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天才少女はクラスメイト

作者: taktoto

「世の中にはスゲーヤツもいるもんだ。」


これが俺の感想だ。

ある日突然、彼女はクラスメイトになった。


彼女は朝比奈優子(あさひなゆうこ)。IQ200を超える天才。

ギリギリでこの学校に入学した俺には、なんとも羨ましい話だ。


顔は可愛いと思うし、スタイルも悪くない。

しかし、さすがに12歳の女の子がクラスメイトでは違和感がある。


これはクラスの誰もが感じている事だった。

転校生といえば、イケメン・美女が定番だが…。


さすがに12歳というのは初めての経験だ。

案の定、朝比奈は既にクラスから浮き始めていた。


17歳と12歳では天と地ほど違う。

彼女が転校して来て、もう2ヶ月が過ぎようとしていた。


朝比奈は、ずっと一人ぼっちだった。


この日は席替えが行われた。

俺は教室の右端、最後尾というベストポジションをゲットした。


これで今月は寝て過ごせる…はずだった。

隣の席には天才少女。


どうしても目立つ朝比奈が、俺の隣にいる事で、

俺は教師達の格好の的になっていた。


いい加減うんざりだ。


1週間が過ぎた。


未だに朝比奈とは一言も話していない。

別に毛嫌いしている訳ではないが、こいつの所為で被害を被っている。


「はぁ…。」


思わずため息が漏れた。

朝比奈はこちらをチラッと見たが、直ぐに本と向き合った。


なんとなく気まずさを感じ、朝比奈に話しかけてみた。


「…それ、何の本?」


朝比奈は無反応だった。


「…おーい。朝比奈ー。」


相変わらず無言で本を読みつづける朝比奈。

俺は少し腹が立ってきた。


「シカトかよ…。そんなんだからお前、友達いねーんだよ…。」


少し嫌味を込めて言った。

「どうせシカトするだろう。」俺はそう思っていた。

しかし、朝比奈の反応は予想外なものだった。


『うるさい!!余計なお世話よ!!』


朝比奈の声が、クラス中に響き渡った。

教室が静かになり、全員が朝比奈を見ている。


朝比奈はハッと我に返り、いたたまれずにその場を後にした。

教室を出て行く朝比奈の背中を、俺は黙って眺めていた。


その日、朝比奈が教室に戻る事は無く

俺の心は罪悪感で一杯になった。


次の日、俺が教室へと向かうと、そこには朝比奈の姿があった。

昨日の事を謝ろうと思っていた俺は、席につくなり朝比奈に話しかけた。


「朝比奈…昨日は悪かったよ。」


こちらを見向きもしない朝比奈。

負けじと俺は話しかけた。


「なぁ、悪かったって。ゴメン。」


朝比奈は一つ溜息をつくと、一言俺に言った。


「慣れ慣れしいけど、あなた誰ですか?」


衝撃を受けた。もう2ヶ月も経つのに、俺の事を知らない?

それ以前に昨日話したのに…。


俺は軽くショックを受けたが、負けじと反論した。


「『中村健二(なかむらけんじ)』、朝比奈のクラスメイト!!」


朝比奈は馬鹿にしたような笑みを浮かべ、


「…知ってますけど?」


と、俺に答えた。

さすがにコレには腹が立ったが、相手は12歳だ。


怒りをこらえて、笑顔で朝比奈に話しかける。


「じ、じゃあさ〜、何で『誰ですか?』なんて言ったのかな〜?」


朝比奈はまたしても溜息をつき、俺にこう言った。


「あなたにこれっぽっちも興味がないからですよ。」


そう言うとニヤッと笑った。


―プチン


俺の中で堪忍袋の緒が切れた。

こいつとは友達になれないと思った。


そんな俺とは裏腹に、黙々と本を読みつづける朝比奈。

先程の言葉を最後に、こちらに一切見向きもしない。


俺はモヤモヤした気分で、その日を過ごした。


授業も終わり、気分が晴れない俺は一人ゲーセンへと向かった。


「格ゲーでもやるか…」


自満では無いが、俺は格ゲーなら誰にも負けた事がない。

千円札を両替し、台の前に座る。


暫くボンヤリとコンピューターと対戦していると、


『GET THE NEW CHALLENGER!!』


コンピューターの声が鳴り響いた。

ちょうど退屈していた所だった。


俺はニヤニヤしながら対戦を始める。

相手のキャラ選択は素人でも扱いやすい『ジョニー』だ。


対して俺のキャラは玄人好みの『パンダ三世』。

こうして対戦が始まった。


―ドカッ!


