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1、銀翼の竜

全てを失った、その一撃で。

全てを失った、その一日で。

全てが始まった、その日から。


俺は転生者を許さない。

全ての転生者を、他者の世界に土足で踏み入り、冒険者だ、英雄だ、勇者だともてはやされ調子に乗っているクズ共を一人残らず駆逐して、俺達の世界を取り戻す。


――


それはいつもと変わらない空だった。

恵みの雨、静寂の夜、安寧の陽光。


全身をシルバーに輝かせ、最弱のHPを保有しながらも回避率の異常なまでの高さから一度も他者からの攻撃など受けた事など無かった、竜族に生まれながらも鱗を持たない最弱の“銀竜”の“ライド”はその日も仲間と離れ一人で狩りを行っていた。

なぜ一人で行うかとゆうと、単に同年代の竜達と仲が悪いとゆう事もあったが、それ以上に一人でいるとゆう事が好きだったからだ。


ライドのステータスは他の竜達と大きく異なる。

その中でも絶望的なまでに異なるのが、HPと防御力だった。

一般的な竜族のHPは弱いモノでも四桁はあり、防御力に関しては全モンスターの中でもトップクラスを誇る900以上が殆どであり、999で頭打ちの防御力から見てもかなりの防御力だと言える。


しかし、ライドには竜族の防御力を竜族たらしめる鱗が無い。

故に、そんじょそこらの雑魚モンスターと同じ二桁の防御力しか持ち合わせていない。

これは、人口100人に満たない町の外れに現れても気にも止められない雑魚モンスターの数値だった。

さらに加えて言えば、人間達が好んで食す、この世界の牛や鹿の類いでも同等の防御力を持ち合わせている。

それから考えればライドの防御力がどれだけ低いかが理解出来る。


HPにしてもそうだ。

この世界で釣りをしていると、たまに釣れてしまう、主にその池のヌシと呼ばれる魚のモンスターでも、そのHPは三桁を保有している。

しかしライドに“神”が与えたHPは僅かに二桁だった。


モンスターと言っても、成長の周期や、戦闘経験、訓練を通してHPや防御力の向上はある。

故に、ライドは幼き頃から訓練に訓練を重ね、それこそ他者の数十倍は努力して取り組んで来たのだが、幼き頃に頭打ちとなったHPや防御力からその先へと伸びる事は無かった。


絶望した時期も当然あった。


竜族と言えば、全てのモンスターの中でも最上位にあたる伝説級で広く世界に知られている。

さらに、その中から千年周期で現れる固有の竜に関しては神話級と呼ばれ、恐れを通り越して、崇拝の対象とも成り得る。


そんな竜族において、ライドの存在は未だ類を見ない、ある意味で超稀少な存在だった。


竜族は、ライドが生まれると同時にその姿を忌み嫌い排除しようとした。

排除とは、即ち殺し、燃やし、世界に還すとゆう事だ。


しかし、それをライドの祖父である元神話級の竜“ニーズヘッグ”が思い止まらせた。ライドが子供の頃その時の話を両親から聞くと、すぐになぜなのかを祖父に訪ねた。

しかし、何度聞いても(そうしたかったからそうした)としか教えてはくれなかった。

その理由を聞きたいと言うライドを最期まで鼻で笑っていた。


“元”と付けたのは、ニーズヘッグが既にこの世界には居ないからだった。

ある日突然に(旅に出る)と言い残しこの世界を旅だった。

寿命を迎える竜は、必ずそう言い残してどこかに消えるとライドは成人する時に教わった。


その事を知らなかった頃のライドは、月が満ちる夜は必ず外で寝ていた。


寝床が気に入らないからでは無い。


なぜか、満月の夜は祖父が帰って来ると、そんな気がしていたのだ。


根拠も、理由も無いが、成人した後も月が満たされると必ず外で寝ていた。


生まれ落ちてすぐに排除されるという事を免れたライドは、だからと言って順風満帆な人生では無かった。


……竜族なのだから、この場合は竜生とゆうべきか、細かい事は気にしないで欲しい。


他者と異なるその見た目の為に、物心ついた時には既にいじめが始まっていた。いじめと言っても陰湿なモノでは無い。明らかなる他者との待遇の違いだった。

大人達が狩りに出て手に入れてくる食料の配給を受けれなかったり、父親には竜族の“税”とも言える狩りの成果を他の竜の100倍は求められた。

それを納められなければ、家を失い、仲間を失う。


そんな重圧に耐えきれ無かった父は、祖父よりも先に旅だった。


父を失ったライドの家は悲惨だった。

配給を得られず、母にはさらに課税を求められ、狩りに出たままに母が家に帰る事は年に一度、年が変わるその日だけだった。

それでもライドが排除されない為に、母は必死に狩りを行った。

ライドはそんな母に恥じないように必死に自身を鍛えた。

成人して、狩りに出る時の為に。母を家族を養う為に。


その思いは、ライドの兄“ライズ”も同様に持ち合わせていた。

ライズは、弟ライドと異なり、立派な真っ赤な鱗を持ち合わせ、同世代の中でも断トツのステータスを保有し、将来を期待され、成人すると期待に答えるだけの、イヤ、それ以上の働きをした。


