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第1話 その日、少年は思わず『不能』と叫んだ

 皆は下ネタは好きだろうか?


 思春期。特に高校生になると男女を意識した会話が多くなり、こうした下ネタを友人同士で交わすようになるかも知れない。

 誰々の胸が大きいだの。体育の時の格好がどうとか。


 だが、あえて言おう。

 オレはこうした下ネタが苦手だ。

 口にするのも恥ずかしいし、友人同士とは言え、そうした会話は極力したくない。

 しかし残念なことにうちのクラスの男子にはそうしたデリカシーは全くなかった。


「なあなあ、今日も夏美さんの胸でかくね?」


「ほんとほんと。つーか、あれで陸上部のエースとか無理あるよー」


「マジで太ももも大きいしさー。あれじゃあ、競技以前の問題だよなー」


 今日も今日とて我がクラスの男子達は、そうした下ネタを言いまくっている。

 夏美さんというのは我がクラスのアイドルにして学年一の美少女と言われる陸上部期待のエース、本城ほんじょう夏美なつみ

 学年主席で成績トップ。更に運動神経抜群で、人当たりもよく、性格も優しくて穏やか。後輩にも先輩にも慕われるまさに絵に書いたように美少女。

 なのだが、そんな見目麗しい完璧美少女であろうとも男子達の邪な視線は避けられなかった。

 むしろ、男子達はわざと夏美さんに聞こえるように本人を前にそうしたセクハラっぽい話題や下ネタを口にする。


「あーあ、早く体育の授業にならねえかなー。夏美さんの胸がプルンプルン揺れてるところ、早く見てー」


「確かに制服越しだとイマイチ胸の大きさ分かんないけど、夏美さん脱いだらマジすごいからなー。着痩せするタイプっての? つーか、クラスでも一番の巨乳だよな」


「やっぱ女は胸だよなー。胸ー」


 そう言って惜しげもなく夏美さんの胸に視線を送る男子達。

 当の夏美さんは彼らの会話が聞こえてないように読書を続けているが、内心では迷惑に違いない。

 男子のオレですらこいつらの会話は聞くに耐えない……。そうオレが思っていた時であった。


「なあなあ、透もそう思うだろう?」


 あろうことか男子グループの一人がオレにそう話しかけてきた。


「いや、オレは別に……」


「嘘つけよ! つーか、ぶっちゃけオカズにしたことあるだろう?」


「はあ!? 何言ってんだよ!? そんなことするかよ!!」


「またまたー、クラスの女子オカズにするとか健全な男子なら当然だろうー」


「そうそう、オレなんか隣のクラスの秋葉ちゃんとか、よくネタにしてるよー」


「分かるー! 秋葉って絶対ビッチだよなー! 態度もそうだし体エロいしねー!」


「いやいや、エロさで言えばやっぱうちの夏美さんでしょう! 彼女の巨乳の前には秋葉さんだってかすむよー!」


 ガヤガヤとオレを中心にクラスの男子達が湧き上がり、クラスの女子達はそんなオレ達をまるで汚物でも見るように見下している。

 ち、違う! オレはこいつらとは違う! こんな下ネタトークになんか参加したくないんだ!

 そう思い夏美さんの顔を見ると、一瞬彼女の唇が動いたのを見た。

 辛そうに下唇を噛み、明らかに男子達の会話に嫌悪を抱いた様子だった。

 それを見たオレはたまらず叫んだ。


「いい加減にしろよー! オレはそういうのに興味ないんだよー!!」


「またまたー、嘘つけよー」


「そうそう。エロに興味のない男子なんていないってー」


「ここにいるわー!」


「はあ、お前何言ってんの? 嘘つくのも大概に……」


「嘘じゃねえよ。オレはエロになんか興味ない。なぜならオレは――」


 その時オレは男子達のあまりの下ネタのキツさにそれから逃れるためにとんでもないことを口走ってしまった。


「オレは不能だから下ネタには興味が沸かないんだよーーーーーー!!!」


『…………』


 はあはあ……。

 あ、あれ? 今、オレなんて口走った?

 勢い余って、そう言って時には全てが手遅れだった。

 教室中の、それこそ男子のみならず女子、果ては授業を開始しようと教室に入ってきた先生、更にはあの本城夏美さんまでも呆気に取られた表情でオレを見つめていた。


 え、いや、あの、さっきまでの騒ぎはどこに?

 僅かな沈黙の後、先ほどいの一番にオレに下ネタを振った友人が気まずそうにオレの肩に手を置いて告げる。


「……あー、その……わ、悪かったな、透。お前もその……苦労してたんだな……」


 え、いや、ちょっと待って。

 なにそのガチで同情したような目。

 見ると、そいつだけではなくクラス中の全員がなんとも言えないような表情でオレを見つめ、あるものはオレから距離をとって机に座り出す。

 やがて、それを見かねたのか先生までも「そ、それじゃあ、授業を開始するぞー」と周りの空気をごまかしてくれる。


 やっちまった。

 なにがとは言わないが、とにかくやっちまった。

 無論オレは不能ではない。単に下ネタが嫌すぎて、それを口にしたくない口実で口走っただけであった。

 だが結果として男子達の下ネタトークを止めて、その被害に遭っていた夏美さんを救えた。

 そう思うだけでも少しは救われる気がした。


 そう思い、この件については忘れようとするオレ。

 しかし、この時のオレは気づいていなかった。

 オレのこの宣言を耳にし、ある少女がとんでもない決意を抱いていたことに。

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