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1.帰還の指輪

 暗く、一切の灯りが存在しない森の中を幼い私が走ってる。


「怖い! お姉様、私怖い。怖いよぉ~!!」


 この時の私はまだ十歳。突然魔族に誘拐され、何とか逃げ出したまではよかったものの、右も左も分からない暗闇の中、ただ泣きじゃくるしかできなかった。


「頑張って、お姉ちゃんがついてるわよ」


 そんな中、双子の姉であるヘレナは違った。姉だってこの時まだ十歳だったのに、情けない妹の手を引く彼女の手はどんな騎士よりも力強く、頼もしかった。


 だから私は走った。姉に言われるままに必死になって。でもどれだけ走っても明かりは見つからなくて、ついには前を走るお姉様の足が止まってしまった。


「お、お姉様。ヒック……ど、どうして……ヒック……止まるの?」


 この時、私に背中を向けたお姉様は果たしてどんな顔をしていたのだろうか? 強い決意の表情をしていたのか、あるいは泣き出す寸前だったのか、どちらにしろ私に向かって振り返った時、お姉様はいつもと同じ自信に溢れた笑みを浮かべていた。


「ジャジャーン! これ、何だと思う?」

「え? ゆ、指輪……だよね?」


 暗くてよく見えなかったが、お姉様の右手の中指にあまり可愛くない指環がついているのは知っていた。


「ただの指輪じゃないんだな、これが。これはね帰還の指輪って言って。あらかじめ設定しておいた場所に一瞬で辿り着ける凄いアイテムなのよ。私達の場合は屋敷に帰れるわよ」

「えっ!? な、なんで? なんでそんな物を持っているのに今まで使わなかったの?」

「ふふ。最近生意気になってきたシルビィの泣き顔が面白くて。これに懲りたらお姉ちゃんには敵わないって肝に命じておくのね」


 幼い私はお姉様のそんな嘘を間に受けてしまう。


「もう! お姉様の意地悪! 馬鹿! 馬鹿! きらい! お姉様なんて大っ嫌い!!」

「あら、さっきまでピーピー泣いてたのに。急に威勢がよくなったわね」

「泣いてなんかないもん」


 助かると分かっていつもの調子が戻り始めた私。でもそれは長く続かなかった。ガザリ、と闇に中で音がしたのだ。


「お、お姉様。ね、ねぇ、もう良いでしょう? おうち帰ろうよ」

「はいはい。それじゃあこの指輪をつけなさい」

「う、うん」

「よし。それじゃあ魔力を通して。うん。ちゃんと発動するわね」

「帰れる?」

「ええ。帰れるわよ」


 その一言で心底ホッとしたのを今でも覚えている。そしてその後すぐお姉様に壊れそうなほど強く抱きしめられことも。


「お姉様?」

「覚えておいて、私は貴方が大好きよ。たとえシルビィがどんなにお姉ちゃんを嫌っても。お姉ちゃんはいつだってシルビィの味方だから。それを忘れないでね」

「う、うん。そうだ。お姉様。帰ったら一緒にーー」


 そこで光が私を包んだ。あまりの眩しさに目を瞑り、そして再び開いた時にはーー


「お、おおっ!? シルビィ。シルビィなのか?」

「お父様!? お母様も!」


 目の前に大好きな両親がいた。お母様は私に駆け寄ると先程のお姉様に負けないくらい強く私を抱きしめてくれた。


「ああ。神様。ありがとうございます。シルビィ、シルビィ。本当に良かったわ」

「うん。あのね。お姉様が指輪をもってて。ちょっと意地悪されたけどお姉様のお陰で戻れたの。ね? おねえさ……お姉様? あれ? お姉様、ど、どこ?」

「シルビィ」

「ち、ちがうの。私、確かにお姉様と一緒にいたんだよ? ねぇ、お姉様? どこ? 意地悪しないで出て来てよ。ねぇってば、お姉様!?」


 嫌な予感に視界が涙で滲む。お父様が沈痛な面差しで近づいてくる。いつもは厳格なお父様の目尻に浮かぶ涙を見て、私の嫌な予感はどうしようもなく膨れ上がった。


「シルビィ、よく聞きなさい。ヘレナが用いた帰還の指輪は現存する最後の一つ。それを誰に渡すか私達はとても悩んだ末、ヘレナに持たせた。身の危険を感じた時、これを使うようにと。だがヘレナは……自分の身よりも、お、お前を優先したようだ」

「うそだ! そんなの嘘だ!! ねぇそうでしょお母様。お姉様のいつもの悪ふざけだよね? お姉様? お姉様どこ? どこなの? 意地悪しないで出てきてよ! お姉様ぁあああ!!」

「ああ、シルビィ。貴方は悪くないのよ」

「わ、私。お姉様に嫌いって言っちゃった。全然嫌いじゃないのに。こ、こわくて。そ、それで、うわぁあああん!!」


 この後、お父様は持てる限りの私財を投げ打って、お姉様を探した。でも結局見つかることはなく無情にも月日は流れていった。


 そして六年の歳月が経ったある日、領地の視察に出かけたお父様から突然連絡が入った。お姉様が見つかったと。

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