第1話「刻まれた使命と抱え込まれて私兵となる」
科学だけでもない。魔法だけでもない。科学と魔法。比率は10対10!処女作のため稚拙な文章ですが見ていただけるとありがたいです。
……ふと目が覚めた。
「……ここは…」
「目が覚めたか?侵入者よ。」
枷を着けられ牢屋に閉じ込められた彼女の目の前から声がする。鉄格子の先から見えたその声の主は幼く、赤いドレスを着こなし、金色の髪を手で払いのけていた女の子だった。
「自分の名前はわかるか?もしやここがどこかもわからぬか?」
「私の…名前…そうだ…私の名前はケイ…そしてここは……」
記憶が戻り、過去の記憶がフラッシュバックする。確か遡ること二日前のことだ。
***
ケイが身を置いている組織、『邪鬼』。様々な方面から来る暗殺の依頼が仕事だ。政治や経済関連、時には浮気相手を殺してくれなんて依頼も来る。金さえ払ってくれるなら邪鬼はどんな殺しの依頼も請けている。
ケイはその邪鬼の四天王の一人。わずか21歳で組織の中ではトップクラスの実力を誇っている。これまで標的を仕損じたことは一度たりとてない。
今回もまた仕損じることはない…そう思われていた。
その日、ケイは組織のリーダーに呼ばれリーダーの部屋に来ていた。
「…ケイ。よく来てくれた。」
「リーダー。依頼内容は?」
「…二人でいるときはゼロでいいと言ったはずだが?」
「仕事の話をするのでしょう?だったらリーダーの方がいいわ。」
「…わかった。依頼内容は貴族の暗殺だ。これがターゲットの写真だ。」
渡された写真には小さな女の子が写っていた。
「この女の子の名はファンディール・メドゥ。成り上がりの貴族、ファンディール家の当主だ。」
「当主?娘とかじゃなくて?」
「ああ。わずか八歳で当主の座に就き、急成長を遂げ、九歳で社交界デビューした奇才だ。この女の子を殺すのが依頼だ。」
「…わかった。それで報酬金は幾ら?」
「200万だ。前払いとして50万は貰った。」
「…どうやらまともにお金を支払ってくれそうね。この前も外国へ高飛びして行って報酬を払わなかった奴がいるし。」
「そうだ。依頼主は貴族のラトル家の者だからな。金には困らんのだろう。」
「じゃあ、すぐにでも出発しよう。」
「その前に…我らの掟を再確認だ。」
「恒例のやつね。わかった。」
ケイとゼロは向かい合い、掟の再確認を行った。
「我ら、日陰者なれど…」
「気高き魂は月明かりの如く。」
「行ってこい。」
「ああ。」
ケイはゼロの部屋を後にし、アジトの外に出た。
「おやおや?仕事ですかなケイちゃん?」
気怠気な声でケイに話しかけてくる女性がいた。名前はカータ。
彼女もまた邪鬼の四天王の一人である。
「ああ。そうだよ。カータ。留守は頼んだよ。」
「ふふーん…任せなさーい。この女性型アンドロイドのカータが貴方の帰る家をバッチリ守りますからねー。」
「頼りにしてるよ。」
そう言うとケイはアジトから飛び去り、闇夜に溶け込んでいった。
程なくしてケイはターゲットのいる屋敷にたどり着いた。
しかしケイはある違和感を抱いていた。
「…警備が手薄すぎる…」
そう。警備が手薄。その手薄さは筋金入りなのかなんと屋敷の門番二人しかいなかった。その他にはそれらしき人影すら見えない。
(貴族と聞いていたが…この少なさは…罠?一応警戒しておこう。)
「Assassins Skill 『影落ち』。」
ケイがそう唱えると体を影の中へ溶け込ませる。影となったケイは屋敷の中へ音もなく染み込む。
そして屋敷に染みきり影から姿を現す。
すでにケイは屋敷の間取りもゼロから聞かされていたので、ケイは今、ターゲットの真上にいる。
ターゲットは玉座のような椅子に座っている。
(なんてわかりやすい…自ら殺してくれと言っているものだ。)
さて、暗殺手段だが…手っ取り早く首を切っておくのがいいだろう。
ケイはその身を自由落下+脚力でターゲットの首まで近づく。
首まで…そう首まで近づけるはずだった。
刃を振るうその瞬間にケイは何かの衝撃を受け一瞬で地面に落とされた。
「!?」
