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ダンジョンで『』を手に入れました。代償は体で払います  作者: とみっしぇる


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108 深読みしすぎる闇達①

教会上層の人間は死んでもいいと言ったけど、見捨てたくない目をしたマルコ君を助けた。


握った手が震えている。辛かったのだろう。


「ありがとうございます、ユリナ様」

「もう大丈夫だから。心配ないから、何にも縛られない自分の人生を歩こうね」


「・・はい。はい」


両手で、手を握り返してくれた。


彼は暗部の人間のようだけど、スキルの属性が「闇」というだけで汚れ仕事をさせられていたのだろう。


「他の3人も来て。リーダー、あなたの名前は?」

「・・ミハイル、です」


「なんで部下をこんなになるまで放っておいたのよ」

「我々は穢れた闇の人間・・」

「そんなことが、あるわけないでしょう!」


「うっ」


「前にここに来た聖騎士達は、みんな欲まみれの人間ばかりだった。まともに見えた女騎士でさえ、都合のいい正義ばかり選んで私に押し付けようとした。闇? そんなものは生き方の問題でしょう。4人とも、じっとしてて」


ギャラリーもたくさんいる。恥ずかしいが、ただ体を治しても彼らは救われない気がする。ミールと似た経緯をたどってきた人間のためなら、一肌脱ぐしかない。


「名もなき神がミハイルに問う。お前はなぜ仲間を助けた」


「そ、それは」


「お前は名もなき神の依代である私を、ただ監視すれば良かった。仲間を見捨てていれば任務は成功していたのではないか」


「そ、それはそうだが・・」


「お前は腐った「闇」の仕事をする人間としては失格だ。だが、お前達には「人としての心」がある。酔っ払いの名もなき神が霊薬を授ける」


私の最近の「霊薬」こと、エールのジョッキを5杯出した。


渡すときに1人ずつしっかり手を握り『超回復』×4。マルコは二度目だ。


ばちいいぃ。


「どうミハイル」

「霊薬を持っただけで、身体中にあった傷の痛みを感じなくなりました。頭すっきりしてきました」

「名もなき神が微笑んだ。マリルート様でなくて嬉しくもないだろう。それでも私は、お前を祝福する。4人とも霊薬を飲め!」


5人で一気飲みした。うまい!


「ち、力が漲ります」

「体がスッキリしている」


そりゃそうだ。古傷まで治して、体力全快だもん。


ミハイルが唐突に宣言した。


「私が何者か分かりました。神のご意志に従い、仕事を遂行して参ります。マルコ達はこの方の警戒に当たれ!」


「はれ?」


ミハイルは勝手にしゃべると、猛スピードで走り去った。



◇◇マリルート教暗部ミハイル◇◇



俺はミハイル。神の導きに従い、ドルン伯爵家の馬車を追っている。


狙いは使者と御者を残しての殲滅だ。


それなり家に生まれた俺は、闇属性でも教会の中で大きな顔をしている。


属性のせいで穢れとして扱われていても、自分の信念により動いている。ここ何年も誰にも文句は言われていない。



俺は本物の信徒だ。


女神マリルート様から力を授かった初代聖女ユーリス様を信奉している。


ユーリス様の伝記を見て、感動したのだ。


そして現代の聖女を探すこと15年。聖女出現の報を聞くたび58人を調べたが、金目当ての偽物ばかり。心がすさんでしまった。


そんなときにあの方を見つけたのだ。


まあ、心が曇ったせいで弟子に見放されかけたが、その話は後回しだ。今は忙しい



ドルン伯爵家の馬車に追い付いた。奇しくも俺は、あの方に保護された同胞ミールと同じレアスキル「ニンジャ」を持っている。


高速で馬車を追い抜いたが、完璧な「隠密」に護衛騎士すら俺に気づかない。


オルシマの領主ルシア男爵領を過ぎた林道で待った。ルシア男爵はあの方が認めた者。彼に責任が及ぶ場所で揉め事は起こさない。


仮面を被った。黒字に赤い十字架。地獄への案内人と呼ぶ者もいる。


馬車の前に立った。


異変を察知した騎士が前に出てきたが、騎馬のままとはアホだ。


ぼんっ。「ひひ~ん」


地面に仕込んでおいた火魔法を発火させると、馬が棹立ちになった。


「ぐわっ」

「うわああ」


「背中から落ちた2人不合格、死んでおけ」


首を掻き切った。


馬車から半裸の使者と全裸の女魔法使い2人が飛び出してきた。


魔法使いのレベルが低いと思ったら、愛人だったようだ。速やかに始末した。


残るは3人。


「その仮面、噂に聞いたことがあるぞ。死神と呼ばれる教会の手の者だな。俺が斬ってやる」


「馬鹿だな」


剣筋は3人ともいい。だが人間との実戦が不足している。綺麗なお手本通りの技しか持たない。


「ニンジュツ」も織り交ぜ、急所を狙う俺に殺せと言っているのだろう。


サクッ。

「こ、こんな簡単に・・」


普通に強い奴なんて、こんなもんだ。


「ひっ。お、お前は教会上層の者だな。ドルン伯爵家を敵に回す気か」


「使者よ。「あの方」を脅したお前らは、俺達の敵になった」


「あの方とは、あのユリナという小娘か」


俺は返答しない。国の南西の国境付近に領地を持つドルン伯爵は内乱を画策している。それは調査済み。内乱に興味はないが、「ユリナ」を兵として利用するとなれば話は別だ。


「これからドルン伯爵領に俺のような教徒を何人も送り込む」


「な、なに」


「あの方のスキルを利用するために戦闘員を集めるのも勝手だ。だが、俺達は許さない」


「せ、戦争になるぞ」


「ならない。今、ドルン伯爵は領都だよな。自領から出れば、即座に攻撃する。軍を編成してもテロ活動が領内で起こる。すべては国境付近で完結する」


「公務の王都行き、大規模な魔物討伐もある。何もせんのは不可能だ」


「知らんよ」


「伯爵様に報告するからな!」


「そのために貴様を生かしたのだ。一言だけ伝言がある」


「な、なにを伝えるのだ」



「漆黒の中の刃が潜む。闇はすでに泳ぎだした」



返答を待たず、俺はその場を去った。


マルコや俺達が受けた「祝福」を求め、俺が育てたユーリス様信者が続々とオルシマを訪れるだろう。


そしてきっと、光も闇も平等に受け入れるあの方に触れ、マルコと同じ涙を流す日が来る。


そして俺が止めたとしても、ドルン伯爵領に乗り込むだろう。



俺は今後、自分が育てた通称「凶信者部隊」の末席に座る。


これは自分への戒めでもある。


俺は数日前に瀕死のマルコに馬鹿にされた。しかし恨むどころか感謝している。


本物の聖女を探り当てたのに、偽物認定しようとしたのだ。






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