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 玉座の真下───魔界では、苛烈な争いがあった。


 とうに息絶えたはずの初代の聖女が復活したりするという小さな奇跡もあったりした。

 復活した聖女は、後に勇者と呼ばれることになる王子に対し「可愛い子孫を泣かしたらぶっ殺す」と脅したりもした。


 仲間達が傷つき、王子も深手を負ったりもした。幾度も絶望を味わった。


 ───でも、


 とうとう死闘の末、魔王の体内に埋め込んでいた不老不死の宝玉をほじくり出すことができた。それは同時に、絶対に不可能だといわれていた魔王を打ち倒した瞬間でもあった。


 ただ、それは水面下で行われていたことなので、ライボスア国は至って平穏な日々が続いていた。




 そして、初代の聖女の魂の欠片は天に昇り、深い眠りについている今代の聖女の手首から紋章が消え、魔王討伐を終えた王子達が帰還した。


 



 ライボスア国は本当の意味で安寧の日々を手に入れることができた。けれど今代の聖女は未だに目覚める気配すらなかった。


 不老不死の宝玉を加工して作った秘薬を飲んでも。

 幾度の季節が過ぎ去っても。




***






「───......サーシャ、起きなさい」


 心地よい温もりの中、泣きたくなるほど懐かしい声が耳朶に響く。その声を聞くことなどもう一生無いと思っていたのに。


 嬉しい......だからこそ哀しい。そんな矛盾する感情が暴れて、サーシャの胸に締め付けられるような痛みが走った。


 ─── おかあさん。


 そう、サーシャが言おうとすれば、声の主はそれを遮るように再び言葉を紡ぐ。


「いつまで寝てるの?サーシャは相変わらずおねぼうさんね。もうお姉さんになったんだから、ちゃんと一人で起きれるようにならないと」


 苦笑混じりのその声と同時に、サーシャの額に暖かい何かが触れた。


 2拍遅れてそれが誰かの手だと気づく。


 ただ、それは随分と大きくてごつごつとしていた。記憶の中にある母の手はもっと柔らかかったはずなのに。なんで?


 サーシャは首を捻る。そしてこの手の持ち主は一体誰なのかとも考えた。そうすれば心の芯がポカポカと温かくなる。


「サーシャ」


 再び母から名を呼ばれる。ちょっと苛立っているように感じたのは気のせいだろう。それより、この手の持ち主って......

  

 と、そこまでサーシャが思考を巡らせた瞬間、不機嫌さを凝縮した低い声がサーシャの耳を刺した。


「い、い、加、減、起、き、な、さ、い」


 一文字一文字を区切りながら言うそれは、母が怒髪天を衝いた何よりの証拠。


 ザッと青ざめたサーシャは「ごめんなさい!」と叫びながらパチリと目を開けた。




 




「......あ、れ?」


 ぼんやりと見える景色にサーシャは、ポカンと口を開けたまま固まってしまった。


 まったくもって見覚えがない。一体全体、ここはどこなのだろう。なんでこんな真っ白な部屋で自分は寝ているのだろう。

 

 サーシャは霞がかった思考の中、一生懸命に記憶を手繰ってみる。


 ─── 時間にして数秒後、サーシャの思考が停止した。


 そりゃあそうだ。だって、サーシャの最後の記憶は自分が死んだところで終わっているのだから。続きがあるなんて、予想外にも程がある。


 そんな訳でサーシャはもう一度目を瞑る。深い意味は無い。完璧な現実逃避だ。けれど、それを誰かが引き留めた。


「やっと目を覚ましてくれたのに、すぐに寝るなんて......それはあんまりではありませんか?せめて、おはようくらいは言わせてください」


 不機嫌と言うには甘い声音で、睦言と言うには辛口なそれに、サーシャはぎょっとして目を開けた。ここに人が居るなんて、ぜんぜん気づかなかった。


 慌てて仰向けになったまま視線を左右に動かせば、寝台のすぐ脇の椅子に腰かける一人の青年がいた。


「おはようございます。サーシャさま」


 目があった途端にこりと笑った青年の声をサーシャは知っている。けれどその容姿には少々見覚えがなかった。


 そう、()()


 だからサーシャは、挨拶を返すことを忘れて、おずおずとその人に向けて問いかけた。


「あのぉ......もしかして、あなたはアズさんなんですか?」


 そぉっとサーシャが問いかけた途端、青年は美しい顔を歪めてこう言った。


「......生涯を共にと誓った相手に対して、それはちょっと無いんじゃないですか?」


 問いかけてくるアズレイトは、口調だけは丁寧だが全身から怒りのオーラを放っている。


 そんな彼を直視する元気はまだ無いので......サーシャは、一先ずそっと目を逸らした。

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