―バキッ!


一方的に俺はやられていた。


「こいつ強い…」


そしてあっと言う間に、画面に『YOU LOSE』と浮かび上がる。

悔しくなって俺は何度も挑戦するが、一向に勝てなかった。


どうせマニアだろうと思い、対戦相手を覗きに行った。


「…ゲッ!!」


そこにはニヤニヤと笑う朝比奈の姿があった。

朝比奈はこちらを見ると、話しかけてきた。


「…お金の無駄使いですね…。」


そういってフッと小馬鹿にした笑みを浮かべた。

俺はイライラしながらゲーセンを飛び出した。


次の日、珍しく朝比奈が話しかけてきた。


「…ねぇ。」


無視しようかと思ったが、それはさすがに大人げない。

俺は少しいらつきながら、朝比奈に答えた。


「…なんだよ。」


朝比奈は溜息をつきながら、俺に問いかけた。


「あれぐらいの事で怒ってるんですか?」


朝比奈は小馬鹿にした目線を送ってくる。

さすがの俺も我慢の限界が来た。


『うるさいんだよ!!お前は!!』


つい大声が出てしまった。

朝比奈は驚いた様子でこちらを見ている。


「…くっ!」


いたたまれずに、俺は屋上へと駆け上がった。

ぼんやりと遠くを眺めながら、色々な事を考えていた。


「はぁ…言い過ぎたかな…。」


「いや…あいつが悪いんだ…。」


「でもな…。」


そんな事を一人でブツブツ言っていると、

後ろから声を掛けられた。


「何をブツブツ言ってるの?」


クスクスと笑いながら声を掛けて来たのは、

同じクラスの安藤小百合(あんどうさゆり)だった。


小百合は俺の隣にくると、質問し始めた。


「ねぇ?何で怒ってるの?」


「ねぇ?何かあったの?」


「ねぇ…」


『うるさーーーい!!!』


あまりの質問攻めに俺は声を上げた。

小百合は驚きながらも、隣で笑っていた。


「あははは。中村君の方がうるさいよ♪」


イタズラっぽく笑う小百合。

俺は溜息をつくと、小百合に質問をした。


「…何しに来たんだよ?」


小百合は少し考えると質問に答えた。


「うーん…天才少女に虐められる、いたいけな男の子を見に来たのよ♪」


―ムカッ!


