187 ダンジョンボス
ジャバル特級ダンジョンに足を踏み入れてから99日目。
とうとう最下層の80階に到達した。
作戦は、あるようでない。私がメインで戦うことだけ決めた。
肉が激ウマだそうだ。だからだ。
資料によると、ノエルが前にいたイツミ伯爵軍でも90年前、先々代の時にジャバルを踏破している。
しかし陣容が私達とは違う。
高位魔法使い20人、戦士20人、盾役が10人でダンジョンボスを倒した。そして犠牲も10人出ている。
「過去にダンジョンをクリアしたのは、大半が大人数らしいわ。いくら私達でも私とミール、ミシェルじゃ無理みたい」
「分かった。全員にボス討伐記録が残るように適当に削ってみる」
究極戦闘フォームになった。
ここ一番は、裸だ。
◆
ゴゴゴゴゴゴ!みんなでボス部屋を開けた。
ダンジョンボスは、レベル155レインボーミノタウロス。ゴールデン牛レベル150が2匹、ダイヤ牛レベル150が2匹。
「なんて威圧感。3メートルのミノタウロスだ。俺がこんなとこに来れるなんて・・」
「うわっキンキラする。目が痛い」
「あんまり美味しそうじゃないね。ユリナ様」
「あはは、世界最高峰の一角を目の前に、ユリナもミールも普段と変わらないわね」
「よく来たのだ、挑戦者たちよ」
「ミノタウロスがしゃべった」
「ほら、情報通りでしょ」
ボスのミノタウロスは部屋の奥に行って座った。
「さあ、我に挑戦したいのなら、4匹のしもべを倒してみせるのだ」
ボス部屋の戦闘順番は決まっている。
だからまず、私は両手に持ったトレントの枝で戦う。
前の戦いで縮んだ体を戻さずに身長は90センチと小さい。
単独になった私にダイヤ牛2匹が迫った。ゴールデン牛2匹はミール達3人の方に行った。
速い牛にタイミングなんか合わせられない。トレントの枝を下の方でぶんぶん振りながら「等価交換」を10回唱えた。
適当に当てにいった「等価交換」ばちい!
1匹がトレントの枝を介して右前足から栄養を奪われたようだ。前につんのめった。
もう一匹は、私に直撃した。
『超回復』ぱちっ。
再びトレントの枝で牛を痛めつけにいった。
横目で見ると、3人はうまく牛の攻撃をよけている。
速いとはいえ牛の攻撃は直線のみ。回避に徹すれば1時間くらい余裕だろう。
15分の作業で、2匹の牛が転んだ。
どちらも私に栄養を奪われて前足の筋肉がなくなっている。
「おまたせ、交代しよう」
「お疲れさん」
「ユリナ様、ありがとう」
ゴールデン牛も同じ要領で弱らせ、みんなで討伐。
とうとうレインボーミノタウロスと対峙した。
裸の私は代表してミノタウロスに近づいた。
「見事だ人間どもよ。ワレがこのダンジョンの主だ。褒美に一発だけ先制攻撃を許そう」
これが、私達が緩くこれた理由だ。
レインボーミノタウロスはレベル155、HP3000。さらに各種耐性持ち。
身長3メートルで右手に剣、左手に斧を持って、素早い動きで挑戦者斬りまくるそうだ。
知能が高いボスが私を狙わず、ミシェルを最初に狙ったら私は何もできない。
ミシェルは高確率で殺される。そして「アイリス」は壊れる。
『ラスボスが先手を一発だけ譲ってくれるルール』
これを聞いて、勝利を確信した。
「裸の女よ。不思議な力で我がしもべを制圧したな。む、武器は持たぬのか」
「これがあるよ」
レベル8の頃と変わらない、細い腕を突き出した。
「ほう、パンチか。来てみよ」
「驚かないんだね。行くよ」
「初見ではない。1800年ぶりだ。そいつもお前のような弱そうな女だった」
「え?」
私はすでに、スライムコンボの準備に入っていた。
1800年前。私の『超回復』と同等のスキルを持っていた女。
それは初代聖女ユーリスなのか。
聞きたかったが、私のスライムボディーがミノタウロスの左足に溶け込んでいる。
すでにスキルは発動していて、止められない。
「超回復&破壊的絶対領域」
ぼんっ。鉋単にミノタウロスの足が弾けた。
「ぐおおおおお!」
このレベルの敵に、私のスキルの特性を気づかれたらおしまい。
私を避けながら高速で動かれたら、付いていけない。
「先手を一発だけ」
ルールを利用して左足を爆発させた。
あとは、華麗な攻防などない。
倒れたミノタウロスからトレントの枝を介して肉を奪い、ひたすら全員で斧を振り下ろした。
討伐が終了。
すると、ミノタウロスのオーラみたいなものが出てきた。
「卑怯でごめんね」
「いや見事なり。4000年ほどここにいるが、一発で戦闘不能にされたのは初めてだ。誇ってよいぞ」
「1800年前は?」
「お前の不思議なパンチとは逆に、何もダメージがなかった。なのに何時間も殴り合った末に負けた」
リポップしても、戦いの記憶は新しいレインボーミノタウロスに引き継がれるそうだ。
そして私の中にある不思議な力にも、ミノタウロスは覚えがある。
1800年前に1人で来た女性と同じ匂いがするそうだ。
「それ以上は分からぬ。では初回クリア報酬を持って帰れ」
レインボーミノタウロスが事切れるとダンジョンの初回報酬が出てきた。
「何かね。クリア人数とかで報酬が変わるんでしょ」
「大人数のときは、初級魔法が撃てる魔剣が人数分出てきたらしいよ」
「俺達4人だから、もっといいものかな」
「あれ?ナイフが4本だ」
刃渡りは15センチ程度。
黒い刀身で刃先が輝いているが、お宝と言うには小さい。
「切れ味は良さそうだね。ミノタウロスは硬いから解体ナイフになるかな」
「俺、刃先が七色に輝くナイフって初めて見た」
「愛用してるミスリルナイフより切れたらいいな」
ノエルだけは声が震えている。
「そ、それって・・」
言葉にならないノエルを連れてボス部屋を出て、発動した転移装置からダンジョンを脱出した。




