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第二十五節

 目が覚めると、医師がやばいですね的なことを言っていた。悪運が強いのか、一応一命は取り留めたらしい。しかし外出は当分できないという。本当におろかだ。会いたいと気付いた瞬間に外出ができなくなるなんて。なんでだろーな。神様に遊ばれているのか。


 ただ一つ言えるのは、こんな状況だというのに親が見舞いに来ないという点。薄情だな、と私は完全にこの段階で両親を切り捨てた。


 「神様ぶっ殺す」


 私絶対化けて出るから。虚勢を張るも、やはり死ぬことは怖かった。あの一件後、私は本気でそう思っていた。


 医師が去ってから、私は布団にこもる。


 死にたくない。


 せっかくの思い出も、何もかもが消えてしまう。死ねば、全てがなくなる。


 「ふざけんなよ」


 なんで私ばっかり。


 親の過度な期待から逃げ、君原から逃げ、京介から逃げた。


 何もできない。


 何も成せない。


 畜生。


 死にたくない。


 死にたくないよ。


 恐怖が体をむしばむ。腹が重くなる。いっそ狂ってしまえば楽なのか。


 京介は私を変人と言った。だけど、違う。


 他の人と同じで、私は死ぬことが怖い。私が私でなくなる感覚。怖い。怖い。怖い。怖い。


 布団を握りしめる。顔を埋める。


 目が熱くなってきた。悔しくてたまらない。泣きそうだ。涙が布団を濡らしていく。嗚咽を隠し、歯を食いしばる。一秒でも長く、生きていたい。


 あの女児の言うとおりだ、私は、今後悔している。いっそ、あの場で死んでいればよかったんだ。そうすればこんなこと考えずに済む。……ほら、やはり私は、逃げようとしている。そんな自分が、大嫌いだ。


 京介。


 会いたいよ。


 分かってる。


 その祈りは、届かない。


 逃げたのは私。隠れたのは私。だから、京介は見つけられない。


 全て、自業自得。因果応報。


 なのに、都合よく私は会いたいと願っている。


 お願いだ。


 私を見つけてくれ。


 涙を拭こうと目をごしごしと擦る。


 「ちょ、お待ちください!」


 遠くで焦った声が聞こえる。さっきの医師の声だ。なにかあったのだろうか。しかもドタドタと院内を駆け巡る足音まで。どんどん近付いてきてる。


 ドタドタドタドタ。


 騒がしい。


 布団に顔をこすりつけ、顔を上げる。


 ガタン!


 ほぼ同時に乱暴にあけ放たれた扉。


 息を切らし、立ち尽くす少年。


 目を疑った。まさか、夢の中なのではないかと数度考えてしまうほどに、それは非現実だった。


 しかし、間違いない、彼は――、京介は息を切らせながら、私を睨みつけた。制服に、片手には地図。


 「やっと、見つけた」


 怒気を孕ませた口調のまま、京介は、私のもとに近づく。誰がどう見ても怒っている顔だ。


 ああ、おそらくこれは怒られるだろう。だけど、それでもよい。


 緩んでしまった口角とともに、私は生きたいと強く願う。


 普通じゃないだろう。こんな、あんなひどいことを言った私のもとに怒るために訪れるなんて。


 ……修復、できるだろうか。


 嫌、しなければならない。私もいい加減逃げるのをやめよう。京介を見ていたのは、死ぬ心理を知りたいだけじゃなかった。


 その立ち上がる過程を見たかったんだ。私の分身として。


 逃げていたのは自分だった。両親から逃げ、他の連中から真実を隠し逃げて。


 だから、もう逃げてはいけない。


 向き合わないと。自分がまいた種を、いま取り除こう。


 「久しぶりだな、京介」


 いつも通りの、冷えた口調とともに、私の思考に理性が戻り始めた。


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