驚いた。一瞬何をされたのかわからなかった。痛みから察するに後頭部に打撃を喰らってしまったようだ。ターゲットの方を向くととターゲットの隣に燕尾服を着た老齢の男がいた。
(あの男がやったのか…?とっ、ともかくここは退却…)
退却しようと足を踏ん張るとぐらついた。
(しまった!あの一撃の余韻がまだ…)
体がぐらつき、意識を失ってしまった。
そして再び目覚めた時にケイは暗い部屋で手錠をかけられ身動きが取れなかった。猿轡も咥えさせられ自殺も許してくれないようだ。
(……くそっ…)
「おっ?どうやらお目覚めのようだ。」
「お嬢様。あまり近づかぬほうがよろしいかと。」
「わかっておる。この前の侵入者は元気が良かったからな。…さて、爺や。猿轡を外してやれ。」
「よろしいのですか?自殺する可能性も…」
「よい。妾はこの者のことを知りたい。神通力など、妾は使えぬからな。喋ってもらうしか方法がない。」
「かしこまりました。それでは…失礼。」
老齢の男がケイの猿轡を外した。
「さて…これで話すことができるな?お主。名前は?」
「……」
「話さぬか……では、とりあえず侵入者と名付けておこう。」
「……」
「ふむ…無言を貫くつもりか。そうくるならこちらにも考えがある。」
「……ではお嬢様。拷問の準備に取り掛かりますが…どちらになさいますか?」
「両方じゃ。」
「かしこまりました。」
老齢の男が部屋を出ていった。
「爺やはああ言っておるが、安心せい。妾の拷問はゲームのような物じゃ。情報を吐かすようなこともしない。楽にしておけ。」
……その言葉を境に記憶が曖昧となった。
***
「くそっ…こんな…」
「思い出したか?ならよい。しかし…よくぞ耐えた。」
「…?」
「いやなに。妾の拷問という名のゲームは死人がよく出るが…それを耐え抜き、こうして生きていることはとても誇らしいことだ。胸を張ってよいぞ。」
「…どんな拷問だったか思い出せないが…私の心はそんなものでは砕けない!」
「ふむ。なるほど…益々もって興味が湧いたわ。」
「なんだ?自白剤でも飲ませるか?私は屈しない!どんなものでも耐えてみせる!」
「お主。妾の部下になれ。」
刹那。ケイはその言葉を上手く飲み込めなかった。そして自身の耳を疑った。
「……は?なっ…なんて言ったんだ…?」
「じゃから…妾の部下になれ。」
「………は?」
「じゃから…ケイ。お主が、妾の、部下に、なれ。と言っておるのじゃ。」
理解ができなかった。こんな状況で何を言っているんだと思った。
「……お前狂っているのか…?」
「失敬な。妾は狂ってなどおらん。それで?どうじゃ。妾の部下にならんか?」
「いや…この状況ではいわかりましたと言える方がおかしいだろ…」
「なんと。つまり断るということか。」
ケイは絶句した。なんてマイペースなんだと呆れもした。
「ふむ……どういう条件なら妾の部下になってくれるかな?」
「だから!なるわけないだろう!!私には組織もあるし、敵から情けを受ける等ありえないことだ!」
「む?組織?ケイよ。お主今組織と言ったな?」
「あっ…」
(しまった…あまりの馬鹿さ加減につい…)
「ふむ…組織か…爺や。」
「こちらに。」
音もなく現れた老齢の男。ケイは今更ながらその男のオーラとも言うべき気迫に危機感を覚えた。
(こいつ…いつの間に…!それに…なぜ気が付かなったんだ…この気迫、相当出来るぞ…この爺さん…)
「爺や。ケイの属する組織とはどこじゃ?」
「調べはついております。」
「なっ、何!?」
「爺やは何でも知っておるし、何でも調べられるからな。」
「恐縮です…。さて…ケイ殿が所属しておられる組織。名は『邪鬼』。」
「なんじゃ物騒な名じゃのぉ。」
「構成員はケイ殿を含め20人。リーダーが1人、幹部が4人、一般兵が15人とゆう構成ですね。ケイ殿は幹部の1人だそうです。」
「ほう、お主幹部であったか。」
「……ああ、そうだ。」
「ふむ…それを聞くと余計に欲しくなってきたわ。よし決めた!その組織ごと妾の部下にするとしよう!」
「なっ、何!?」
