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6 手紙

「お姉様ったら」


 ちょっと驚いたけど、すぐに笑いが込み上げてきた。そうだ。これがお姉様だ。自由で、時折ちょっと意地悪で、でもどんな時も私を守ってくれた、最愛にして最強の、私の片割れ。それが今も変わらないんだと分かって嬉しくなる。


「さぁ、お姉様屋敷に入りましょう」


 陛下のことだから王子の話を間に受けることはないと思うけど、念のためお父様と連絡をとって万が一に備えておかないといけない。


「あのシルビィ様」

「どうかしましたか?」


 お姉様を馬車で連れてきた兵士の一人が話しかけてくる。お姉様を鎖で縛ろうとしたことを申し訳なく思っているのか、少々バツが悪そうだ。


「これを。大公様からの文です」

「お父様からの?」


 封書の印を確認する。なるほど、確かにお父様からの手紙ね。


「それと先程は命令とはいえ、ヘレナ様にあのような行いをしてしまい、大変失礼致しました」

「……いえ、王子の命令なら仕方ありません。それにお姉様の力を見た後では、貴方達がヘレナお姉様を過剰に恐れていた理由にも納得しました」


 理屈では。感情の部分ではまだ少し呑み込めない部分もあるけど、流石にそれを顔に出したりはしない。兵士の人達はそれぞれが謝罪の言葉を口にした後、重々しい馬車と共に去っていった。


「ごめんなさい、お姉様。随分とお待たせしてしまって」


 私が兵士と話している間、お姉様は微動だにせずにただ立っていた。


「さぁ、行きましょう。生憎とお母様は今いらっしゃらないけど、ミリアがいるのよ。ミリア覚えている? ほら、私たちの乳母で教育係だった」

「G……A。……(コクコク)」

「良かった。ミリアもきっと喜ぶわ」


 お姉様の手を取って一緒に歩く。久しぶりに触るお姉様の手は華奢な見かけとは裏腹に、柔らかな肌のすぐ下に鋼鉄を仕込んでいるかのような、そんな感触だった。


 スルリ、とお姉様の手が私から離れる。


「お姉様? どうしたの?」

「A、AB……B」

「え?」

「あ、あB、な、AAA」

「えっと、危ないって仰りたいの?」

「(コクコク)」

「そんな、全然危なくなんてないわ」


 もう一度手を繋ごうとしたけれど、お姉様は私の手をヒョイっと躱してしまう。そういえばさっき私が抱きしめた時も、ヘレナお姉様は決して自分からは私に触ろうとはしなかった。


 自覚があるのね。自分の力がどれだけ規格外になっているのか。本当、お姉様はどうやってあのような力を手に入れたのかしら? いえ、そんなことどうでもいいわ。大切なのはこれからよ。


「それじゃあお姉様、私と一緒に特訓しましょう」

「GA!?」

「お姉様が普通に過ごせるよう力の訓練をするの。ね? いいでしょう?」

「G、う、う……(コクコク)」

「やった。約束よ? それまでは一先ずこうしましょう」


 私はお姉様の手首を掴んだ。


「これなら問題ないでしょう?」

「(コクコク)」


 お姉様が嬉しそうに見えるのは、きっと私の見間違いではないと思う。屋敷に入るとミリアが恭しく出迎えてくれた。


「おかえりなさいませヘレナお嬢様。無事のご帰還、大変喜ばしく……よ、喜ばしく……ヘレナお嬢様!!」


 途中で感極まったのか、挨拶を放り出したミリアがお姉様を抱きしめる。お姉様はやっぱり自分からはミリアに触ろうとしなかったけど、でもミリアが落ち着くまでいつまでだって付き合った。

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