120 出会いは唐突に
アリサが、イーサイド男爵領で唯一会いたかった人がいた。
そのサマンサさんが、どうなっているか知りたい。
イーサイド家の長男ライナーも、私が来たのは知っている。
もちろん、目的はアリサ追放の「犯人探し」だと分かってる。
だけどサマンサさんは、監禁するほど重視していないと思う。
そもそも、犯人はライナーや両親といった実の肉親
私がそこにたどり着いた可能性を考えてる。
有能な戦闘員はアリサの両親とライナーら兄弟4人の警護に使っているはずだ。
私は120センチの幼女変身で街に入った。
領都の入り口で、口減らしのために近隣の村を出てきたと言った。親切な門番さんが、冒険者ギルドと商業ギルドの位置を教えてくれた。
街を一通り回った。
意外に聖職者が多い。ライナーとの会話では、教会勢力とも結びついている感じだった。
「大きな教会もあるし、聖魔法の使い手も多いよね、きっと。母親の病気も、そいつらに治してもらえばいいのに」
「だよね、ユリナ様」
通りを歩いていると、先に潜入したミールに手をひかれた。
幼女変身すると、妹みたく扱われるんだよね。
いつ来たかは、もちろん分かってない。
一緒に少しお高い食堂に入り、個室を取った。普段、金は使わないから多少は贅沢できる。
「ユリナ様、お目当てのサマンサさんは見つけたよ。監視は付いているけど普通に生活している。仕事は前と一緒でイーサイド家の下働き」
「サンキュー。さすがね。マルコ君たちは危ないことしていない」
「うん。ユリナ様から「命大事に」を命令されたからって、感動しながら変な気合が入っているけどね」
ミールやマルコ君たちは、教会のことも調べてくれていた。
今、司祭が1人、この街に来ている。ミールを助けるとき喧嘩した強欲騎士ベノアと同じ街からだ。
もちろん、お金が大好き。
訪れた理由は私。
ライナーと手を組み、この街を訪れる私の回復術を自分のいいように使うのが目的だ。
「ところで、その司祭の治療魔法の腕は」
「聖魔法は並。得意なのは光属性の攻撃魔法ジャッジメント。名目上は男爵夫人、つまりライナーの母親を救うために来た。なんの役にも立っていないけどね」
「そうなんだ。そんな司祭を連れてくるようじゃ、かなりグレーよね」
「ユリナ様との約束も守る気はないよ」
「ま、そもそも、亡くなってるアリサを連れて来いって言っている私も、アレなんだけどね」
「じゃあ。やっぱ、相手はユリナさまにアリサさんが見つかったって言って、騙す気だよね」
「それしかないよ」
「本当に見つかって、アリサさんがユリナ様に追放者は家族だってばらせば、やっぱり敵になるしね」
「普通はそう。それでも私の回復術をあきらめないか」
「ねえ、ユリナ様。ライナーは母親のためにリスクを負ってユリナ様に接触したんでしょ。親子の愛情って、そんなにすごいのかな」
ミールは実の親から教会に金で売られいる。
親子の絆なんて信じられないんだろう。
「別に、それは人ぞれぞれ。現にアリサは家族に虐げられた。ミールに大事なのは、これからの人間関係だよ」
「そうだね。今はユリナ様もスマトラさんもいる。マリオ達も一緒だしね」
「だね。ミールも家族を作るとき、子供や旦那さんに全力で愛を注ぐんだよ」
「ユリナ様も?」
「私はダメかな。スキルの影響で子供を産めないと思う。大切にしてくれた男も放って逃げてきたロクデナシだよ」
「・・そうなんだ」
「そんでもさ」
ミールの手を取った。
「スキルのお陰で、こんな素敵な妹もできた。次はミールの子供に会うのが、楽しみだね」
「私の子供?」
「そうだよ。私もミールの赤ちゃんだっこして、甘々に接するの」
「私の子供見たい?」
「うん、すごく見たい」
「分かった。すごく頑張る。そんでユリナ様にいっぱい見せる」
この会話のせいでミールがとんでも行動に出るのだが、今は気に止めてなかった。
◆◆◆
一度、ミールと別れて2日後に合流となった。
だけど、次の日に見逃せない光景を目の当たりにした。
正午だ。
街の広場のステージで1人の男の子がさらされていた。
お祭りのステージにもなるけど、公開処刑も行われる場所だ。
聖騎士3人に引かれていた。
教会と女神マリルートをないがしろにしたと、わざわざ司祭が罪状を読み上げている。
司祭の名はグレイ
容疑者の名前はミシェル。
「闇魔法を使うこの男は女神マリルートの教えに背き・・・」。
どうでもいいような、ささいな内容。
完全に言いがかり。
こういう人間を見捨てられない、私をおびき寄せるための罠だ。
ミールやマルコは、間違いなくいる。
ただ隠蔽中は、私には見つけられない。
「このいかにもな断罪イベント。ま、助けるの一択。ステージへのご招待を受けるか」
人混みをかき分けて歩く。
「ミール、聞こえているなら私1人に行かせて」
私はマントを頭から被り、身長を普段の160センチに戻した。
黒いフードをかぶった。人混みをかき分けて高さ1・5メートル、幅10メートルのステージに近づいた。
「何ですか、あなたは」
「その彼の罪状は何?かなり怪我をしているから、治してあげたいの」
「ほう、単刀直入ですね。もしや、あなたがユリナですか。聖属性も持たぬくせに「聖女」を名乗り女神マリルートを蔑んでいると聞いております」
すでに司祭と話す気がなくなり、ステージ上で聖騎士に拘束されている男の子に問いかけた。
「あ、え・・」
そして目を見てドキッとした。
こんな状況なのに私の方を真っ直ぐに見てくるのだ。
なぜだろう、ほんの一瞬の邂逅なのに、泣きそうになった。
「ミシェル君、よね」
「あんたは?」
「ユリナ、あなたのスキルはなに。よければ教えて」
「闇属性の適正E、目くらましの「ダーク」を1日に5回使える程度の低級冒険者だよ」
「そう、教会にいいがかりをつけられたのね」
「ああ今朝、うさぎ狩りに行こうしたら、財布を盗んだと聖騎士に言われた」
ミシェル君の顔には殴られた跡がある。
私が100倍にして返す。




