115 パーティー名は『アイリス』
ドラゴンダンジョンの10階フロアボス戦の前にミールと作戦会議をして突入だ。体はその前の戦いで縮んだのを治さず110センチのまま。
魔物は10メートルの推定レベル70ランドドラゴンを筆頭に、3メートルの推定レベル65火属性プチドラゴン3匹。はっきり言って、オークの上級ダンジョンのダンジョンボスより厳しい。
私はオークダンジョンのボス部屋を「スライムパンチ」の乱用で5分でクリアしたけど、今回は肉を大事に工夫する。
「ミールには今回、手の内をほとんど見せていいと思ってる。まずは「超回復&等価交換」でプチドラゴンを弱らせるから、ランドドラゴンの気を引いてね」
「了解。お肉がかなり綺麗に残るから、ユリナ様はすごいよね」
「それよりミール、無理しちゃだめよ。怪我したら、すぐ私を呼ぶのよ」
「あはは、お母さんみたい」
私は3匹のプチドラゴンが立ち上がって一か所に固まっているのを幸いに、火属性「革ひも流星錘」を投げた。運良く、一匹の顔に巻き付いた。すかさず「等価交換」。
ぱちっ。どさっ。
残る2匹は変に知能があるせいか、考えた。1匹目が距離を取っているうちにやられた。だから、急接近してきた。1匹に腹を裂かれて、1匹に肩をがぶりされた。「超回復&等価交換」のコンボを3回繰り返して、大きく弱らせた。試しにミスリルソードで切りつけたが、ノーダメージ。
「ミール交代。私の技量じゃプチドラゴンに剣が刺さらない。止めを刺して」
「分かった」
対戦相手交代で、今度は10メートルランドドラゴンに立ち向かった。
ミールは一代騎士爵という貴族扱いになるAランクを狙える逸材。ミールがAランク、私がBランクなら「Aランクパーティー」を作れる。だけど、そこまで行くなら私も今のレベル62を何とか85まで上げて、Aランクとかちょっと考えている。
だから、ミスリルソードでランドドラゴンという名の恐竜に立ち向かったが・・・
かつっ。どがっ。「ユリナ様!」どんっ。
『超回復』
ドラゴンの足に切りつけて、鱗1枚も傷つけられないどころか、蹴られて高く舞い上がった。一撃分のダメージを治すのにゴブリンが半分くらい必要だった。次は流星錘だけど、引きずられるだけ。辛うじて囮役としては機能している。
横目でミールを見ると、パワー半減とはいえプチドラゴン3匹を倒し終わった。スペックの違いが激しすぎる。彼女はランドドラゴンを「ニンジュツ」で翻弄してたし、戦いの幅が広い。うまく役割分担してくれる。
ただここは、お姉さんのプライドにかけてもいいとこを見せたい。「スライムパンチ」の投入だ。
「ミール、私最大の破壊技を出すね。異様な姿になるけど引かないでよ。「スライム変換」」
ぱちっ。ぽよーん。
「わおっ、ユリナ様。ほねほねスケルトンだ」
すでに、ランドドラゴンの右足に蹴られそうになっている。
べしゃっ。肩、胸、両腕までランドドラゴンに砕かれたとき、唱えてみた。
「『超回復』&破壊的絶対領域!」
ぼんっ。「ぎええええええええ!」
10メートル恐竜の右足の甲、すねが吹き飛んだ。魔鉄より固そうな骨が、私の体を作る空間を作るために強制排除されたのだ。
エネルギーは全方向に向いた。少し離れていたミールから見ると、10メートルランドドラゴンの巨体が少しだけど浮いて、左側に倒れたそうだ。
倒れた恐竜の口元に走り、もう一発「スライムパンチ」を発動させた。あとは、幾らかでも経験値になるように、ミールと2人で斬りまくった。
「すごい、ユリナ様。このサイズのランドドラゴンの骨なんて、アルバ兄さん達でも切れないよ」
「ふふっほめて。これしか大技を持ってないけどね」
ここから進むか、一旦帰るかの選択になるが、すでにダンジョンで7日ほど過ごしている。プチドラゴンの肉もいい状態のまま捕れたし、11階転移装置を使ってオルシマに帰ることにした。
「ミール親分さん、子分のアリス達にも面目を保てそうだし、12階以降の挑戦は次だね」
「アリス、イレーヌ、リックの3人に食べたことがないお肉を食べさせるって言っちゃったから良かった。ユリナ様のお陰だ」
帰りながら分配の話をした。すでにミールには私が『超回復』を使うとき燃費が悪いことを話してある。
だから、私は10メートルランドドラゴン、プチドラゴン1匹、ドラゴンパピー38匹をもらった。
ミールの方が、プチドラゴン2匹、ドラゴンパピー43匹だ。
ギルド査定を考えるとミールの方が値段が高くなるが、私は「ドラゴン変身」に使う強い鱗、新しい流星錘を作るための革が大切なのだ。
◆◆
パーティー名も決まった。ダンジョンを出てすぐに、私が好きな花が目に入った。
「ミール、私この花が好きなんだ」
「この紫の花びら。私も好きだよ」
「じゃあ、花の名前をパーティー名にしよっか」
「賛成」
私達2人のパーティー名は「アイリス」に決まった。
オルシマの街に入ると、「ふーどこーと計画」を丸投げにしているサルバさんに引っ張られ、完成間近なお店に連れて行かれた。
「すごい。もう完成間近だ。それにもう試食品が作れるのね」
「いいタイミングだよね、ユリナ様」
店舗経営の中心になってもらう、サルバさんや魔力ゼロトリオ、ミールが面倒見ているアリス達と一緒に3メートルプチドラゴンを食べることになった。
ちょっと前に体を治した闇属性持ちのマルコ君達は、教会を抜けたそうだ。それで、サルバさんに頼んで、この「ふーどこーと」の計画に携わっているらしい。
「なるほど。自分が劣等人だからそこしか目がいかなかったけど、授かったスキルの属性に苦しめられている人もいるんだよね」
元教会上層勢力の人間でも、サルバさんがOKを出したということは仲間になれる。想定有力者スマトラさんも大丈夫と保証したということだ。
私の思いつきから始まった計画が、あっという間に大きく膨らんでいる。だけど横では闇属性のせいで虐げられてきたミールもうれしそうな顔をしているし、正解に向かっていると思う。




