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第七話 旅立ち

 私とアリスは、家だった廃墟で必要なものを探して纏めた。


 保管していた食料品も、全て気味の悪いものに変わっていた。

 飲み水にも黒い粒が浮いているし、干し肉にも黴のようなものが目立つ。

 そもそもが、何の肉であったのか定かでもない。

 ……捨てたかったけれど、これを捨てても別の食料品が手に入るとは思えない。


「うわぁ、お鍋も真っ黒……こんなので調理してたの……。大丈夫なのかなあ、アリスゥ……こんなの食べて」


 私がそう言うと、アリスはつかつかと歩み寄ってきて、台所にあった干し肉を掴んで噛みついた。

 表情を変えずに、くっちゃくっちゃと雑に食べる。

 つ、強い……。


「今まで大丈夫だったんだから、死にはしないです」


「そうかもしれないけどぉ……」


「そんな有様じゃ、この先やっていけませんです。この家は、守られてはいたようですから」


 ……これまで私達が異形の獣だらけのこの森で大怪我をせずに済んでいたのは、きっと昨日会ったような化け物が、この家近くまで来ることがなかったからなのだろう。


 アリスは、夜外に出ることを異様に恐れていた。

 私も、これまで夜間に外出しようとした記憶はあまりないし、家から大きく離れたこともない。

 あのメッセージを残した人物が、私達にあの化け物を回避するよう暗示を出していたのかもしれない。


 そう考えると、この家から離れることはかなり危険なのかもしれない。


「……そういえば、あの杖について、何かわかったですか?」


 アリスに尋ねられ、私は頭を掻いて苦笑いする。


「……何か思い出しそうな気はしたんだけど、全然」


 夢の中で私は、《次元の杖》を武器のように用いていたはずなのだ。

 手に持った時、身体全身に妙な感覚があった。

 手で触れていると、何か思い出しそうな気はする。

 ……しかし、どれだけ試しても、それ以上はてんで駄目なのだ。


「何か変化があるまでは、この廃墟で待ってみてもいいのではないですか?」


「そうすると、いつまでも出られなくなっちゃいそうだし……」


 荷物を纏め終えた。

 修繕跡だらけの鞄に、食料品や水入れ、料理器具なんかを詰め込んだ。

 さて出発しようという話になったとき、アリスと考えが衝突することになった。


「……何を考えてるです、ルーン」


 アリスが苛立った声色で私へと言う。


「で、でも、置いていくわけにはいかないよ」


 旅にリシェルを連れていくかどうか、意見が割れたのだ。

 

「リシェル……自分でご飯も食べられないもの。大丈夫、ほら、手を繋いだら一緒に歩けるから、ね?」


 私はリシェルの手を引いて、歩いて見せる。


「う、あ……」


 リシェルは呻き声を上げ、私に持たれ掛かるようにしながらも足を進める。


「……ルーンは、ソレを見るのは辛いと言っていたですが」


「そ、それじゃないよ、リシェルだよ! 私も最初はびっくりしちゃったけど、やっぱり置いていけないもん……」


「そんなのを連れて、長旅を続けられると思っているのですか?」


「そんなの、なんて呼ばないであげてよ! リシェルなんだよ! ずっとここで、一緒に暮らしてきたんだよ!」


 アリスは、無表情で担いでいた銃を手にした。

 銃口は、リシェルに向けられていた。


「アリスッ!」


「……ルーンは、ソレを目前に幻を見せられていただけです。ソレは昔は真っ当だったなんて、怪しいものです」


「そ、そんな……」


「……ルーンは、今も変わらないでいてくれているので、ボクにとって大切な相手です。でも、ソレは違います。幻の中で見せられていたリシェルと、ソレは別物です。たまたま似た外見をして、同じ場所に座っていただけです。置いていきましょう」


 アリスの言っていることは、もしかしたら正しいのかもしれない。

 ただ、それだって確証のあることじゃあない。

 それに……私は、あのリシェルが幻だったとして、それでも今のリシェルを見捨てたくはない。


「割り切れないなら、ボクがソレを撃ち殺してやるです」


 アリスが銃を構える指に力を入れる。

 私はリシェルを庇う様に前に飛び出し、アリスを睨んだ。


「やめてよ! 私は、リシェルを戻してもらいたいの!」

 

 そもそも、今のリシェルを私の記憶通りにしてもらうなんて、不可能なのかもしれない。

 だが、例の人物は明らかに超常的な力を有している。

 リシェルを生きたまま連れていくことができれば、きっと希望はあるはずだ。

 私は……そう信じたい。


 アリスは私が前に出てくると、すぐに銃口を下げた。

 それから少し、黙ったまま私を見つめた。


「……わかりました、です。でも……もしも危険な事態になれば、ソレは真っ先に切り捨てるです。いいですね、ルーン」


 私は迷ってから、躊躇いがちに頷いた。

 アリスも妥協してくれる様子を見せてくれたのだ。

 彼女にとっても、この旅は命懸けのものになる。

 ここは、折れなければいけないところだろう。


 でも、あんなに迷いなくリシェルに銃口を向けられるとは思わなかった。


「あえり……かえり……」


 旅立ちを前に気まずい空気の中、リシェルだけが焦点の合わない目で、ぼうっと空を見上げていた。

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