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21 リュウと夕暮れ時

私のことを避けていると思ったリュウ君が、冒険者ギルドの前で待っていた。


「リュウ、なんでここに?」

「・・・」


「潜伏」

「ユリナさんを待っていたんだよきっと。ギルドの手続きは私とオーグでやっておくから。お金も振り込みでいいよね」




リュウは私を見つけると、何も言わずに近づいてきた。


ちょっとだけ向かい合い、一言だけ挨拶した。


そして何となく並んで歩き出した。


噴水の前を通り、市場の前も過ぎ、酒場が並ぶ繁華街も無言だった。


やがて日が陰っても、2人でゆっくり歩いた。町外れの水路がある一画まで来て、ようやく立ち止まった。


私達以外に誰もいない。



「・・ごめん」

「え?」


「浅い考えで、ユリナの気持ちもきちんと考えず、倒れている人を回復しなかったことをとがめた」


「いい。普通は死にかけている人を助けて当たり前だもん・・自分の行動が冷たかったのは分かってる」


「俺さ、頭を冷やしてさっきまで考えてた」

「うん」


「なんで、俺らの細かな傷でも治してくれるユリナが、貴族の馬車の周りに倒れていた人を治さなかったんだろうって」


「・・」 


「ごめん、もう少し俺に話させてくれ。いいか?」

「・・うん」


彼は優しい。


本当なら、身の安全だけ考えるなら、この場から逃げて街を出るのが正解だろう。


だけど、リュウの声に足を止めてしまっている。


「おとといのユリナの行動を良く思い出して、赤面するくらい、自分の未熟さを感じた」


「分かったよね」


「そんで、今朝さ、気持ちを整理する意味も込めて教会にお祈りに行ったんだ」


「え?」


少し心臓の音が早くなった。


「前にも行った教会だけど、シスターと教会の子供達がユリナのことを話してた」


「・・そう」


「そこの子供に聞いたら、ユリナがアルンって男の子に「気功」を使った。そしたら具合が悪かったアルンが黒い血を吐いたって。その瞬間からアルンは、元気になったって話だった」


「・・・」


「おととのユリナは、首を斬られて一瞬で回復した。アルンも、たちまち全快になった。そして・・」


リュウは右腕をまくって肩を突き出した。


「昔、スモールボアにやられて残ってた、大きな傷が治っている。これもユリナがやってくれたんだよな」


秘密がばれた。


欠損でもない、ただの古傷までは、新しく得た感知機能でも解らなかった。


もう彼らとはお別れになるんだろうか・・


「そこまで結びつけて、俺でも分かった。ユリナのスキルは強すぎるんだ。だから、あのクズ貴族に見せられなかった」


「そうだよ・・」




「ごめん!」


「え・・」


「そこまで考えたら、自分のおとといの言動が馬鹿すぎたと、なおさら痛感した」


リュウが頭を下げている。


「ユリナがあのクズ貴族の仲間を助けても、きっと感謝されない」


今度は目があった。


「それどころか強力な回復スキルを利用しようと、悪意を持って捕まえにくる。きっと冒険者も続けられなくなる」


「うん、うん」


さっきからこぼれていた涙が止まらない。


「だから斬られても反撃せず、ただ去ったんだろう」


「う、うん、うえっ」


「痛かったよな。けれど俺達に災いが及ばないように、我慢してくれたんだよ」


「う、う、うえっ、うえっ、うううううええ」


抱きしめられた。


「私、スキルをもらっても、モナもナリスも、そしてアリサも、誰も助けられなかった」


力いっぱい、抱き返した。


「自分が生き残ることばっかり考えてる。貴族の御者も倒れていた護衛も、見捨てた。最低の人間なの。幸せになる資格なんかないの!」


「ごめん、本当にごめん」


「リュウは悪くない。うえっ、うえっ」


収拾なんてつかない。


堰を切ったように、支離滅裂になった私をリュウは一生懸命に慰めてくれた。


悪くもないのに、一生懸命に謝ってくれた。


キスをねだって、何度もしてもらった。


一人は嫌だからと駄々をこね、宿屋に連れて行ってもらった。


寝るまでとせがんで服を脱がせてもらい、一緒にベッドに入った。


ずっと彼にしがみついて、そのまま結ばれた。


いつの間にか寝てしまった。




https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/506718241


アルファポリスで先行しています

読んでいただきありがとうごさいます

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