「ウソウソ!冗談だってば♪」


うちのクラスの女子は、どうしてこうも感に触るかな…

俺は一つ溜息をつくと、小百合の方を向いた。


「…安東。」


「ん?何?」


「好きだ!付き合ってくれ!」


無論冗談である。先ほどの仕返しのつもりだ。

だが、小百合は真面目に受け取ったらしい。


「え…あの…えっと…」


赤くなりモジモジしている。

そこで俺は冗談である事を告げた。


「安藤…冗談だ。」


―ピクッ


小百合の眉毛が僅かに動いたと思った瞬間、俺の頬には平手打ちが飛んできた。


『パーーーンッ』


いい音だ。物凄く痛い。


「殴る事ないだろ!!」


「うるさい!!馬鹿男!!」


そう言うと、小百合はプリプリしながら屋上を去った。

一人屋上で考えてみる。


「あいつ…まさか…俺の事が好きだったとか…」


まさかな…。あいつとは殆ど話しをした事はないと思う。

そんな事はあり得ないだろう。


「いてぇな…」


小百合に殴られた頬がズキズキと痛んだ。

それが痛むたび、小百合の怒った顔が頭に浮かんだ。


「後で謝っておくか…」


俺は一人そう呟いて、屋上を後にした。

が、階段を降りようと思ったら、下から朝比奈が登って来た。


あわてて屋上へと戻った。

だが、考えてみたらこれ以上逃げ場はなかった。


仕方なく朝比奈が登ってくるのを待った。


「あ…居た。」


朝比奈が声を上げた。

もしかして探していたのだろうか。


「あの…」


朝比奈は何かを言い掛けて考え始めた。

その隙に、俺は朝比奈の横をすり抜けようとした。


「待って下さい!!」


朝比奈が突然声を上げた。

俺は立ち止まると、朝比奈に話しかけた。


「…何?」


朝比奈はうつむくと、俺に向かって言った。


「さっきはゴメンナサイ…」


「本当は、話しかけて貰えて嬉しかったです。」


そう言うと、朝比奈は屋上を足早に去った。

初めて見た朝比奈のそんな姿に、不覚にも可愛いと思ってしまった。


「はっ!!何を赤くなってるんだ俺は!?」


気づけば俺は耳まで真っ赤になっていた。


教室に帰ると、クラスメイトが俺を見ていた。

頬が赤く腫れ上がっていたからだった。


促されるまま保健室へと向かった。


保健室へついたが、先生はいなかった。

途方に暮れていると、保健室のドアが開いた。


小百合だった。責任を感じていたんだろう。

氷と冷シップを用意すると、手早く俺を治療した。


「…これでよし。」


そう言うと、朝比奈はその場を去ろうとしたが、

俺は先ほどの発言を謝った。


「ゴメン。安藤。さっきは変な事言って。」


小百合は立ち止まってそれを聞いていたが、

聞き終わるとそのまま部屋の出口に向かった。


出口付近で立ち止まると、俺に向かい言った。


「あれが…冗談で残念だったわ。」


そう言い残し、部屋を後にした。

ボー然としていると、今度は朝比奈がやってきた。


「…大丈夫ですか?」


そういうと無造作に俺の頬に手を当てる。

ひんやりと気持ちがいい。


「色々と失礼な事を言ってごめんなさい。」


朝比奈が小さく俺に謝った。


「もういいよ。怒ってないし。」


そう言うと、朝比奈はパッと顔を上げ


「本当ですか!?」


そう俺に問いかけた。

俺が「本当だよ。」と答えると、朝比奈は嬉しそうに笑った。


最初の印象が悪かった所為か、余計に可愛く見えた。

俺は朝比奈に一つ質問をしてみた。


「なぁ、朝比奈。何であんなに最初冷たかったんだ?」


そう言うと、朝比奈は一言だけ喋った。


「私…人見知りなんです。」


「あぁ…そうなんだ…」


あれは人見知りだった故の発言だったのか。

それにしても辛口だ。


目の前の朝比奈とのギャップがおかしくて、

俺は思わず笑ってしまった。


「何がおかしいんですか?」


朝比奈がちょっとムッとした。

その表情は年相応で、俺は少し安心した。


「いや、別に。朝比奈にも色んな表情があるんだな。」


そう言うと朝比奈は少し照れながら「変な事言わないで下さい!」

そう俺に言った。


それから俺は、朝比奈と良く喋る様になっていた。

クラスの連中から「ロリコン」とあだ名をつけられたのは言うまでも無い。


いつの間にか、朝比奈はクラスに溶け込んでいた。

