126 『ふーどこーと』開業
イーサイド男爵家次女を殴ってスッキリ。
ミールとミシェルと合流した。
彼女たちの顔を見ると安らぐ。
苛立った気持ちがすごく収まっていく。私の癒やしなのだ。
まだ3人で行動したい。そろそろ時間もきたし、オルシマに帰って別の仕事をしなければ。
1か月を優に過ぎるくらいオルシマを離れてた。
「ふーどこーと」計画はサルバさんがいるから大丈夫だ。
ただサーラ、カミーラ、タルモが義理堅い。
開業準備が整ったら始めて欲しいと言ってる。
だけど、私が帰るまでオープンを遅らせる可能性が高い。それでは申し訳ないから、開業まで見届ける。
で、私とミシェルは「超回復走行」。
ミールはほぼ素のままで3時間ほど走りオルシマに到着した。
◆◆◆
案の定、「ふーどこーと」は準備が整い私待ちだった。
申し訳ない!
スマトラさんが提供してくれて、サルバさん主導で改装した体育館のようなスペース。
一辺が40メートルある四角いスペースに12の店舗。まだ増やせそうだけど、最初は12だ。
屋台形式なので持ち帰りもOK。
「ふーどこーと」中央で200人ほどが飲み食いできるよう、椅子とテーブルが設置してある。
掃除なんかに、家庭に事情ありの子供冒険者も雇ったそうだ。
「どうです、ユリナ様」
「すごいサルバさん。想像以上だよ。本当にありがとう」
「ここまでこれたのは、サーラ、カミーラ、タルモの3人も朝から晩まで頑張ってくれたお陰ですよ」
「そんなの当たり前です。サルバさんやユリナが助けてくれなければ、何もできなかったわ」
「そうだよね。サルバさんがすごく頼りになるし。劣等人の私達なのに、すごく大事に扱ってくれるし・・」
「・・ユリナ絡みだから、使命感だと分かっていても、勘違いしそうになるよ。へへへ」
あれれ、だよね。
3人とも顔が赤い。サルバさんも心なしか緊張している。
声に出さないようにしたけど、フラグが立っているのではないだろうか。
リュウと添い遂げられなかった恋愛経験が乏しい私だけど、彼女達の気持ちが分かる気がする。
店舗のオープンは2日後に決まった。
恐らく待たせてしまった。
お店もタルモ達と同じ魔力ゼロの人間や、弱い闇属性の人ばかりが出店する。
主力の3人は串焼きの店。あとは酒、スープ、干し肉、シチュー、南方の料理などが出ることになった。
各店舗に、ドラゴンパヒーを一匹ずつ提供した。それがお祝い。
「良かった。やっぱりみんな私の帰還を待ってたんだ。そんなに迷惑をかけてないよね」
店舗のテナント料は月に3万ゴールド。それを「ふーどこーと」の維持費にあてる。
払えない人は無期限で待つ。
彼らが借金を背負ったりしたら、本末転倒なのだ。
本来は商売なんてリスクが伴う。
そんな常識は無視。
私が消滅せず、今の力を行使できる限り、誰でも甘えさせてあげたい。
だって縁があって私の元に来た子たち。
すでに十分すぎるほど苦しんだ人間が大半なのだから。
「アリサ、モナ、ナリスの3人にやれなかったことをやるだけの自己満足なんだけどね・・」
サルバさんが違った意味で、監査をしてくれる。
経営状況が悪い店の人間は、私が強制的に「ダンジョン送り」にする。
そしてビッグウズラやターキーで運転資金を稼がせる「ユリナ式スパルタキャンプ」を実行するのだ。
◆◆◆
2日後。
いよいよ「ふーどこーと」がオープンした。
私はあくまでも傍観者。
座っている場所はもちろん酒を出す店の横。
そこだけは譲れない。
フードを被ってエールを飲んでいる。本当は強い酒がいいけど、今日くらいは自重している。
思った以上に盛況だ。
私とダンジョンで知り合った人達も来てくれてる。
挨拶したいけど、自重。
私はEランク冒険者に降格してから、貴族家から勧誘されるようになった。
自分でも『超回復』を隠さず見せてしまったから仕方ないと思う。
だから、「ふーどこーと」計画に関わっていることを大っぴらに知られたくないのだ。
今回、オルシマに帰ってきてから2つの貴族から打診があった。
イーサイド男爵家との確執が収まるまで有力者と関わらない。
治療の依頼があっても受けない、それは言っておいた。
基礎ステータスの低さに反する討伐履歴の凄まじさ。
私の特徴が、勧誘する人たちにも浸透してきたようだ。
つまり、とんでもない大砲を持っていると。
最初に接触してきたナントカ伯爵家、イーサイド男爵家が武力で私を制しようとしたが、返り討ちにした。
さすがに貴族の使いも慎重になっている。
ミールとミシェルが一緒に来て、テーブルに座った。
この2人はすごく仲良くなった。
いや3人で仲良くなった。
だけど私は、人の道理から外れかけている。
大切と思える2人が親密になって嬉しい。
けど、心に残った「女」の部分が出てきて胸がチクりと痛む。
ふと思った。
カナワで離れたリュウ。
あのときは帰りたいと思って、私が中途半端にギルドカードを残して逃げた。
女にモテるけど、リュウは律儀だ。
だから私に義理立てしている可能性もある。
万が一、私を待っていたりしないように、話さなければならないのかも。
普通の女として生きられない。子供も産めない。
リュウが新しい出会いを育んでいれば、それを確認して帰ろう。
だけどもし、私に義理立てしているなら、解放しないといけない。
ちょうどミールからの提案もあった。
「ユリナ様、しばらくミシェルと近隣のダンジョン行こうよ。ミシェルが初級ダンジョンから順番に攻略していけば、レベルアップにも繋がると思うんだ」
「・・2人で行っておいで」
「ユリナは用があるの?」
ミシェルに見られて、脈絡もなく頭に思い浮かんだ。
『彼の目が好きだ』
体の中に入っている『超回復』をくれた何かが言った気がした。そして私も・・
「カナワの街に中途半端な別れかたをした男がいるの。彼に会いたくなったの」
そして、誰よりも好きになっていくミシェル。
彼に対し、強調するように付け加えた。
「まだ世界で一番大好きなんだよね」
嘘ついた。




