181 ミシェルの隠しスキル
それぞれの用事を済ませ、15日ぶりに4人が揃った。
「アイリス」再開。
ノエルがアマク伯爵家からお金と収納指輪2個をもらってきた。
これで全員が大容量の収納指輪持ちだ。
今回はジャバル特級ダンジョンの62階から再開。
まず62階から70階まで降りる。そして71階転移装置から一度は地上に出る。
休んで最後の計画を立て、72階から最下層まで行く。
それで4人そろって『特級ダンジョン攻略者』
一流の称号をもらう。
「ノエル、62階のミルクミノタウロスとコンデンス牛のレベルは125だよね」
「そうだよ。69階でレベル134」
62~69階のミノタウロスの大きさは2・4メートル均一。
だけど、どんどん硬くなる。ミスリル装備でも普通の斬撃じゃ通らなくなる可能性が大きい。
そんなことを言いながら、余裕がある。
ノエルに言わせると私の『超回復』がダンジョンで特に効果があるそうだ。
特級ダンジョンに入るのは、高ランク冒険者。
下層に降りる推奨最低人数はアタッカー5人、魔法使い3人、斥候2人。そしてヒーラーか大量の回復ポーションを持ち込む。
私達はDランク3人とEランク1人の4人だ。
私は当たり前を経験したことがない。
普通は戦うと疲れたり、傷を負ったりする。だから周囲を警戒しながら休憩を取る。そんで、セーフティーゾーンを見つけて眠る。
戦いをスルーするにしても、全員で高速で走るから、かなり疲労する。
休んで食べて、怪我を治す必要が出る。その間に物資をどんどん消費する。
そのすべてを私の『超回復』で解決できる。対価も、食べたり回復したりの物資と比べると10分の1程度。
戦いが長引こうが、戦いの途中で魔力が尽きようが、何とかできる。
眠気も空腹も飛ばせる。
生き物が出るダンジョンなら、等価交換の材料も現地調達ができる。
「ユリナ。一緒にダンジョンに入って分かったけど、回復スキルが有能すぎるわ」
「言いすぎだよノエル」
「下手したら戦争で、戦局をひっくり返せるよ」
「そんな大げさな・・」
「聞いて。自分で言うのもなんだけど、私やミールの魔法って強力でしょ」
「うん。間違いない」
「だけどね、私だと水の最大精霊魔法、アングリーアクエリアを撃てるけど、1日に2発が限界。クールタイムも最短で1時間くらいなの」
危なさに気付いた。ノエルのおかげだ。
ちなみに、ミールの火遁と風遁を合わせた「暴風華火」もクールタイムは1時間。
紛争では、兵士が道を開く。それから10人程度の上位魔法使いが1発だけ、大砲のような魔法を撃つ。
「だけど、ユリナがいれば・・・」
「だね。『超回復』を使えば、10人くらいの魔法使いを並べて、最大魔法を撃ちまくれるよね」
「その上、上位魔法を100発くらい撃つのに、対価はオーク1匹の肉くらいしか必要がない」
現時点でも、ノエルとミールの背中に私が手を当てて、攻撃。ミシェルが私の護衛。
その4人態勢で、貴族軍くらいでも殲滅できる。
私の今のまま、『超回復』は治療だけのスキルとしておかねばならない。
戦争をやる国の軍部に気付かれてはならない。
冗談抜きに、国同士の争奪戦が始まる。
だから、特に他国の商人や貴族を名乗る人間とは、接触を控えることにした。
今まで接触してきた人間にも、ギルド依頼で再調査をする。
自分でも思ってたより、『超回復』は怖い。
◆◆
62階では明暗が分かれた。
ミールとノエルが「明」、ミシェルが「暗」
まずレベル125のミルクミノタウロスとコンデンス牛が現れた。
最初はミールとノエルで拘束してミシェルが攻撃したが、ほぼ傷がつかない。
1・7倍のミノタウロス変換でも、ミシェルの攻撃力が足りない。
そこで作戦Bに変更。
ミシェルが「ダーク」で獲物2匹の目くらましをして、ノエルとミールが剣とナイフで首を連打。
ミシェルのスピンソードでトドメを刺した。
ノエルの見立てでは貢献度はミシェルが1割未満。
レベルは相手の125に対してミシェルは78。その差を考えても少ない。
そんでも、ダンジョンクリアまでいけばレベル85には達しそうだ。
このパターンを続けながら22時間で63階に降りた。戦闘は8回。
ずざっ。ミノタウロス撃破。
「ふうっ。ダメージが傷口からしか入れられないけど、なんとかできた」
「お疲れ。少し攻撃をもらったね。『超回復』」ぱちっ。
「ありがとうユリナ」
「ミシェルのレベル上がったかな」
「どうだろうミール。あれっ・・」
「どうしたの」
「頭の中に新しいスキルが浮かんできた気がする。ノエル、この現象は何なのか分かる?」
「もしかしたら、まれにある、スキル解放かも」
「なにそれ」
条件は厳しく、個人差もある。
適正の限界を大幅に越えたレベル上げ。特殊な討伐など、達成するまで分からない。
内容も、事前に知られることもない。
「ミシェルはレベル80が条件だったんだ」
「一般的な限界レベル30の闇属性適正Eで80か。普通なら達成できないね」
「それで、何のスキルなの。教えてミシェル」
ミシェルが大剣の刃に手を当てて、なぞるように動かした。
刃に沿って黒く鋭いエッジが付いた。
「闇の刃。何にでも纏わせられるし、飛ばせるみたい」
ミシェルの新スキル開花。
本人よりも私達3人の方が喜んでしまった。
次の戦いでいきなり実戦投入。
ミールとノエルでミノタウロスを拘束。牛は私がスライムパンチで一気に倒した。
ミシェルの「闇の刃」初戦。
がんっ。ミノタウロスの首に当たって弾かれたが、首から少し血が出た。
「よしっ」。私、ノエル、ミールは声を出した。
間違いなく使えるスキル。
相手はレベル126、物理特化のミノタウロス。防御力寄り。
こんなのに傷が付いた。
試さなくても解る。上級ダンジョンの豚どもでも、真っぷたつにできる。
「闇飛燕」。黒い刃は飛ばせる。こっちは、コスパ劇悪。
また指先にも小さく纏える。
使用限度がある。
現段階でノーマルミシェルが刃を飛ばすなら1日に30発。
大剣全体なら10分で魔力が尽きる。
致命傷を与えるのに20分かかる、ミノタウロスには届かない。
「と思うでしょ」
『超回復』ぱちっ。
私がいれば、ミシェルはスキル使い放題。
新スキルでミノタウロスを倒した。
もしかしたら、私も何かあるのかな。
レベルを上げていく。
強烈な、隠しスキルの解放があるんじゃない?




