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ダンジョンで『』を手に入れました。代償は体で払います  作者: とみっしぇる


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142/188

142 等身大のユリナ様

死なないと約束したくせに、カミユが約束を破った。


血まみれのカミユに『超回復』を何時間唱えても、何も言ってくれなかった。


ごめんよカミユ。何も求めないようなことを言って、ミシェルに愛して欲しいなんて願ってしまった。


「モナ、ナリス、アリサの3人に大切な人を助けるって言ったのに・・。あっちを優先したから、バチが当たったんだ」


もう「凶信者部隊」のみんなも、私の無力さを知っただろう。


「みんな、ごめんね。私にはカミユを助ける力があった。なのに、間に合わなかった。ごめんよ」


抱き締めたけど、カミユの体は冷たいまんまだ。



◇◇教会暗部ミハイル◇◇


今、ユリナ様が俺達に謝りながら泣いている。


なぜ謝るのだ。


彼女は悪くない。


カミユの死の責任があるのは、本人、ダンジョン行きを許した俺だ。ユリナ様に何の責も及ばない。


なのに泣いてくれた。



イーサイド男爵家、カナワ領主の三男とのトラブルの際、我々が微力ながら手助けしたあと、「凶信者部隊」を受け入れていただいた。


カナワの街ではオルシマ帰還後に、闇属性の信者達を集めて焼き肉パーティーを約束をしてもらえた。



その時、少しのぞかせる悲しそうな表情が気になり、次の日から同胞に「暁の光」護衛を任せユリナ様を追った。


キセの街で見つけた。


しかしそこから、走り出した。時速40キロ越えのハイペースからスピードが落ちない走り方に1度は引き離された。


だが、しばらくすると、目に涙を浮かべながら戻ってきた。またもハイスピードで。


そして道を逸れて林の中で転がって泣き出した。


めまぐるしい。何が起こったのだろうか。


いけないと思いながら聞き耳を立てると、ミシェルに失恋したようだ。


イーサイドとのトラブル時に救出した、ミシェルに好意を寄せているのは知っていた。


それすらも、愛する「妹」ミールのためにあきらめるようだ。


オオカミに食いつかれても気にせず、1人で泣いていた。



ようやく泣き止んでキセの方向に向かったが、いきなりホセが現れてユリナ様をダンジョン前に連れていった。


追っていくと、新参ながら頑張っていたカミユが死んでいた。


ユリナ様も分かっていただろう。


しかし、カミユに回復スキルを使い続けてくれた。


そこにいるのは、感情のコントロールも出来ない1人の女だった。


聖なる光も発しない。


時にカミユを罵倒して、カミユに謝って、効果がない回復スキルを使い続けた。


何時間もカミユのために回復を唱えてくれた。


ずっとカミユを抱き締めてくれた。


ホセ達がカミユの亡骸を受け取ろうとしても、抱き締めて離さない。


ただの、母親のようだった。



我々が勝手に作り上げていた「清貧聖女像」と、かけ離れている。


普段の飄々とした姿はどこにもない。


まだ大した関わりもないカミユのために、本気で泣いている。


この人は、何者なんだろうか。


数人の同志が気づいただろうが、ユリナ様はスキルを「拾ったオーブ」にもらったと言った。


1800年前、初代聖女ユーリス様は女神マリルートより玉、要するにスキルオーブのようなものを託され、回復スキルを手にした。


私は同志ミールと話すチャンスがあったとき、驚きの事実を知った。


ユリナ様とミールのパーティー名は「アイリス」


ユーリス様に付き従った少女アイリスの名前と同じた。なんという偶然なのか。


そしてユリナ様もユーリス様と同じく『』の中に、他人を治すための回復スキルを望んだ。


ここまでの偶然はあるのだろうか。まさか、「名もなき神」とは・・


ユリナ様は泣きながら、自分を偽聖女だと言う。



確かに彼女は聖職者のイメージとは、かけ離れている。しかし、極限の中で他人のために回復術を選んだ。


ユーリス様の死後、『』に望んだスキルが入るオーブを見つけた人間は何人かいたと思う。


選んだのは、自分のためだけに役立つスキルだっただろう。


当たり前だ。


だけど思う。


状況に迫られたと言ったが、他人のためにスキルを願ったのはユーリス様の次は、1800年の時を経てユリナ様が2人目だったのでは、ないだろうか。


再び言うが、ユリナ様は自分が聖女ではないと言う。


聖女とはなんなのだ?


現実に私が育てた弟子も含めて闇属性、魔力ゼロの虐げられた人間が何人も救われた。


最近も、悲しい気持ちを押さえてカミユ達を励ましてくれた。


この方の力は強力だ。


元が弱かったユリナ様は工夫を続けている。


スキルの応用方法を見つけ、ドラゴンでも相手にできる力を身に付けている。


望めば、支配者の一角となることも可能だろう。


それを知る私達の前で、弱い闇属性持ちのカミユの死を嘆いている。


心が強くもない、ただの女だ。


俺はもう、「聖女像」に幻想を抱いていない。


だけど言わせてもらう。


「俺は探し当てた」


この人のため、命をかけてもいいと思える、本物を見つけた。


悲しみを抱え切れず、耐えられなくなったら泣く。貴重なスキルの垂れ流しで、善悪の区別も適当だ。


マルコ達には悪いが、ユリナ様は深い思慮など持たない。ただ思うままに、回復と破壊を繰り返している。



教会の勝手な判断に照らし合わせると、彼女は「偽聖女」だ。



彼女は聖女にあるまじき、殺人もためらわずに遂行する。


俺は初代聖女ユーリス様が時として「人間」に対して鬼になったというのが、信じられなかった。



たが、今では信じられる。


ユリナ様が強大な力を得たことを自覚し、時に同じ人間を殺めてでも、守りたい人間を守ろうとしている。


その守る者の中には、虐げられてきたカミユも入っていた。


ユリナ様、ここにいる闇の子達は、カミユを亡くした悲しみを感じています。


同時に、カミユに注がれた愛情も、ひしひしと感じています。


カミユの最期は、闇の子の間に伝わっていくでしょう。


ユリナ様、迷惑かもしれませんが、これからなお、あなたの元を訪れる闇の子は増え続けると思います。



どうか、受け入れてやって下さい。




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