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テラスの入り口に立っているアズレイトは、驚いているサーシャを見てもふわりと笑みを浮かべるだけだった。言葉にするなら「やっと気づいてくれましたか」といった感じで。
つまりアズレイトは、かなり前からここに居たことになる。
......ったく、黙っていないで声をかけてくれれば良いのに。
そんなことを心のなかで呟いた途端、アズレイトがゆっくりとこちらに近付いて来た。
「なにやら熱心に星を見られていたようで、お声掛けしては妨げになるかと思い、ここで待機しておりました。申し訳ありません」
「......そっすか」
ああ、本日もまた声に出してしまったようだった。
サーシャは素知らぬ振りをして、アズレイトから目を逸らす。
きっとアズレイトは自分のことを口の悪い小娘だと思っているだろう。そして、何でこんな奴が聖女なんだとすら思っているのかもしれない。
そう思われても仕方が無いことばかりやっているのでアズレイトを責めるつもりはない。でも、やっぱりちょっと胸がしくしくと痛んでしまう。
と、結構な文字数をサーシャは心の中でまた呟いているが、今回はちゃんと口元に手を当てているので、うっかり声を出すことはしなかった。
けれどその仕草は、アズレイトに向けて誤解を生んでしまうものだった。
「サーシャさま、寒いのですか?良かったらこれをどうぞ」
どうやらアズレイトの目には、サーシャが寒くて両手に息を吹き掛けているように見えたらしい。
「あー、大丈夫です。私、毛布があるんで。それよりアズさ......あ、いえ。アズの方が寒いのでは?」
「お気遣い痛み入ります。ですが、まったく寒くないです。それよりサーシャさまが寒そうにしておられるほうが辛いです」
「......はぁ」
今さらだけれど、サーシャは寝巻き姿ではあるが、毛布を身体に巻き付けているのでモコモコ状態なのだ。
対してアズレイトは、シャツ一枚にマントを片手に持っている軽装。日中はいつも結っている髪は、今は背に流れている。
春の夜はかなり寒い。
なのにこんな薄着なのは、多分、部屋で寛いでいた際に、何かの拍子にテラスにいるサーシャを見つけて、駆け付けてくれたからなのだろう。
腰にはしっかり剣を差しているから、護衛としてずっとここに居てくれたのかもしれない。
アズレイトをまじまじと見つめたサーシャは、悪いことをしたなと素直に思った。
ブルジョワ感を強要されたことに対しては、文句の一つでも言いたいところ。でも、アズレイトの貴重な休息を邪魔するつもりはなかった。
それに文句なんて腐るものじゃないのだから、それを言うのは明日でも十分だ。
「......あの、ごめんなさい」
「なにがでしょうか?」
サーシャの肩にマントを羽織らせたアズレイトは不思議そうに首をかしげた。
「いや......だから、せっかく休んでいたのに、私がここに来ちゃったから......その......」
話せば話すほどどんどん首の角度が深くなるアズレイトに対し、サーシャもどんどん声が小さくなってしまう。
そして、最後の言葉は夜風に揺れる木々の枝葉の音にかき消されてしまった。
「───......サーシャさまは、変なところを気にされるのですね」
しばらく無言でサーシャを見つめていたアズレイトは、呆れたように小さく笑った。