「どうじゃ?これなら組織を裏切ることなく部下になれるぞ!」
「いっ、いや……そっ、そんなこと…私には決められないぞ……」
「ああ…それもそうか。お主は幹部。幹部の一存で組織を動かすことはできんか。ならば、リーダーとの交渉になるな…爺や。アジトの場所はわかるか?」
「はい。すでに検討がついております。」
「…何!?」
「そうか。助かるぞ。さて、お主に提案がある。」
「提案…?」
「このままここでおるのも嫌じゃろう?妾と爺やをアジトまで案内してもらおうか?その後の交渉がどういう方向に転がろうとも、案内が終わればお主は自由の身じゃ。さぁどうする?」
「……」
ケイはあらゆる可能性を考えていた。一番最悪なケースは、あの老齢の男によって組織が全滅することだ。それだけは避けなければならない。ただ、この二人が急にアジトに現れるなら、まず間違いなく怪しまれ最悪のケースに直結してしまう。それならば、自分が案内をすればなんとか誤魔化せるかもしれない。そう結論づけた。
「…わかった。その提案、飲もう。」
「うむ。よくぞ決断してくれた。爺や。枷を外してやれ。」
「かしこまりました。失礼しますよ。」
老齢の男は牢屋の中に入りケイの枷を外した。
「では早速行こうと思うが…歩けるか?」
「馬鹿にするな。貴様らを案内するくらいどうってことはない。」
「そうか、安心した。」
「行くのはいいが険しい道を行くぞ。お前こそ歩けるのか?」
「心配には及ばん。爺や、おぶってくれ。」
「かしこまりました。」
少女は老齢の男におぶさり、さあ、ゆくぞと外に指を指した。
それからケイと爺やにおぶさるメドゥは日が照っていても暗い森の中を進み。古い館へとたどり着いた。
「ここがアジトか?」
「ああ、その通りだ。」
「随分と古い館ですね…」
「使われてなかった館に勝手に住み着いたからな…手入れなんかもしていない。雨風凌げれば何でもよかったからな。」
「そうか。おっと、爺や降ろしてくれ。」
「これは失礼…この館に注目してましたので…申し訳ありません。」
「よい。それは妾も同じじゃ。さて入るとしようか。」
「待ってくれ。入るには合言葉が必要だ。」
「合言葉か。」
「そこで待っててくれ。」
ケイは扉に近づいた。
「…合言葉は?」
「我ら日陰者なれど、気高き魂は月明かりの如く。」
「入れ。」
扉が開き広いが暗いエントランスが眼前に映った。日の光がなければ真っ暗になってもおかしくなかった。
「さぁ、リーダーの下まで案内しよう。」
「うむ、会うのが楽しみじゃ。」
ケイは二人を連れてリーダーの下に向かった…が。
「あれ?ケイちゃん!帰ってたんだー。」
途中でカータに出会ってしまった。
「かっ、カータ…あ、ああ…さっき帰ってきたんだ…」
「あらそう。珍しく遅かったからちょっと心配してた。」
「そ、そうか。すまないな…」
「いーよー。それで…後ろの二人は…誰?」
「あー…えーと…この人たちは…そう!依頼人だ!」
「依頼人?直接来たの?」
「ああ…どうしてもって言うから仕方なく…だからこのままリーダーの下へ向かうつもりだ…」
「ふーん…そっか。リーダーなら自室にいるから。」
「わかった。ありがとう。」
カータは手を振りながら胸を揺らし歩き去った。
「なんじゃあの乳デカ女。」
「カータだ。ああ見えて、私と同じ四天王の一人だ。」
「ふむ。」
「さぁ行こう。この廊下をまっすぐ行けばリーダーの部屋まではもうすぐだ。」
ケイ達がリーダーの部屋にたどり着いた。ケイがドアをノックすると中から声が聞こえた。
「…誰だ?」
「ケイだ。今帰ってきた。その…話を聞いてくれるか…?」
「…?わかった…入ってくれ。」
ドアが開き、ケイと二人が入った。
「…その二人は…」
「えっと…この二人は、」
「始めましてじゃの。リーダー殿。うん?覆面をしておるのか。」
ケイが説明をしようとしたところメドゥが遮り挨拶をした。
「おっと失礼した。妾の名は…」
「ファンディール・メドゥ。そうだろう?」
「おお…知っておったか。」
「ああ、もちろんだ。ついでにその執事。スズキヒロシもな。」
