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ダンジョンで『』を手に入れました。代償は体で払います  作者: とみっしぇる


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109 深読みしすぎる闇達②

俺ことミハイル36歳は初代聖女ユーリス様に憧れた。



しかし、現代の聖女様を探すこと15年。教会本部で認定した4人も含め58人の聖女候補を調べて本物に出会えなかった。厳しい意見を立場ある人間にぶつけ、俺を慕う人間が集まって非公式な部隊も作った。


権力のようなものを手にして目が曇っていた。



4ヶ月ほど前、俺は教会支部があるツラカーナの街にいた。


強欲聖騎士ベノアが、長く「ミール」という闇属性を持つ娘を虐待していたという話を聞いたからだ。


王都近くで活動する俺の目が届かぬ場所で起こっていた。南部勢力の管轄地区で育成されたこともあり、3年間も気づけなかった。


憤る俺が3人の弟子とともにツラカーナに到着したとき、ベノアはミールも従えて400キロ南のオルシマに旅立っていた。


強力な回復スキルを持ち「聖女ユリナ」と呼ばれる女が現れ、捕獲しに行ったのだ。


「59人目の偽物か・・」


愚かにも、確かめもしなかった・・。


ところでツラカーナで1ヶ月も待ったが、ベノア一行が帰って来ない。


オルシマで馬鹿な真似をして捕縛されたと聞いたが、ミールも帰って来ない。件のユリナに捕まり、知人宅にいるという。


ツラカーナの騎士を1人、拷問、いや話を聞いたら、ミールは虐待のせいでゴブリンのような醜い風貌だという。


気がついた時は、その騎士を殴り殺しかけていた。そんなミールにユリナは何をしようというのか。俺は、弟子とともに旅立った。


もちろんユリナと関係者を懲らしめるためだ。それが俺の正義だ。



強行軍で4日後にオルシマに到着した。


ミールが監禁されているスマトラという男の家に乗り込んだ。


だが拍子抜けした。サルバという男に伴われ姿を見せた「ミール」は、幸せそうな笑顔で迎えてくれた。ゴブリンどころか、美少女だ。


強烈に威圧してくるサルバに気圧されて引き下がり、一旦は頭も冷えた。


そこで俺はオルシマの街で活動調査を始めた。弟子達は外での活動を主に観察した。


街でユリナを知る人は、彼女は「酔っ払い」だと言った。


ミールに関する話も聞けた。目撃者多数の中で聖騎士とユリナが戦った原因がミールだと言う。

顔中に傷を負ったミールを一瞬で治して、聖騎士から助けて酒場に連れて行った。



しかし俺は簡単に納得しない。回復魔法をうまく利用する女は過去にもいた。


俺は「偽聖女発見器」でもある。


ダンジョンに行ったユリナを監視すると、冒険者を治療している。対価を求めた。


1000ゴールドか。聖魔法の価値を下げている。


また、「気功」とかいう回復、強化一体の技で高位魔物を倒しまくっていた。ゴブリンキングも討伐した。


俗物の証拠は次から次に出てきた。


普段は酒ばかり飲んでいる。そして金も貯め込んでいる。数ヵ月で軽く1億ゴールドは換金しているのだ。


使い途はこれから探る。



自分の中に生まれた違和感も大きくなったが、認めたくなかった。苦労して手にした権力のようなものが、認めた瞬間に崩れるような気がした。


心は俺が軽蔑する聖騎士や上層司祭と変わらぬ俗物へと化していたのだろう。


4日前、それを痛感させられた。


弟子3人と合流した。夜の川沿いでユリナを監視していた。


マルコに声をかけたが、無視された。他の2人にもだ。


マルコはユリナを追ってダンジョン内で負傷したが、腕の傷が治らず顔色が悪い。だが、ユリナを尊きものを見る目で見ながら、俺の方を向きもせず言い放った。


「ミハイル師匠、あなたはここにいる資格がない。去ってもらえませんか」


「なに・・」


「俺の怪我は悪化している。やがて死ぬ。だけど、最後に探し物を見つけた。悔いはない」


「ど、どういうことだ」


「あなたが聞かせてくれた聖女ユーリス様の話、あなた自身が肝心なことを忘れてしまったようですね」


ユーリス様の話?


