168 不思議な昔話
オルシマに帰って6日目。教会の寄付のあと、ウイスキー、ラムの注文して、お金が尽きた。
なんと、ワインが買えなかったのだよ。
急いでギルドでノエルと一緒に捕まえたレベル70オーク10匹を出して換金。
そのとき、手持ちの有機物も大幅に減っていることを思い出した。
「そういや、イーサイドの長男達と戦って、大量の肉をミンチにされたんだった」
失った分の2割も補充してない。次のダンジョンアタックが厳しい。
ミールと初心者冒険者のお手伝いも終わった。
まだ、ミシェルとの合流までには2週間ある。
ミールと2人、ペルセ中級ダンジョンに行くことにした。
下層のデカいダチョウ狙いだ。
「じゃあミール、取り分は肉が多い私がダチョウ、あんたが値段が高いターキーね」
「オッケー。弟子達に一杯おやつを買ってあげられるよ」
パーティー内の不和の多くは金銭トラブルから発生。その点は、私達に関係ない。
ミールが面倒を見ている初心者冒険者は最初が3人。
現在は8人。「師匠」と呼ばれている。
久しぶりのミールとのユニット。
「アイリス」では特級ドラゴンダンジョンの10階までクリア。
いうなれば、この街のトップランカー。目立ってきた。
ダンジョン前でも多くの人に声をかけられた。
だけど今回は、2人だけで動くと決めている。
ただ、ルーティーンは欠かさない。
転移装置で最下層の40階。ダンジョンボス挑戦待ちのパーティーが3組。
ここは久々。知っている人が1組のみ。
知らないパーティーの中に重傷者が1人いた。
「あ、ユリナ様だ」
「喜べ、お前らの仲間は助かるぞ」
「何なの、この軽装の女の人」
説明はあと。
女性の右肩が根元から変な方向を向いている。
エールかけて、頭をつかんで『超回復』ぱちいい。
「うぷ、酒臭い」
「ジェニファー!」
すぐさま仲間が謝礼金を差し出した。その手も甲が血だらけだ。
袋でなく手をつかんで『超回復』ばちっ。
「あ、ありがとう、いや、ジェニファーの謝礼を・・。その上に俺まで」
「じゃあ、ここに11人いるから、あなたが小銀貨11枚ちょうだい」
「え?わずか11000ゴールドだよ」
「あなたのおごりで、ここにいる全員を治療するね」
その彼から1000ゴールド×11人分を奪い取った。治療完了。
そのままミールと39階に駆け上がった。
「ユリナ様、押しかけ治療師ってあんな風にやってたんだね」
「そっか、初めて見たのか。馬鹿っぽいでしょ」
「ううん、ますます尊敬した」
「やめてよ、恥ずかしいから。あははは」
ミールがちょっと真顔になった。
「ユリナ様は前世って信じる?」
「分からない。だけど、今はそういうのもあるのかなって思うよ。超回復の絡みだよね」
「うん」
昔話だった。
「凶信者部隊」のリーダー、ミハイルさんの話。
教会ができるきっかけになった、女の人の物語。
不思議な話だった。
初代聖女ユーリスも私と同じくスキルオーブだと想像できる玉から、スキルをもらった。
中身は『超回復』そっくり。
人を助けたいと望んで、ユーリスはスキルを手にした。
そして、アイリスという女の子と一緒に過ごした。
アイリスがピンチのとき、アイリスを害する者をスキルを使って皆殺しにしたという。
「ね、私達と共通点があるでしょ」
「だね。一緒に考えた「アイリス」。ユーリスの仲間の名前だったんだ」
「私は少女アイリスの生まれ変わりかもしれない」
ミールは笑った。
「もし生まれ変わりでも、今の方がうれしい」
「なぜかな」
「少女アイリスは力がなかった。だけど今の私はユリナ様とダンジョンに潜れるくらい強くなれた」
「ミール」
「なに、ユリナ様」
「ミールはアイリスじゃないよ」
ミールの頬に触れた。
「ミシェル、ノエル、私と一緒に家族を作る、ただのミールだよ」
「ユリナ様・・」
「前世がアイリスだったとしても、1800年ぶりに会えたんだとしても、関係ない」
ミールを抱き締めた。
「ただ、今のミールが大好きだよ」
だけど、甘い時間もそこまで。
「くえーーー!」
ここはダンジョン39階。4・5メートルダチョウ、体高2メートルターキー各2匹が突進してきた。
「もう、いいとこだったのに」ざくざくざく。ざくざくざく!
こんな場所でイチャつく私達が悪い。
逆ギレしたミールが怖くて、何も言えない。
最後に一緒に行動したときとレベルは変わらないはずなのに、技の切れが違う。
「裸になってちゅっちゅしたら、ユリナ様の子供が出来たのに」
「ミール、それじゃ子供はできない。それに私達女と女だよ」
誰が教えたのか、ミールは再び間違った性知識を仕入れてきた。
結局、今回の行軍は39階と38階を5日間周回。大型ダチョウ、ターキーを各73匹。
基本はミールがナイフで獲物の首を切って、私が回収。
レベルアップがほぼ望めないから、肉の保存を重視した。
18時間ぶりに休憩。
「ターキーの塩焼き美味しい」
「だね。オークもいいけど、ターキー最高」
「ウサギ、鳥、豚、ドラゴンパピーときたけど、まだ牛って食べたことがない」
「カナワで食べたよ。あれも良かった」
「それなら、ミシェルを鍛えるのは、牛ダンジョンにしようよ」
軽い私達。
オルシマから南西に250キロ、ジャバル特級ダンジョン。
ミシェルとノエルと合流したら提案する。
ミシェルの強制レベリングと牛、ミノタウロスの捕獲が目的だ。
いいダンジョンアタックだったけど、休憩中には正しい性知識を教える羽目になった。