それが俺には、嬉しいような悲しい様な不思議な感覚だった。


そうして1ヶ月が過ぎ、席替えがあった。

俺の隣は朝比奈では無くなった。


そうして会話の機会がへり、次第に遠くに感じる様になっていた。

ある日の帰り道。河川敷で一人ボーッとしていると、

朝比奈が声を掛けて来た。


「中村君。何してるの?」


久し振りに話すからだろうか、少し緊張している。


「別に…ボーっとしてただけ。」


「そうなんだ…。」


会話がいま一つ続かない。

沈黙が俺と朝比奈の間を流れていた。


朝比奈が突然切り出した。


「中村君って…彼女いないの?」


「はぁ!?」


予想外の質問に俺は驚いた。

そんな俺を見て、朝比奈は少し悲しげな顔をした。


「いるんだね…。」


そのまま朝比奈は下を向いてしまった。


「いや、彼女なんて出来たトキがないけど…。」


「本当?」


「本当だよ。」


そんなやり取りの後、朝比奈は俺に告白してきた。


「私を彼女にしてくれませんか?」


俺は少し考えた。いくら大人びていても、

いくら同級生でも…年が違いすぎる。


「ゴメン。それは出来ないよ…。」


そう言うと、朝比奈の表情はみるみる内に曇っていった。

そして、朝比奈は涙を流した。


そのまま朝比奈は走り去って行った。

その場に取り残された俺は、朝比奈の事を考えていた。


「年の差…か。」


それが俺の心に大きく引っ掛かっていた。

これさえなければ…。俺は…。


あれこれ考えながら、家へと帰る事にした。

家に帰ると、小百合が待っていた。


「…何してんの?」


俺がそう言うと、小百合は俺の手を掴んで歩き始めた。


「おい…なんだよ…」


小百合に抗議するが、俺の話を聞く耳持たない。

そのまま引きずられ、とある公園へと連れて行かれた。


そこには、泣きじゃくる朝比奈の姿があった。


「中村君…朝比奈さんに何を言ったの?」


突然小百合が話しかける。

俺はなんと答えていいか分からずに、答えをはぐらかした。


「いや…別に…何も…」


『パシーーーン』


またしてもいい音だ。

これで2度目となる小百合の平手打ち。


「あんたね…少しは人の気持ちを考えなさいよ!」


小百合の言葉に、俺の胸は痛んだ。

だが、どうすればいいのか俺には分からず。

ただ痛む頬が、俺に何かを伝えようとしてる様に思えた。


「行きなさい!」


小百合が俺に怒鳴る。

だが、今さら何を言えばいいのだろうか。


「…俺は。俺は何も出来ないよ。」


そう小百合に伝えて、俺はその場を去った。


「逃げるなッ!!」


小百合の声が後ろから聞こえるが、

俺は振り向きもせず家へとむかった。


次の日、朝比奈は学校へ来なかった。

小百合に殴れた頬が小さく痛んだ。


朝比奈が学校に来なくなって、1ヶ月が過ぎようとしていた。

だが、俺は朝比奈に会う勇気が無かった。


その日俺は、担任に呼ばれ職員室へと来ていた。

朝比奈の事を聞かれるかもしれないが、俺には何もわからない。


担任の机の前に行くと、神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。


「中村。お前、朝比奈の事で何か聞いてるか?」


―予想通りか…。


俺は少し考えた振りをして、担任に答えた。


「え…?朝比奈がどうかしたんですか?」


担任は少し考えるとこう答えた。


「お前は朝比奈と仲良かったから、知ってると思ったが…。」


何も知るわけがない。あれ以来メールすらしていないのだから。

だが、担任の話は俺の想像とは違っていた。


「…朝比奈は、アメリカの大学に行く事になった。」


「…アメリカ…ですか?」


「そうだ。朝比奈のIQはずば抜けているからな。放っておく訳ないだろう。」


言われてみればそうだ。

IQ200を超える天才児が、いつまでもこんなとこに居るわけがない。


「…それで?いつからですか?」


担任は言い辛そうに答えた。


「…今日の夜の便で飛ぶ。」


「はぁ!?」


思わず声が出た。それにしても急すぎる。

俺は担任に食ってかかった。


「なんでそんな急に!?あいつは一言も言わなかった!!」


担任はうつむきながら俺に言う。


