15 泣いてる暇もない
私の『超回復』は、莫大な金を生む可能性がある。
だけど、使い方が難しい。ダンジョンを出る前の目論見が外れた。
信頼できる後ろ楯があれば別だか、当然持たない。
有力者といえば王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、それに騎士爵の貴族。
このダータル王国に何人いるのか知らないし、ツテの作り方も分からない。
貴族に頼る線なんて初めからナシだけど・・
誰が味方になってくれるとか、どうやって調べればいいんだろう。
信頼できる人間さえいない。
いや、なくした。
復讐を遂げても、復讐のその先が見えなくなった。
私の希望。
それは、私と同じくスキルを持たない3人と共にあった。
今ならお金を稼げる。私が出資して、4人の目標だった食堂を開ける。
「みんなで笑いながら、明日のパンの心配をしないでいい生活ができるのに・・」
モナは間違って自分にスキルが発現したら、みんなで幸せになろうって言ってた。
けど、もうモナはいない。
『超回復』は、目の前で苦しむナリスを助けたくて、願って手にした。
なのに、ナリスを復活させられなかった。
一番ウマがあったアリサ。
彼女も焼かれてしまい、もういない。
「うっ、うっ、うえっ。みんな、ごめんよ、寂しいよ・・」
どんっ。ぐえ。
泣いてたら、後ろからものすごい衝撃を受けて宙を舞った。
最近は危機感がなさすぎる。
宙を舞いながら周りを見る余裕もできた。
「この辺では見かけないミドルボアだな」
目が回ってきた。
私が泣いていた場所は、回復実験をした魔物が出る草原。
そこで突っ立っていたのだから、当然の結果だ。
ミスだね。
ごしゃっ。頭から落ちた。
『超回復』
「もう痛くない。ありゃ~。お尻に直撃して、ミスリルふんどしが乱れてるよ」
乙女だ。
誰も見てなくても、ふんどしを締めて、大事な部分を隠した。
またも、ボアアタックを食らった。
3度目の突進。
ボアの牙を正面からつかんでみたが、体高1・5メートルの弾丸。
両足を牙で貫かれ、両腕は頭突きを食らって粉砕骨折。
腹から吹き飛ばされて、何メートルも飛んだ。
『超回復』
「ふう、身長15センチ減。やれるかな・・」
1つだけ技を考えている。
ボアが4度目の突進をしてきた。
私はボアの右目を狙って、右手指を伸ばした貫手を放った。
「略奪拳!」
私の必殺技だ。
体が『超回復』の修復機能で縮んでから出す技になる。
生き物に触れ「等価交換」で接触した場所から肉や骨の成分を奪う。
その接触を貫手で行い、強制的に弱くされた部分に指を押し込む。
ぱきっ。ぐにいいぃ、ぐじゅっ。ドガッ。
『超回復』
私は勢いが付いたボアの体に直撃して、再び宙を舞っている。
「相討ちなら、勝ち。私だけの反則技だな」
成功したかな?なんて考えると、人の声がした。
「お姉さん!ボアに正面からパンチなんて無茶よ」
「大変だ、助けろ。行くぞオーグ」
「ん」
他の冒険者がいたようだ。
起き上がって見ると、私より若い3人組で、剣持ち男、斧持ち男、弓持ち女の構成だ。
剣持ち君が、私とミドルボアの間に入ってくれた。
弓持ちちゃんと斧持ち君はセットでボアへの警戒体制に入った。
「お姉さん、立ち上がって大丈夫?」
「心配してくれるの?ありがとう。当たる瞬間に飛んで衝撃を軽減したから、大丈夫」
「いや、どう見ても直撃だろ・・」
「危険」
「そうだよ。ボアはまだピンピンしてますよ」
「・・ああ。もう倒したかも」
私の声を合図にしたかのように、ボアが倒れた。
「超回復、等価交換コンボ」で顔面の筋肉を奪いながら、眼窩の奥に手をねじ込んだ。
比較的薄い眼底骨を割って、頭の中から栄養を吸い取った。
「え?あの一撃で倒したの?」
「素人パンチにしか見えなかったぞ」
「驚異」
スキルを使った「略奪拳」。気功術のようなものが出来上がった。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/506718241
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