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ダンジョンで『』を手に入れました。代償は体で払います  作者: とみっしぇる


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140 失恋

カナミール子爵家の三男は行方不明になった。


フロマージュのこともあり、子爵家の第一夫人、長男、次男は怒っていた。


第三婦人と三男が、第一夫人の系列を暗殺する計画も立てていたのも子爵に漏れたそうだ。


第三婦人は地下牢暮らしが待っている。


少し話をした長男が、私の目を見て呟いた。


三男は魔法適正が高く、今後の懸念材料となる。だから生かしておく選択肢はないと。


私が乗ると思っただろう。


ほら、しっかり乗ってやったよ。


リュウを殺し、マヤを不当に拘束して汚そうなんて許さない。


守る者を決めた人間は、時として手を汚す。私もそっち側だったようだ。



私は街道を歩いて、オルシマの方に向かっている。弱い闇属性持ちのカミユ、ダン、マイクの3人と一緒だ。


3人は「新たな聖女を中心とした布教活動」をするため、オルシマの隣のキセの街に行く。


私も立ち寄る。


新たな聖女とは、どんな人物なのだろうか。


当然、聖魔法の使い手だよね。反則スキル使う、酔っぱらいじゃないよね。


日暮れ前にキセに到着し、料理屋で酒を汲み交わしている。3人は強引に連れてきた。


「ユリナ様、私達も腐った教会上層部に苦しめられる人を助けるため、全力を尽くします」


「だけど無茶したらダメだよ」


「はい。弱い僕達の強化と訓練のため、ミハイル様が上位戦闘職の兄弟子を付けてくれます」


「頑張るのはいいけど、3人ともご飯は食べてる?お金がないならドラゴンパピーをあげるから遠慮なく言いなさい」


「お母さんみたい、ですね」


「そうだよ。私がお母さんだから、それを忘れちゃダメだよ」


「お、お母さんですか」


「3人ともスキルには恵まれてないよね」

「・・はい」

「・その通りです」


「人には向き不向きもあるよ。精鋭揃いのミハイル部隊で限界を感じたら、私のとこへおいで」


「オルシマに行っていいのですか」


「もちろん。私や魔力ゼロの子で「ふーどこーと」を始めた。そこを手伝いながら、別の道を考えてもいい。力を付けたいなら、私のスキルで多少の手助けもできる」


「僕らがそこまでしてもらうわけには・・」


カミユの頭を抱いた。


「私は、してあげるよ。私の子になったよね。もう撤回できないよ。用がなくてもいいから、オルシマにもおいで」




「必ず、オルシマに行きます」


夜中まで、3人と酒盛りをして、これでもかってくらい乾杯をした。


◆◆


次の日の朝、みんなと別れて1人でオルシマに向かって走り出した。


「超回復走法」で距離を稼いだ。自分の街に帰る。


カミユ達を強化してあげようかと考えたが、ミールにもミシェルにも会いたくなった。


多くの人が私を歓迎してくれる街。あそこに帰りたくなった。


「カミユに夕べ、ちょっと期待させたし、一緒にダンジョンに行かず悪いことしたかな・・」


快調に走っていた。


けれど。


けれど、足が止まった。オルシマまで残り10キロ。


このまま走れば15分で街にたどり着く。


そこにミールとミシェルが迎えに来てくれていた。


いつ帰るとも言ってないのに、察知してくれた。


2人が私に手を振っている。



2人で手を繋いで。


うれしいはずだ。望んだはずた。


なのに、足が動かない。




昨晩、カミユ達と騒ぐのは楽しかった。


私が希望を与えてくれると言われた。


本当はそんな人間じゃない。


けれど『超回復』で助けた人の中には、心が傷ついた人間もたくさんいた。


ちょうど良かった。


色恋沙汰とか言ってないで、「仮聖女」活動をやろう。


いずれ化けの皮がはがれるにしても、少なくともミールからこっち、半年ちょいで助けた闇の子供が立ち直るまで頑張ろう。


そう思った。


しばらくすれば、また新しく傷ついた子が来るだろう。


その頃には、ミシェルとミールも今より仲良くなっている。


私は孤児の面倒も見よう。


その頃には、ミール達も結婚してるかな。


魔力ゼロでも、弱いスキル持ちでも、私を頼って来た子には満足な愛情は与えられなくても、生活ができるように手助けしよう。


その頃には、ミールとミシェルの子供も産まれてていて、幸せな家庭を作り・・



無理だった。


思わず私は、2人とは反対方向に走り出した。


「2人の幸せを祝福するね」


決めていた、たった、その一言が出ない。


それどころか逃げた。


最低だ。


これでミールもミシェルも、私の本当の気持ちに気づいた。



何のため「大好きなリュウに会いに行く」。そう言った。


私が近くにいて、ミシェルに好きな態度を見せれば、ミールも気付く。


そしたらミールは私のためにミシェルと距離を置く。


いまだにミールは私が優先順位一位だから間違いない。


そんな悲しいことをして欲しくないから、動いたのに。


自分で台無しにした。



お互いに納得してリュウと友人になれそうでも、距離が縮まったリュウとマヤを見て、胸が傷んだ。


そしてミール達を見たら、決めていた対応ができなかった。


「ダブル失恋」は小さな私の心では耐えられなかった。


走った。


最大時速60キロで走れるミールが追ってくるけど、まだ弱いミシェルに合わせているから遅い。


私の全開45キロ走法には付いてこれない。



街道を2時間も走ると、西への林道が視界に入り、体がそっちを向いた。


そのまんま誰もいない草地に入った。


草の上に寝転がった。


「うえっ、ううう。う・・・ミールとミシェルが幸せになれそうなのに・・。祝福しなきゃ。笑わなきゃ。逃げた言い訳を考えなきゃ・・。だけどなんで、こんなに寂しいんだよ、悲しいんだよ」


誰もいない。ここでしか本音を漏らせない。



ずっと泣いた。




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