「おや、私の事も知っておられますか…」
「当然だ。ターゲットの情報は全て把握するのが暗殺の鉄則だ。」
「…」
ケイは何か言いたげな顔をしていたが口にはしなかった。
「さて…本題に入ろう…なぜ、ターゲットであるはずの貴方が我々のアジトに来たのか…理由を聞こう。」
「ふむ。では単刀直入に言おう。妾は、お主たち邪鬼のメンバー全てを妾の部下に加えたい。その交渉のためにここに来たのだ。」
「………なるほど。我らを永久に雇用する依頼という訳か。」
「もちろん。ただで、とは言わん。衣食住にメンバー達の自由。金もいくらでも用意しよう。」
「……」
「どうじゃ?悪い話ではなかろう。風の噂では依頼を受けても報酬金を踏み倒されることが多々あるそうではないか。妾はそんなケチなことはせん。望み通りの額をくれてやろう。」
「…なぜ、そこまで我らに入れ込む?その気になれば他の優秀な組織をいくらでも手駒に出来る筈…なぜだ?」
「簡単じゃ。そこにおるケイが妾のゲームに耐え抜き、最後まで意地を貫いたからじゃ。」
「ほう…随分と惚れこまれているじゃないか?ケイ。」
「リーダー……からかわないでくれ…」
ケイは赤面し顔を背けた。
「そのような者を育て上げた組織…興味が湧かないはずないだろう?」
「なるほど…噂通りの女だな。魔性の実業家よ。」
「よせ。そんな無粋な名前は好きではない。メドゥと呼べ。いや…これから妾の部下になるのだ。お嬢様と呼んでくれるといいのだが…」
「さぁ、どうだろうな…ケイ。」
「なんだ?」
「お前はどう思う?この依頼?」
「……私はリーダーであるお前の判断でどうにでも動ける。こいつの下に着くことも敵対することだってできる。」
「…」
「…ただ…なんでだろうな…昔から安定した生活に憧れてたんだ…だから…今初めて報酬を聞かされた時、心が動いたんだ…だから…出来ることならこの話、乗ってみたい…」
ケイは自分の思ったことを全て吐いた。
「…そうか。昔もそんな風なことを言ってたな。お前がこうしているのも俺のわがままに付き合わせてしまったからな。すまない。」
「もういい。昔の話だ…私は答えたぞ。リーダー…最終判断を…」
「ああ…さて…この話なのだが…」
緊張が走った。彼の言葉次第で全てが決まる。そう考えれば自ずと唾を飲み込んでしまうだろう。
「…依頼の内容を教えてくれ。それが我々の答えだ。」
その言葉を聞きメドゥは笑顔を見せた。
「うむ!わかった。内容は至極単純だ。妾を守れ。妾の命を脅かす者から妾を守れ。相手を殺しても構わん。じゃが無駄に命を散らすな。それを理解してくれれば後は何をしても構わん。」
「…いいだろう。交渉成立だ。」
おお!とメドゥが声を上げた。交渉は成立。ケイの所属する邪鬼は今まさにメドゥの配下へと加わった。
「これからよろしく頼む。お嬢様。」
片膝を曲げ頭を下げるゼロ。さながらナイトのような振る舞い方だ。
「なんじゃ照れるのぉ…」
さしものメドゥもこの行為には顔を赤らめもじもじと手をまごつかせた。
「さぁ…ご命令を。」
「そうじゃのぉ…ひとまず、この組織のメンバー全てを妾の屋敷に連れ、大広間に集めてくれ。」
「わかった。依頼遂行中の者も連れてくる。ついでに引っ越す準備もさせておこう。」
「頼んだぞ。」
「私も手伝おう、リーダー。」
「助かる。ならケイはアジト内にいるメンバーに声をかけてくれ。俺はそれ以外のメンバーを連れてくる。」
「わかった。」
「では、待っておるぞ。爺や。屋敷に帰ろう。」
「かしこまりました。」
メドゥと爺やは屋敷に帰り、その時を待った。
数時間後…
ファンディール・メドゥの屋敷には大広間がある。普段はそこでメドゥは仕事をしている。玉座のような椅子のもここにあり、後ろには大きな机と革で作られた椅子がある。あとから聞いた話によれば玉座のような椅子は単なる酔狂で置いたものらしい。
今そこに当主たるメドゥが座る。眼前には総勢20人の暗殺者が集まった光景が広がっていた。
「お嬢様。我ら総勢20名…いまここに集結いたしました。」