○1800年前、北方にあったカースの街にユーリスは住んでいた。


強欲な貴族の統治下、疫病と飢饉で人々は疲弊していた。見寄もないユーリスも疫病に倒れ、ボロ小屋の中で死を待っていた。ある夜、小屋に女性が入ってきて一晩過ごさせてくれという。


女性はげっそりと痩せていた。自分の死を悟っていたユーリスは少しでも役立てばといいと思い、なけなしの食料を女性にふるまった。


わずか1個のパンだが女性はおいしそうに食べた。ユーリスは笑って見ていた。


女性はパンを食べ終わると、自分はマリルートという下級女神だと名乗った。ユーリスのおかげで死なずに済んだが天に帰れるほど力は戻っていないと言う。


少しだけ眠る。眠っている間は自分の力を好きに力を使えと言って、ユーリスの手を取ると消えてしまった。


ユーリスはいつの間にか手に「玉」を持っていた。


玉は割れ、ユーリスに問うた。『』の中に欲するものを入れろと。


ユーリスは答えた。「病気の私はもうすぐ死ぬ。それまで、ひとりぼっちだった私に良くしてくれた人を治させて」


玉は割れてなくなり、ユーリスは力を得た。なぜか自身の病気も治っていた。


他人の病気を治すかたわら、食べ物が不足する隣人のため、自らダンジョンに赴き大量の魔物を捕まえた。


大きな力を使う条件として、自分の生活に大きな「制約」がかけられていると周囲に話していた。


彼女には最初に救ったアイリスという少女が付き従い、彼女も良しとした。平和な日が続いた。


しかし強欲な領主が彼女に目を付けた。その能力を我が物にしようと画策した。領主はユーリスが狩猟に行った隙にアイリスを捕らえ地下牢に閉じ込めた。


ユーリスは鬼と化した。


飢えた人々のため、狩猟に使ってきた戦闘力を腐りきった貴族に向けた。素早くアイリスを助けたあとは、1人で千の軍勢を滅した。貴族の家族さえ殲滅した。多くの人を助けてきた「慈愛の心」が反転したかのようだった。



やがてユーリスに救われた人々は街を立て直した。そして聖女ユーリスを誕生させた「マリルート神」を信仰し教会を建てた。


ユーリス自身は老けもせずに180歳まで生きた。孤児院を経営し多くの子供を育てたという。


終わりは唐突に訪れた。


街が大火災に見舞われたとき多くの人を火の中から助け出した。何百という命を救ったあと、自身は燃え尽きて消滅した。


彼女は最後まで人のために生きた。



「マルコ、これで間違いない。お前も知っているだろう」



「肝心なところは、何だと思いますか、師匠。ごほっ、ごぼっ」


マルコは残念そうに答えた。口から少し血を垂らしていた。


「肝心な部分?」


「神との約束と言いながら、本当はユーリス様が自分を律するためにやっていた「制約」ですよ」


「何も持たない。何も求めない。だな・・」


「そしてユーリス様は何をしました?」


弟子に上から目線で言われているが、反発する気持ちより彼らが出した答えが知りたい。


私も教会「上層」に毒された愚者なのだ。認めるしかない。早く答えを出さなければ、3人の純粋な目をした弟子に見捨てられる。


だが答えが出せなかった。


「すまんマルコ。教えてくれ」


「川辺にいるユリナ様は見えますか?」


「ああ、エールを飲んで酔っ払っているな」


「それだけですか?」


「それだけ? ああっ。ああそうか・・」


愚かな俺は、膝から崩れ落ちた。




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