148 ワイバーン討伐開始
ノエルに、ただ抱かれて眠った。
なのに、久々の深い眠りだった。
目を覚ました。
ごつごつの地面にノエルが背中を付けて、私を抱いてくれていた。
身長168センチのハーフエルフは、ぷっくりした素敵な唇を持っている。
私のまくらになったふかふかのおっぱいもついている。
そして密着した股間には、立派なものもお持ちだ。
むに。うむ、確かにある。
だけど甘い言葉も吐かず、男の部分で何かした訳でもない。
一晩、だっこされていただけ。だけど、なぜだかすっきりしている。
「起きてノエル」
「う・・いてて。そうだ、ユリナを抱いたまんま寝たんだった」
「小石だらけだよ。馬鹿だね」
「そっちも実直な馬鹿だから、ちょうどいいよね」
「・・けど、ありがとう。『超回復』」
ぱちっ。
「うん。さんきゅ。だけど、今日は決戦の日だよ。貴重な回復スキルを温存した方がいい」
「大丈夫だよ。1日に1万回くらい使える」
「そんなに・・。ほぼ無限なんだ」
「頭が潰されなければ、どうにかしてあげる」
「へえっ、て、やばっ。もう集合時間だよ」
「急ごう」
◆
ギリギリセーフ。
2時間後、作戦の準備を整えた。
私は草を刈った牧草地の真ん中。
手足を縛られ積み上げられたオーク達の上に座っている。
裸は覚悟。開き直って、一番安い鎖かたびら1枚だ。
「臭い。ワイバーンやっつけるまでの辛抱。けど臭い」
1時間ほど待ったころ、大きな2つの飛翔体がやってきた。
それに、たくさん小さな人型の鳥。
ワイバーンは2匹。
プラスして、150センチの女の子に羽と嘴を付けた魔物。ハーピーが100以上いる。
「情報通りワイバーン2匹だ。1匹はユリナ殿、頼む。もう1匹はイツミ伯爵家で受け持つ」
「残りは、3人ひと組でハーピーに当たれ。魔法部隊、魔法を準備せよ」
「今回はユリナ殿がいる。怪我をしたら、必ず呼べと言われている。絶対に遠慮するな!」
「全員、布を被って隠れよ。ユリナ殿の戦闘開始が、始まりの合図だ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
縛られたオーク達の上に座る私以外は、動きが洗練されていて美しい。
ワイバーンが速度を下げた。2匹とも、私と生け贄オークの方に来た。
私は自分を捕まえた方と戦う。
残る伯爵軍アタッカーは全員で、もう一匹に当たってもらう。
今は『超回復』に絶対的な信頼を持っているから、接近戦に持ち込むだけ。
立ち上がってみた。
「最初に私に食いつくんだよ。間違わないでね」
「きゅええええええ!」
「さて、スライムパンチ用意・・・」
食われた瞬間に、「スライム変換」「スライムパンチ」『超回復』「等価交換」と思っていた。
だけど、誤算が起きた。
私の近くにいる危なさを言っておいた。
なのに、3人の若い子が、血相を変えて助けに来ている。
命令違反だけど、きっといい子達なんだろう。
「カミユ、あんたみたいな子が、ここにもいるよ」
ワイバーンのアゴも頭蓋骨も「スライムコンボ」で吹き飛ばす自信はある。
だけどワイバーンの骨や牙の固さはミスリル以上。その破片が高速で飛び散ってしまう。
私のことを助けようと走る子に当たって、即死するかも知れない。
だから、まだ攻撃はできない。
「また、こんなことを考える余裕が出てきた」
ばくっ。「ぐえ」。
マッハの速さで飛んできたワイバーンが着地し、見事に食いつかれてしまった。
「ユリナさん」
「まずい、お助けせよ!」
私をくわえたワイバーンは再び飛ぼうと羽ばたいた。
その風圧に助けに来た子達が転がっていった。
「よし、今だ」。右肩からくわえられているが、『超回復』がオートで働くから、意外に苦しくない。
「スライムパンチ&等価交換×4」ぱーーーーーん。ぱん、ぱん、ぱん。
ワイバーンの口が弾けた。下顎を完全破壊。ついでに栄養も同じ場所からもらった。
追加で肩口に「スライムパンチ」。
左の翼の根元を折って飛べなくした。
「よし、一匹目。あとでとどめ、誰かお願いします」
「うそ」
「まだ1分だぞ」
「ワイバーンがボロボロだ」
「ユリナさんが裸だ!」
2匹目のワイバーンを見ると、まだ滞空している。
1匹目が地面で転げて回るのを見て、私を警戒している。
私から150メートル。謎の攻撃が待っていることが分かる知能はあるようで、距離を取られた。
隙あり。
伯爵家討伐隊の魔法使いが牽制して、怒ったワイバーンが、そっちに降りた。
すると弓持ちがアンカー付きの矢を放ってワイバーン右足をキャッチ。
その、地面とワイバーンを繋ぐ縄に、ノエルが水の魔力を流して拘束を強化。
そっから剣と槍の出番だ。
なにげにノエルが、空飛ぶ獲物を逃さないように、大事な役割を担っている。
風の魔力を帯びた羽ばたき攻撃で抵抗するワイバーンに手こずっているが、それも計算済みらしい。
私は自分の獲物を素早く無力化できた。
次に誰のアシストをするかと考えたとき、後ろから悲鳴が上がった。
2つの男爵軍は計180人。
3人単位のユニットでハーピー1匹に対応する作戦。ユニット60に対してハーピーは100以上。こちらの方が危険になってきた。
まだ倒せたハーピーは10匹程度。人間側は倒れていないが、危険性を感じる。
さっき助けに来てくれた男子3人ユニットが、ハーピー4匹に攻められピンチだ。
「待ってて。ランドドラゴン変身!」
10メートルランドドラゴンの鱗で自分を強化し、トレントの枝を出して必殺コンボ。
誰も理解できない戦い方で、4匹のハーピーを墜落させた。
ノエル達を見るとワイバーン相手に堅実に戦っている。
しかし安定しているのがここだけ。周りがまずい。
開けた戦場に空飛ぶハーピー多数。散開して敵味方が戦う状況だ。
ダンジョンのボス部屋やモンスターハウスのように、普通なら絶望的なフィールドの方が得意な私。
「こりゃ、私の『超回復』が十分に威力を発揮しないな」
少しでも手助けしようと思い、怪我人の方に向かって走った。