リーダーたるゼロが膝を曲げ頭を下げる。それに続き、皆が次々と跪き、頭を垂れていった。
「うむ。苦しゅうない。面をあげよ。」
次々と頭をあげる者たち。その様はまるで中世の騎士のようだ。
「さて…今この時を持ってお主らは妾の部下になった。衣食住、金、自由、全て保障しよう。たった一つの条件。妾を外敵から守り続けることを果たせれば永久に保障すると約束しよう。」
「我ら一同、お嬢様の剣となり盾となる思いで守り抜きます。」
「うむ。よろしく頼むぞ。それじゃあ…早速で悪いが自己紹介をしてくれぬか。」
「自己紹介ですか…?」
「うむ。名前や性格を知らぬのでは不便でな。全員から聞くのはまたあとにして、とりあえずリーダーと幹部四人の自己紹介をしてくれ。」
「じゃあ、まずは私からー。」
立ち上がり気怠そうな声を出す一番手、
「私の名前はカータ。万能アンドロイドのお姉さんだよー。武器は鉤爪ー。大っきいのじゃなくてこういうの。」
そう言うとカータの手の甲から爪が飛び出した。小さいがそれでも人間の頭を切り裂くくらい訳ないとカータは語った。
「ふむ…アンドロイドと言ったな。なにかアンドロイドらしいことは出来るか?」
「んー。まぁ頭が取れたり。手が取れたり。足が取れたりと色々。」
「ほう…その大きな乳房は無理か?」
「えっ…あー…流石に無理じゃないかなー…多分…」
「そうか、じゃあお主のあだ名は乳デカ女でよいな。よし次じゃ。」
「えっ?」
困惑するカータの声を無視し隣にいた若い男が立ち上がる。
「某は名をサムと申すでござる。ニホンの忍者でござる。武器はこのニホン刀の猛虎丸でござる。以後お見知りおきを…でござる。」
「ニホンか…どうしてこんなところにまで来たんじゃ?」
「修業の一環でござる。某は忍者。修業は欠かさないのでござる。」
「ふむ…わかった。では次。」
サムの隣のローブを着込み、顔などが全く見えない者が立ち上がった。
「…ガイだ。呪術を扱う…以上だ。」
「ほう。昨今魔法は珍しいものでもないが、呪術か…一つ披露してみてはくれんか?」
「…くだらんことに使わせるな。あと忠告しておくが俺は無駄なお喋りは嫌いだ。さっさと次に移れ。」
「そうか…お主がそう言うならいいだろう。では次。」
ケイが立ち上がる。
「ケイだ。武器はこの小太刀と暗器だ。Assassin Skillを使う。よろしく頼む。」
「ふふふ…頼りにしてるぞ。何か言う事はあるか?」
「いや、特に無い。次に回してくれ。」
「わかった。では最後。リーダーよ。」
リーダーが立ち上がりお辞儀をする。
「私の名はゼロ。みんなからはリーダーと呼ばれている。この邪鬼を束ねている。獲物はケイと殆ど同じだ。多少の違いはあるがAssassin Skillも使う。ケイとは幼馴染で付き合いも長い。よろしく頼む。」
「ゼロ…か。良き名前じゃ。ケイとは幼馴染か、なるほど、軽口を言い合える友がいることは良いことじゃ。励むがよい。」
「はっ…必ずや守り通してみせましょう。」
「うむ。さて、紹介は終わったな。他の者共は後から聞くとして…日も落ちてきた。今日はこれにてお開きじゃ。明日からしっかりと仕事をしてもら…」
しかし、突如として耳がつんざくような警報がメドゥの言葉を遮った。
「むっ、これは…」
「何事でしょうか。ご説明を…」
「うむ。一応の警備の強化のため屋敷に誰か侵入してきた際に警報を鳴らすシステムをお主らが集まるまでの数時間で急造してもらった。これは屋敷中に響いておる。敵にも気づかれているだろう。」
「記念すべき初仕事ってわけねー。」
「うむ。乳デカ女の言うとおり、早すぎる初仕事じゃ。殺してでも構わん。妾を守れ!」
「了解した。みんな!初仕事だ!我々の強さをお嬢様にお見せしよう!掟を思い出せ!我ら日陰者なれど…」
『気高き魂は月明かりの如く!』
「よし。散れ!」
メンバー達は次々と影のように姿を消していった。
「さーて、初仕事ー初仕事ー。」
「腕が鳴るでござる!」
「ふん…軽く蹴散らしてやろう…」
四天王たちも続々と部屋から出ていく。
