153 お試しコーレム
ノエルと一緒に行動して3日目。
魔の丘を越え、魔の森に入った。
同行者は、ドラゴンダンジョンに一緒に入ったミールよりも高ステータスのノエル。
「魔の森」中央部は魔物のレベルが一気に上がるそうだが、不安は感じない。
「魔の森って何が出るの、ノエル」
外縁部は魔の丘のオーガ、オーク、オオカミの高レベル版。
中心部にはゴーレムが出る。
世界的にも珍しい野良ゴーレムだ。
ここの中心部に国内唯一の、「超級」に指定されたダンジョンがある。
通称・魔の森超級ダンジョンには、ゴーレムばっかり。
その影響らしい。
学者によると、ここだけは例外だそうだ。
超級は伊達ではない。
ダンジョンの魔力の素が強すぎて、外で自然ゴーレムが発生するらしい。
魔力の素が薄くなれば、ゴーレムも動けない。
たがら、行動範囲はダンジョンの出入り口から1キロ。ここが活動限度。
近隣の村が襲われることはない。
ダンジョンから漏れる魔力の素。ここでは、ストーンゴーレムのみ発生。
ミスリルのコアに石が付いて、馬鹿みたく固い。レベルは110。
「野良でレベル110のHP1800越え?」
「ダンジョン内に最初に出てくるウッドゴーレムで、レベル135あるのよ」
だから、おまけでも強力。代わりに固さに特化していてスピードはない。
「ノエルも戦ったことあるんだ」
「伯爵軍で10人で来て、ストーンゴーレム1体を倒すのに3時間かかった」
ダンジョン突入は不可能と判断。入り口で撤退したそうだ
「ちょっと寄ってく?」
「親指クイって。酒場で一杯やってく、みたいなノリね」
「てへへ」
「褒めてないよ。勝算は・・あるよね。ユリナなら」
「防御力無視の「スライムパンチ」なら効くと思う」
撃つ材料のスライムも334発分ある。
「あの、ユリナの体が一瞬だけ透明になった技ね。ワイバーンのアゴを砕いた、絶技ね」
◆◆
超回復走法は封印中。「魔の森」を抜けてから、使うことにした。
たまにノエルに手を繋がれたけ。
半日かけて「魔の森」の中央に到着した。
途中、レベル90クラスのオーガ、オオカミと29回で計75匹。
ノエルが風魔法でザクザク。私が超回復の魔力チャージ。
話をしながら通常モードで倒し続けた。
お土産ゲットかな。
「ダンジョンに1か月くらい潜りたいけど、伯爵様やフランソワ夫人に早く元気な姿を見せなきゃダメよね」
「今回は検証だけね」
私のスキルがストーンゴーレムに通じるか確認するだけ。
ゴーレムは例外なく、胸の中央の奥深くにあるコアが弱点。
時間を置けば再生する魔物。コアルームからコアを抜き取るか、傷つければ倒せる。
ただ弱点といっても、簡単には壊せない。
ここで最弱のストーンゴーレム。
こいつでさえ、コアを守る胸部分は、ミスリルプレートを10枚重ねた防御力。
それを削って、剥き出しになったコアを抜き取る必要がある。
もちろん相手は動くし、攻撃する。
コアは純度100パーセント。そのままミスリル製品に精製できる。
ここのやつは、1体で100キロ取れる。
100キロは多いように見えても、10人で倒せば分け前は少ない。
このへんは、問題なし。スライムパンチで倒せるなら、私にはご馳走だ。
1体目が出た。
試しにノエルが「サラマンダー」を撃った。
私は離れてたのに、熱波で髪が焦げた。
それほどの熱量でも、4メートルゴーレムの胸が10センチ奥まで溶けただけ。
「ノエルの魔法でこれか。私も試してみる」
素っ裸になった。ノエルがガン見しているから、ちっと恥ずかしい。
スライムを出した。
ノエルの風の精霊術でゴーレムの胸に向かって飛ばしてもらう。
激突する寸前に「スライム変換」した。
「見てて。私の最大破壊技よ。スライムキック!」
私はゴーレムにドロップキックした。
青いスケルトンに変身し、ゴーレムの胸に足から吸い込まれる私。
実際は、水の膜がゴーレムの表面で、砕けただけなんだよね。
ノエルは、すごく驚いている。
距離は20メートル取ってもらっている。
自分の体が胸まで砕けたところで私は叫んだ。
「スライムキーーック!」
『超回復&破壊的絶対領域!』ごっ。
私の柔肌がガチガチのゴーレムボディーの中に再生された。
そしてゴーレムの方が弾けた。
音は低く鳴った。
胸に穴が空いている。亀裂が体中に入っている。
裸でドヤ顔。仁王立ちの私。
「す、すごい。すごいけど・・」
「すごいけど?」
「戦利品のコアになってるミスリルまで、粉々に砕けて四方八方に飛んでいったね」
「あああ。しまった。ごめんノエル」
ゴーレム系の魔物もスライムパンチで攻略できることが分かった。
ミスリルはもったいなかったが、大量ゲットの目処が立った。
スライムパンチからの『超回復』で90センチに縮んで、裸のまま思案していた。
すると。
「やーん、ユリナ可愛い。しばらく今のままでいようよ」
だぼだぼのワンピースを着せられ、抱っこされてしまった。ミールと同じ反応だ。
ただ、ミールと同じようで、伝わってくる感触が違う。
胸に頭を抱えられて、優しいタッチだ。
小さな子供を育てたことがある人の抱き方だと思った。
私が小さな頃、死んだお母さんに抱っこされたときのこと、思い出してしまった。
両性ノエルの男の部分をみじんも感じさせなかった。
心地良すぎて、思わず抱き返してしまった。そして余計なことを言った。
「・・ノエル、これは恋人ハグじゃないからね」
「分かってるよ。昔を思い出すから、もうちょっと抱かせて。ふふ」
ほんの一滴だけど、暖かいしずくが、私のほほに落ちてきた。
「涙・・。昔って・・」
「ぶももももも!」
聞き終わる前に推定レベル100オークソルジャーが接近してきた。
「もうっ、邪魔よ」
ノエルが私を抱えたまま風属性の「シルフダンス」をぶっ放し、そこで話は中断されてしまった。
そこから急ぎ足で進み、遭難してからだと5日目。
私達は「魔の森」の中心部から南下してワイバーンと戦ったカロ男爵領にある草原まで戻ってきた。
森の浅瀬で腹が焼け焦げたワイバーンを見つけたから、収納しておいた。




