表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

5 堪忍袋の緒

 ずっとこうしていたい。そんな誘惑はあるけれど、現実はそう言うわけにはいかない。私はそっとお姉様から体を離した。


「さぁ、お姉様。屋敷に入りましょう」

「G、A……(コクン)」


 やっぱりそうだ。上手く喋れないだけで、私の言葉は理解できてるし、意思疎通も可能。これなら療養して貰えばきっとすぐに喋れるようになるわ。


「ま、待てシルビィ。まさかと思うがそれと一緒に暮らす気か?」


 ロロド王子が腰を抜かしたまま、分かりきったことを聞いてくる。


「そのつもりですが、それが何か?」

「何かではない。先程のを見ただろう!? その女は怪物だ。今すぐ殺すべきだ。いや、殺せ! これは王子としての命令だ」

「拒否します。その命令には従えません」

「なっ!? なんだと? それが一体どういうことか分かっているのか?」

「殿下こそ、大公の娘を手にかけるようご命令されたこと、陛下が知ればどう思われるか、考えた上でのご発言でしょうか?」


 この馬鹿王子は王族というだけで貴族がなんでもいうことを聞くと思ってるようだけど、領地を持ち独自の兵を持つ貴族はそれぞれが小さな国の王だ。その中でも強い力と他の貴族への影響力を持つお父様の娘を殺そうだなんて、聡明な陛下が許されるはずがないわ。


「シルビィ、婚約者だからと無礼に目を瞑ってあげていれば、この私に対してそのような振る舞い。覚悟はできているんだろうね?」

「どうなされるおつもりですか?」

「どうするだって? ふん。まずは君の言った通り父上に今回の騒動を報告しよう。君は父上が私よりも一貴族風情をとると思っているようだが、果たしてどうかな? 謝るなら今のうちだよ?」


 何でこの王子は腰を抜かしたまま格好つけてるいるのかしら? もういい加減堪忍袋の緒が切れそうだわ。


「そうですか。ご勝手にどうぞ」

「ぐっ、そ、そうかい。君のお父上も可哀想だね。そんな魔物女如きのために重い罰を受けることになるなんて」


 ああ、駄目だわ。もう限界。切れそうなんじゃない。絶対切れたわ、私の堪忍袋の緒。


「お父様がここにいらっしゃっても同じことを言うはずです! と言うかグタグタ言ってないで、さっさと報告に行けばいいでしょう。何が可哀想よ。可哀想なのは王子の頭の方でしょう」

「なっ!? なっ!? な、なんだとぉおお?」

「なんですか? 地面にお尻をついたまま凄まれても全く怖くありませんよ?」

「シルビィ!! 貴様ぁああああ!!」


 憤怒の表情で立ち上がったロロド王子がこちらに向かってくる。いいわよ。来るなら来なさいよ。王子だからって関係ないわ。思いっきりぶん殴ってやーー


「GAAAA!!」

「ひっ!?」


 お姉様の咆哮に当てられたロロド王子が再び尻餅をつく。思いがけぬ援護に私が驚いている間に、お姉様が王子に向かって歩き出す。


「く、来るなぁあああ!! お、おい、馬車を、馬車を出せ! 早く! はやーー」


 バァン!! とお姉様の足が地面を砕いた。大地に先程の比ではない大きくなヒビが幾つも走る。


「ひぃいいいいい!? 怪物!? 怪物だ!! 早く! 早く出せ!!」


 そうして王子を乗せた馬車が物凄い速度でうちの屋敷から去って行った。それを見送るとお姉様は私の方を向いて、


「GA」


 と、どこか得意げに胸を張るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