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ダンジョンで『』を手に入れました。代償は体で払います  作者: とみっしぇる


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162 ミールロケット

私は本物の愚か者だ。



ふらふらと海辺の街を出た。


ノエルは異変を感じたのか、私の手を取って離さない。


私は結局、自分のことばかり考えていた。


ミールとミシェルから逃げただけ、それで時間を置いたつもりだった。


そうすれば、2人がくっつく。頃合いを見て、自分が戻れば、適度な距離を保てる。


そのあと、2人と仲良くやろうなんて、勝手に決めていた。



ミールもミシェルも私の表情を見て、もっと深く受け止めていた。


私の『超回復』はとんでもないものだ。


小さな代償で瀕死の人間さえも全快にできる。


攻撃力まで手に入れて、超越者の方に足を踏み入れている。


ぽんぽんと人を治しすぎた。最初に秘密にしていた時に感じていた、自分のスキルの重みを忘れていた。


心から感謝してくれる人間の気持ち。私のことを深く考えてくれる人の気持ち。


さっぱり理解していなかった。


「優先順位を間違ってカミユを亡くした」


泣けてきた。


「フロマージュの治療を拒否してフランソワ夫人に一瞬でも絶望の顔をさせた」


そんだけじゃなかった・・


今度は、惹かれ合うミールとミシェルに、悲しい決断をさせた。


「一緒にいない選択」


しばらく海辺を歩いて、足が止まった。


「う、う、うえっ。私はまた最低なことをした」


あんなに私を待っていたミールが、簡単にミシェルを選ぶなんて・・


なんでそんなこと、思ってしまったんだろ。


ミールは、そんな脳天気な子じゃない。


「私と同じ街で暮らすことを、あんなに大事にしてくれてたのに」


「ユリナ、何があったのか話して」


私は子供のように泣いた。


ミールとミシェルのギルドカードを辿ったことを言った。


結局、私は自分が少しでも傷つかないために、物事を都合良く考えていた。


「ミールは1800年も待ってたのに。その私が傷つけた」


「1800年が何か分からないけど、早くオルシマに帰るべきよ」


「うん。オルシマには私を頼りにしている人もいるし」


「関係ない!」


「ノエル?」


「それも大切だろうけど、まずミールちゃんと向き合いなさい」


ノエルが私を、お姫様抱っこした。そして走り出しだ。


「スキルを手にして、まだ1年とちょっとでしょ」


政治家でもない。教育に携わったこともない。


そんな私が、人の人生なんて考えても答えが出る訳ない。


だから、頭を切り替えろって言われた。


自分の幸せを考えろって言われた。


「ユリナに助けられた人達のためと思いなよ。ユリナ自身が不幸になってたら、みんな自分の幸せのことを考えにくいよ」


頭の中はぐちゃぐちゃだ。


ノエルは私を抱えたまま、オルシマの方に進んでいく。


風の精霊を呼び寄せ、残り150キロもあるのに、時速80キロで進んでいる。


私を抱え、2人同時に運ぶ。魔力はどんどん減っていく。


30分。ノエルの魔力が尽きはじめた。


だけど私に、魔力のチャージも求めない。


私をミールの元に、少しでも早く運ぼうとしてくれる。


魔力の枯渇が近い。苦しい顔になってきても、何も言わないノエルを見て思う。


ただ私のため。


そんだけの理由で一生懸命なノエルがいてくれることが嬉しい。


「ありがとうノエル」


『超回復』


「やっと笑ってくれたね」


魔力が再び満タンになったノエルは、風の精霊に魔力を送り込んだ。


私を抱えたまま、わずか2時間で150キロの距離を移動した。



◆◆

午前中の日もそう高くない時間、オルシマに到着した。


早くミールに会いたい。


ギルドに行くと、初心者冒険者5人と薬草採取に行っているという。


「ユリナ、ミールちゃんを迎えに行こう」

「うん、そうしたい」


ノエルと2人で歩いた。

いつもの採取場所までは40分くらい。私達は手を繋いでいない。


ノエルは普通の全身ミスリルインナーに鉄の胸当て。マントを羽織り、ナイフだけ腰元に付けている。


私はミスリルワンピース1枚。


木々の間、薬草が沢山生えた草地に入った。



粗末な装備をつけた12歳前後の新人冒険者が5人座っている。


その真ん中でミールが串焼きを広げて振る舞っている。いいお姉ちゃんだ。



声をかけよう。そう思って見ていると、ミールも私に気付いた。



目が合った。



そして・・ミールの輪郭がぶれた。


どんっ!



私は吹き飛ばされた。


ミールが怒ってる?

攻撃を仕掛けてきたんだろうか。お腹にとんでもない衝撃があった。


「ごぽっ」。胸骨は折れて内蔵が破裂している。口から血が、込み上げてきた。


『超回復』ばちっ。


10メートル後ろに飛ばされた。草は吹き飛び、縦に土が剥き出し。


私は、草むらに仰向けに倒れた。


そのお腹が重い。



なんとミールがくっついている。


攻撃じゃなく、ミールの全力ハグだった。


「ユリナ様、いきなり走り出して1か月もどこに行ってたんだよ」

「ごめん、ミール」


私のお腹にはミールがぴったりとくっついている。私を見たミールが我を忘れ、飛び付いてきた。


ただし、勢いがとんでもない。


推定HP700プラス、職業「ニンジャ」で補正されたスピード。


HP200弱の私は、ランドドラゴンの突進を食らったくらいの衝撃を受けた。致命傷を負ったようだ。


「もう、ユリナ様の馬鹿」

「は、離して。かなり痛い」


「嫌だ。逃げるから嫌だ」


ぎゅう~~~。ばきっ、べぎっ、ぺきっ。


『超回復』『超回復』『超回復』『超回復』


ミールの遠慮のない、愛情たっぷりの高ステータスハグ。


『超回復』のコール音、肋骨が折れる音のアンサンブルが、私の頭の中に鳴り響く。


普通、死んでるよね・・



それよりも大切なことがある。


「ねえミール、ミシェルは一緒じゃないのね」

「うん。ユリナ様がどっか行っちゃった日に、2人で話をして別れた」


ミシェルは今、私が前に助けたDランク冒険者、ケインさんのパーティーで面倒みてもらっている。


「あの日の私が原因?」


「・・当たり前じゃん」。胸が痛んだ。


「ふーどこーと」開業の日、一緒にいたミールとミシェルは間違いなくお互いに好意を持っていた。


今は笑ってくれるミールだけど、どんな思いでミシェルと別れて1か月間を過ごしていたのだろうか。



「ごめん、ごめんよミール。私が壊した。ごめんよミール」


私は泣かずにはいられなかった。




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