「ゆくぞ。ケイ。」
「ああ!」
「ケイよ。ちょっと待て。」
メドゥがケイを呼び止めた。
「なんだ?」
「お主はここに残れ。」
「なっ、なぜだ?」
「もし万が一、上手いこと暗殺者共をくぐり抜けて妾の下に来るものがおったらいかん。だからお主はここに残って妾を直接守れ。」
「爺やがいるじゃないか。だめなのか?」
「爺やは最終手段じゃ。それにこんな年じゃ。あまり無理をさせとうない。」
「お嬢様……ッ」
爺やはメドゥの気遣いに涙を流しているようだ。
「…わかった。すまない、リーダー。そっちは頼んだ。」
「任せておけ。実力を考えればお前がここで守ってくれるのは心強い。こちらこそ頼んだぞ。」
そう言うとゼロは部屋から消えた。
警報が鳴ってから数分。屋敷には余裕の表情を見せながら闊歩する者がいた。
「うるせぇ音だな…」
「警報みたいですが…大丈夫なんですか?」
「事前情報によればここには門番二人しか警備がいないらしい。だからこれは精一杯の反撃なんだろ。」
「ははは!まったく金持ちのガキを殺しゃあ金がもらえるなんて楽な仕事だな!そんで、他の奴らは?」
「屋敷の西側の奴ら6人、北側のやつら3人、南側の奴ら5人、そして俺たち東側4人だ。少しは覚えてくれ。」
屋敷には罠などがないことをいいことに、廊下を堂々と歩く侵入者。彼等の言動が、屋敷の至る所に隠れている邪鬼のメンバーに知れ渡っているとは知らずに…
「…こちら、偵察組…敵の総数は18人。西6、北3、南5、東4だ。」
無線で知らされる敵の情報。メンバー全員に知らされるとゼロが口を開いた。
「うむ…博士の無線は機能しているな…聞いたか、みんな。これより敵18名を狩る。カータは西に、サムは北、ガイは南、俺は東の奴らを始末する。方法は自由だ。殺しの許可も得ている。存分にやれ!」
『了解!』
西側。侵入してきた人数が一番多いが若干若輩者が目立つグループ。
「この銃…早く撃ちてえぜ…なぁ、そうだろ!なぁ!」
「わかったわかった、そうだな。」
(全く…トリガーハッピー共が…勝手にバンバン撃たれちゃ話にならん…)
「困った奴らだ…」
「大変だねーお守りも任せられると。」
「そうだよ……!?」
グループの中の一人は驚いた。それもそのはず。そこにはいないはずの人物。やたらと乳がデカく気怠そうな女が頭を掻きながらこの場にいたからだ。
「だっ、誰だ!?」
「わたしー?カータお姉さんだよー。」
気怠く喋るカータは敵に急に現れたことからくる不気味さをさらに加速させていった。
「て、てめー!このッ!」
侵入者の一人が銃を発砲した。だが銃弾は弾かれ、カータには全く効いていなかった。
「ふふーん。効かないもんねー…あーでもちょっと痛いや…」
「ばっ、化け物だぁ!?」
銃を撃った者は明らかに戦意喪失してしまっている。他の者も動揺し仲間同士で顔を見合わせていた。
「さてさてーちょっと痛い目にあってもらうよ!」
カータの手の甲から鉤爪が飛び出す。そして、敵の一人の頭に鉤爪を刺した。
敵はあまりの痛さに悲鳴をあげる。刺した所から血が出続け、確実に死ぬことを誰もが察した。
「そーらよっと!」
だが、ただ失血させるだけじゃ物足りないのかその状態のままカータは刺した鉤爪で頭をえぐりとった。
「ぎゃあああああああ!?」
悲鳴をあげたのはその行為を見ていた敵方だった。その残虐行為に敵方には失禁をする者もおり、全員がそこにへたりこんでしまった。
「みんなー、後はやっちゃってー。」
しかし、例え失禁しようがへたりこもうが戦意喪失しようが邪鬼には関係ない。殺しの許可が得れたなら極力殺す。その心情は残る人間も殺し、凄惨な血の池と化してしまった廊下を見ればわかるものだった。
「…むおっ?今の悲鳴は…派手にやってるでござるな。さて某も…」
北側、少数ではあるがその分実力も持ち合わせているのだろう。無駄なお喋りはせず神経を研ぎ澄ませ淡々と移動している。
ただ、惜しむらくはサム程の気配を消す力の前にはそれすら無力であることを3人は知らなかった。
「……なぁ、なんか寒くないか…?」
