?」
「応!」
「そ、そうだ、それで・・いい、ユリナ・・。俺は、よ、余裕だ。はは・・」
馬鹿だ。
馬鹿だ。
リュウは本当に馬鹿だ。
ぶっきらぼうなとこがあって、未熟な点だらけ。
尖ってて成熟してない正義感で行動する。
浅い考えで貴族とトラブルになりそうになった。
ダンジョンで変なものを触って、勝手にピンチに陥った。
ちょっと魔物を倒すと、すぐにいい気になる。
才能はあるけど、放っておけないくらい危なっかしい。
だけど、底抜けに優しい。
私が、なくした仲間を思い出して悲しいときに、一緒にいてくれた。
私が泣いて迷惑をかけても、やさしく肩を抱いていてくれた。
私が夜中に涙を流していると、後ろから抱き締めてくれた。
私と初めて会ったとき。大事な獲物を投げ捨てて助けに来てくれた。
私とボアの間で守ってくれた。
私を大切にしてくれると言った。
死なない私を、一生懸命にかばってくれる。
私のスキルの秘密を知っても、なんにも変わらない。
私を今も、貴族の悪意から守ってくれた。
「だ、い、じょうぶ、おれはし、しなない」
リュウは知らない。
私は生き物に触れると、体の中の異常を感知できる。
リュウに触れた手から流れ込んでくる。
どす黒い風の渦が、ゆっくり回ってる。
死に神の鎌が、今にもリュウの心臓に達しようとしている。
時間なんて残されていない。
「馬鹿だねリュウ。こんな女を命がけで守ろうとするなんて」
大好きだよ。
「馬鹿だけど、大好きだよ」
「や、やめろ。ユリナ」
アリサ、モナ、ナリス、これでいいよね。
今でも3人を助けられなくて悔しいけど、『超回復』は大切な人を助けたくて授かったスキル。
リュウの頬に、そっと手を当てた。
『超回復』 パチッ。
一瞬で時間を巻き戻したようにリュウの傷がなくなった。
ギルドの中にいる、みんなが見ている。
ここでリュウとお別れになる。
だけど、君は誰より大切な人。
後悔はしない。
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