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25 蜘蛛の効果

「お姉様、本当に大丈夫なんですよね?」


 一日経って戻ってきた地下室の前、私はロネンサに魔物を寄生させた件についてもう一度お姉様に問いただした。


『お姉ちゃんを信じなさい』

「……あの蜘蛛、人に使ったことはあるんですか?」

『誰にだって初めてはあると思うの』

「つまりないんですね」


 寄生した宿主を操る。そんな恐ろしい魔物まで居るなんて、魔の森を放っておけば世界が滅ぶ。子供を怖がらせるための作り話と思ってたけれど、認識を変えたほうがよさそうね。


「そ、それじゃあ開けますよ」

『何故震えてるし』


 地獄絵図が展開されてそうで怖いからです。なんて、お姉様を信用してないみたいだから言わないけど、それでも扉を開けるには少なくない勇気が必要だわ。ああ、もしも蜘蛛がロネンサの体を食い破って部屋の中を徘徊してたらどうしよう。


 ゆっくりとドアを開けて、そぉ~と部屋の中を覗き込む。


 ……あっ、よかった。大丈夫そう。薄暗い地下牢の中は昨日最後に見た時と何も変わってないわ。私は鎖に繋がれたままぐったりしているロネンサへと近付いた。


「おはようロネンサ。あれから一晩経ったけど考えは変わったかしら」


 まだ寝てるのかしら? ロネンサはピクリとも動かない。


「ロネンサ、起きなさいロネンサ。……ロネンサ? え? あのお姉様、これってひょっとして……」 


 あまりよろしくない想像を口に出そうとしたとき、お姉様が指をパチンと鳴らした。するとーー


「ひゃっ!? こ、ここは……あ、貴方達」


 良かった。普通に目を覚ましたわ。


 ホッと息を付く。そんな私を吸血鬼がキッと睨んできた。


「よくも私に、わた、ひっ、に、に、に、い、いい!?」

「……あの、お姉様、ロネンサはどうしたんですか?」


 はたから見ているとかなり危ない感じなんだけど。


『あの蜘蛛に寄生された人は女王蜘蛛に対して、脳汁ドパドパで言うことを聞きたくて聞きたくて仕方なくなります』


 生存本能の書き換えということかしら? お姉様が使役しているとわかっていても、体に侵入した蜘蛛が脳を弄っていると思うと鳥肌が立つわね。


「この場合の女王はお姉様という事でいいんですよね?」

『鞭はないけどね』

「はい? 王冠ではなくてですか?」


 女王の話をしていてどうして鞭が出てくるのかしら?


『い、妹がピュアで辛ひ』

「え? あの、お姉様、先ほどから一体何の話をされているんですか?」

「GA」


 お姉様はその話はいいからとばかりにロネンサを指差した。女王と鞭の関係については気にはなるけれど、確かに今はロネンサよね。早く情報を引き出してロイを助けに行かないと。


「ロネンサ、ロイの居場所を言いなさい」

「だ、誰が……ひゃああ!? う、あ、ああっ……い、いうもん、で、でひゅ……か、あ、あ」


 私の横に並んだお姉様がロネンサに色紙を見せる。


『シルビィの質問に答えて。これは女王の命令です』

「わ、私は誇り高き、きゅ、きゅ、吸血……ヒィイいいい!?」


 ビクン、ビクンと大きく体を振るわせるロネンサ。やがてーー


「は、はひぃ、な、何でもお答えい、いたします」


 蕩け切った顔でそんなことを言った。


「……あの、お姉様、その蜘蛛絶対に人には使わないでくださいね」

「GA」


 軽い感じに頷いているけど、本当に分かっているのかしら? ちょっぴり、ううん、かなり不安だけど、今はこっちよね。


「それじゃあもう一度聞くわ。ロイはどこ?」


 ロネンサは今度は簡単に喋ってくれた。

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