「…前から誘われていたんだよ。」


「朝比奈が行くと決めたのは…1ヶ月前だ。」


1ヶ月前…俺と朝比奈が最後に話した日だった。

まさか…あの涙は…


感がえるより先に、俺は走り出していた。

朝比奈のもとへと…。


朝比奈の家に行くと、引越のトラックが止まっていた。

俺が着くと同時に、そのトラックは走り出した。


「…!!待てッ!!」


俺はトラックを必死に追いかけた。

だが、直ぐにトラックの姿は見えなくなっていた。


途方に暮れていると、後ろから名前を呼ばれた。


「…中村君?」


朝比奈だった。

冷静に考えると、引越しのトラックに乗って行くわけがない。


自分の焦り具合に思わず笑いが出た。

朝比奈はそんな俺を不思議そうに見ると、釣られて笑っていた。


久し振りに朝比奈の笑顔を見た気がした。


この時俺はハッキリと気づいたんだ。

朝比奈が好きだって事に。


そう思った瞬間、俺は朝比奈を見れなくなっていた。

胸がどきどきする。


それは初めての体験だった。


近くの公園へと行くと、朝比奈はブランコに乗りながら

俺に問いかけて来た。


「…中村君は、何でここに居るの?」


そう言われて、俺は下を向いた。

朝比奈はそんな俺を見て、少し困った顔をした。


「たまたまかな…」


そう言うと、今度は朝比奈が下を向いた。

俺は心の中で必死に反論していた。


―違う!

 朝比奈が…

 朝比奈が居なくなるから…


あれこれ考えていると、朝比奈が立ち上がった。

時計を見なががら、俺に向かって言った。


「ゴメン。もうすぐ飛行機の時間だから帰らなきゃ…。」


そう言うと、朝比奈は向きを変え家へ帰ろうとした。

思わず俺は呼びとめていた。


「…待って!!!」


朝比奈がビクッと小さく反応した。

俺は言葉を続けた。

正直、何を言ったらいいのか分からなかったけど、

自分の気持ちを素直に伝えた。


「…行くなよ。」


俺がそう言うと、朝比奈は黙って首を振った。


「行くなよ!!!」


朝比奈が振り返る。目に涙を浮かべたまま。

俺の方を向くと小さく喋り出した。


「なんで…?そんな事言うの?」


「決心したんだもん…。アメリカに行くって。」


「もう…変えられないよ!!!」


そう言うと朝比奈は走り出した。

俺も直ぐに後を追う。


何で俺はあの時…

こうして朝比奈を追いかけなかったんだろう…。


後悔をしていた。

朝比奈の告白を断った事を。


だから、せめて…せめて俺の気持ちを伝えたい。


朝比奈に追いつくと、俺はそのまま朝比奈を抱きしめていた。

朝比奈は無理やり俺を引き離そうとする。


「離して!!!」


朝比奈の声が耳元で聞こえる。


「話さない!!」


俺は朝比奈に叫んだ。

すると朝比奈はポロポロと涙を流した。


「何で…」


そう言うと朝比奈は俺の胸の中で泣きじゃくった。

おれはただ、黙ってそれを受け止めるだけだった。


俺はより強く朝比奈を抱きしめ、朝比奈に思いを伝えた。


「俺は…。」


朝比奈が顔を見上げる。


「俺は朝比奈が好きだよ。」


朝比奈は黙ってそのまま聞いていた。


「もし…朝比奈が日本に帰ってきたら。」


「俺は…ずっと朝比奈の傍にいるから。」


「だから…ずっと待ってる。」


それを聞いた瞬間、朝比奈は俺にキスをして言った。


「約束…守ってね?」


俺は小さく頷くと、今度は俺から朝比奈にキスをした。

そしてもう一度、強く朝比奈を抱きしめた。


そして朝比奈は旅立っていった。


いつ帰ってくるのか分からない。

多分大学を卒業してからではなかろうか。


朝比奈の乗る飛行機を見送りながら、

俺は色々と考えた。


でも、朝比奈は直ぐに戻ってくる気がする。


だって…あいつは天才だから。


俺は小さく笑い、そのまま空港を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] あはは。何だか、不器用な人たちの物語ですね。それにしても、最初の方の朝比奈さんの反応は、人見知り、というレベルではないですよね…。不器用で人付き合いが下手な彼女の、そして、何か特別な想いがあ…
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