「確かに…寒いな…」
「おかしい…まだ冬でもないのに…」
「お、おい!お前、手が!?」
「えっ…ああ!?」
気づいたときには手遅れだった。この寒さのせいか彼の右手は氷の彫刻のように完全に凍ってしまった。
やがて3人は全身が凍りつき、物言わぬ氷像と化してしまった。この間わずか数十秒である。
「某の忍法『数奇魔風』。某の息は炎であっても凍らせる。人ではどうしようもない。ちえっくめいとでござる。」
氷像はバラバラにされ、ただの粒となり風と共に消えていった。
南側、5人と少しばかし多い。だが人数の多さは単純な利点にはならない。そのことは侵入者側もわかっていた。
しかし、それでも侵入者側には油断があった。自分達が早々負けるはずがないと…
「気をつけろよ…何があるかわかったもんじゃねえからな…」
「ああ……ん?おい、どうした…そっちになんかあるのか?」
「なっ…なんか…人形が…浮いてないっすか?」
「なにー?人形?」
侵入者の一人が見たのは確かに人形。それもテディベアだった。
しかし、これだけなら驚きはしない。浮いているのだ。そのテディベアは浮いていた。糸で吊るされている訳でもない。なのに浮いているのだ。
「なんだ…ありゃ…」
「魔法か?」
「魔法にしては魔力量少なくないか…?」
全員が各々の見解を話していく。
すると、突然テディベアの首が曲がり、顔が侵入者達に向いた。
「……Kill」
たった一言。その怨念でもこもったかのような声を発した途端、テディベアは破裂し消し飛んでしまった。
「なっ、なんなんだ…」
『今…恐怖を感じたな…?』
「うわっ!?声が聞こえる!?」
侵入者の一人に聞こえてきたのはノイズが混じったような声。否が応にも彼の体は怪しさに硬直してしまった。
『かわいい人形が突如喋り、破裂したことに怖くなってしまったな?』
「ばっ、馬鹿なことを!そんなはずは!」
「おっ、おい!誰と喋ってるんだ!?」
『いや…しっかりと恐怖していた…俺にはわかる…その恐怖を取り除いてやろう…』
「何!?どういうことだ!」
『痛いのは…一瞬だ…』
その言葉を聞き終えると…声が聞こえていた一人に異変が起きた。
「あがっ!?めっ、目がーーー!?」
突如として彼の目が潰れてしまったのだ。彼はあまりの激痛に悶え苦しみ、体をよじらせている。
「どうした!?しっかりしろ!!」
『お前は耳だ…』
「えっ…ひぎゃあーーー!?」
駆け寄った男は耳が紙のようにくしゃっとひしゃげてしまう。
「ひぃ!?どっ、どうなっているんだ!?」
「俺の呪いは恐怖した者を蝕む。お前たちも恐怖したな…?仲間の惨状を目の前で見せられているからなぁ!!」
「うわああああああああ!?」
ここに死体が5体ある。そしてこの死体には共通点がある。どれも死因が自らの手で首を締め上げたことによる窒息死だ。
「……よし。俺たちも行くぞ。」
ゼロは仲間たちを指揮しつつ東側の4人を片付けようとする。
「いいか。俺が一人を殺ったら、一人ずつ殺せ。仕損じるなよ。息を整えておけ…」
身を隠し機会を伺っているゼロ。
(音から察するにそろそろこの角を曲がってこっちに来るはずだ…)
彼の予測は見事に当たり何も知らない4人が角を曲がってこちらに向かっていた。
「…よし。今だ!Assassin Skill 『腐乱脳瑠』!」
ゼロは持っていた小太刀を敵の一人の頭に向かって投げつけた。
小太刀は見事、敵の一人の頭に深々と刺さり即死してしまった。
「やれ!みんな!」
混乱する敵をメンバーは一人ずつ確実に殺していった。
東側制圧。ものの数分で侵入者達は完全にこの世を去ってしまった。
「よし。ほかの仲間の方は?」
「全員始末できたとのこと…」
「うむ。初仕事は大成功だな。ケイ!」
『聞こえている。どうやら私の出番は無さそうだな。』
「そうだな……ん?」
ゼロはあることに気がついた。殺したはずの侵入者の一人が何かをつぶやいていたのだ。
「……囮…」
「なに?囮だと…?」
そうゼロが聞き返すが、直ぐ様絶命してしまった。
「…囮。すまん、ケイ。もう少しだけ警戒をしてくれ。」
『急にどうした?』
「さっき、侵入者が囮と口にしていた。もしや19人目がいるやもしれん。俺たちは屋敷を捜索する。お前はそこで警戒しててくれ。」
『わかった。任せておけ。』
無線を閉じより一層警戒を強めるケイ。顔も少し険しくなっていた。
「どうした?何かあったのか?」
「殲滅できたがまだ生き残りがいるかもしれない。しかも侵入者側が囮と言っていたからもしかしたらここに来るかもしれない。」
「ほうほう。つまりお主の活躍が見れるというわけか。」
「そんなスポーツ観戦感覚で考えないでくれ…おま…お嬢様の命が狙われているんですよ…」
そんな事を話していると…突然ドアをノックする音が聞こえた。
「…!」
「誰か来たようじゃな…」
「…じっとしておけ…」
その言葉にメドゥが頷くと、途端にドアが勢いよく開かれた。
「へっへへ……囮作戦…上手くいったようだなぁ!」
現れたのは男。モヒカン頭に肩パッドにはトゲがあり舌を出し、片手に握ったナイフを舌なめずりしていた。
「何者だ!」
ケイが声を荒げる。男はその声に少し驚いていた。
「ああ?なんでボディーガードがいるんだよ?聞いてねえぞこんなの。」
「そりゃそうじゃ。今日が初仕事なんじゃからな。」
「チッ、めんどくせぇ…まっ、いいか。ボディーガードも女みたいだしな…俺のおもちゃにでもするか!」
「ふん!下衆が!お前が私に勝つなど万に一つもない!」
「うぜぇ…大口叩いてんじゃねえぞ!」
男はケイに飛びかかる。そのナイフでめった刺しにしようとする。
「安い挑発に乗るとは二流もいいところだ!」
飛びかかる男を返り討ちにしようとケイはサマーソルトキックを繰り出す。
「おっと!」
だが男はそのサマーソルトキックを空中で身をそらし回避してしまう。
「…!少しはやるようだな。」
「へっへへ…俺の実力…なめてもらっちゃ困るぜ!」
地面に着地した男は突進しナイフを突き刺してくる。
「遅い!」
ケイはこれを紙一重で回避する。
「ケッ…ちょこまかとすんじゃねえ!」
男は苛立ち、連続で突き刺してくる。
だが、ことごとくケイはこれを回避していく。
「少しはやるかと思ったがこの程度か。」
男のナイフを回避し飛び退くケイ。
「すぐに終わらせてやる。かかってきなよ。」
「チッ!なめんなってんだろうが!」
またしても挑発に乗り突進してくる男。ケイは待っていた。じっくりと…敵を引き寄せ、確実に仕留める時を。
「…今だ!Assassin Skill『六道七楽』!」
ケイは向かってきた男の胸に掌打を喰らわせる。
「ゲフッ!?」
そして相手が怯んだ所を掴みそのまま上空に飛び上がり飯綱落としで頭を地面に衝突させた。
「…ふん。ケイからメンバー達へ…19人目の始末に成功。任務達成だ。」
無線で仲間に報告した。みんなからはよくやったと褒める言葉が多かった。
『俺達は死体の処理をしておく。お前も殺った奴の死体処理をしておけよ。』
「了解。」
無線を終えるとメドゥが拍手をしていた。
「うむ。よくやったぞ。ケイ。やはり妾の目に狂いはなかったようじゃな。」
「普通に仕事をしただけだ。」
「それでもよくやった。これならお主達に妾の命を預け続けても良さそうだ。」
「…お褒めに預かり光栄です…」
「しかし…誰の差し金だったのでしょうか?」
爺やが口を開いた。
「妾の命を狙う者などいくらでもおる。報復などする気もおきん。ボディーガードはあくまでもボディーガードなのだからな。こちらから危害を加えることは許可できん。」
「じゃあ、そのこともリーダーに伝えておくよ。」
「うむ。よろしく頼むぞ。あ、あともう一つ、無線で伝えておけ。色々あったが、今日はこれにて解散じゃ。寝床の場所を教えるから後で来いとな。」
「わかった。伝えておくよ。」
ケイはメドゥと話す片手間に殺した男の死体を処理しようと男を背負い込んだ。
ケイが所属する邪鬼のメンバー達の新たな生活が今…始まった。
今後の更新は不定期なためでたら、あっ、出てるーとかそんな風に思って読んでいただけるとありがたいです。