寝たままに狩りに出られなくなった祖父に代わり、母を助け、ライドが成人するその日まで最前線で活躍し続けた。


……さっきから成人と言っているが、竜だからこの場合は成竜なのだろうか、だが、そんな事は蜥蜴の尻尾程も気にしないで欲しい。


さて、本題に戻ろうか。


そんなライズは、ライドが成人する日に、その命を大地に散らした。

ライズは立派だったと人々が口にする。


……そう、人々が口にするのだ。


最期は立派だったと、あんなに強い竜は久しぶりだったと、超レアなアイテムをドロップしたと、経験値がウマかったと。


それをライドが耳にするのは、ダイブ先の話だ。


ライズは、一緒に狩りをしていた他の竜族を助け、たった一人犠牲となった。その事を称え、竜族の村では銅像が立てられ、その時の勇姿が語り継がれ、ライドがいじめを受ける事は無くなった。


そんな兄が誇りだった。ライドは、そんな兄に近付きたくて、必死に努力を重ねたが、結果は前述した通りだ。


そんなライドが初めて狩りに連れ出された。


英雄ライズの弟を殺してしまってはならないと、村の外に連れ出す事を長老達が許さなかったが、ある日何を思ったのか、狩りを指揮していた竜がライドを(これも立派な竜になる為の経験だ!)と言って、長老達に無断で連れ出した。


当然、ライドに何かあれば連れ出した竜が責任を取る事は必然だったが、何かあっても守れると確信を得る程にその竜は強かった。

しかし、その竜が思い描くよりも遥かに経験値を得る経験をライドは体感した。


漆黒の竜“黒死竜エルドラ”


その竜は、同族喰いを行う数少ない、それでいて強大な力を持ち合わせる神話級の竜だった。数十年周期で竜族の里周辺に現れては同族を喰らう。そんな天災とも等しい黒死竜エルドラが現れたのは、ライドの初めての狩りの日だった。


狩りを指揮する竜“エンライ”は、エルドラの姿を確認すると、その日狩りに出ていた全ての竜に帰還を命じた。

エルドラは太古の盟約により、里の中までを襲う事は無かった。

里周辺で狩りに出ている成人した竜だけを喰らっており、その事を狩りを指揮するモノであれば当然理解していた。

故にエルドラの姿を確認したエンライは即時帰還を命じたのだった。


そんな命令に背いた竜が一体だけいた。

それが、ライドだった。


ライドは何を思ったのか、黒死竜エルドラへと戦いを挑んだ。

“何を思ったのか”は、違うな。

考えていた事は明白だろう。

兄のように。

ただそれだけだったんだと思う。


それを瞬時に理解したエンライは、エルドラとライドの間に割って入った。

何があってもライズの弟を殺させない。


エンライは、ライズに助けられた竜の一体だった。

冒険者の剣に囲まれ、雨のように降り注ぐ魔法に捕らわれ生きる事を諦めたエンライを救ってくれたのがライズだった。


その日から、ライズの様にとゆう思いは弟以上のモノだったのだろう。


「竜の逆鱗」


エンライが放ったそれは、モンスター特有の技《獣技》と呼ばれるモノで、熟練したモンスターが習得するゆうなれば最終奥義と言っても過言では無い代物だった。


しかし、そんなモノに抗えない程度で同族喰いが成立する分けがない。天災と呼ばれる理由が無い。


それは一瞬の出来事だった。


全身の鱗が金色に輝き、防御力が極限まで引き上げれられ、全てのステータスが研ぎ澄まされたエンライの身体を、エルドラの右腕があっさりと貫いた。


それで全ては決着するハズだった。

エルドラが食料としてエンライを持ち帰り、天災は終息するハズだった。


しかし、それをライドが許さなかった。

防御力もHPも加えてゆうなら、攻撃力も雑魚なライドが足掻いて見せた。


エルドラの腕がエンライから抜かれた直後に、エルドラの右目を何かが貫いた。それは、ライドがスレ違い様に加えた小さな一撃だった。

爪を握り込み、小さく、小さく研ぎ澄まされた拳はエルドラの頬を目掛け絞り出されたハズだった。


しかし、エルドラの神業とも語り継がれる驚異的な反射で避けられた、ハズだった。その反射がこの場合は仇となった。

致命的とも言えるかすり傷を、右の眼球に負う事となった。


ライドは何が起きたのか、はっきり言って理解していなかった。

しかし、目の前でエンライが傷を負い地面に落下して行く姿は理解出来た。

その上でエルドラが怒り狂い砲口している姿も見てとれた。


(この隙に……)と思い、その特徴的な銀翼を羽ばたかせ、全力で空中を叩いた次の瞬間にエンライの身体がライドの腕の中に収まっていた。


ライドのステータスは雑魚に等しかった。

それは周知の事実だった。


しかし、皆が知るそのステータスはあくまでも非戦闘時におけるモノで、それは防御力であり、HPであり、攻撃力だった。

戦闘時における、速度と幸運というモノに関しては計測する事は叶わない。

特に幸運なんて計り用が無い。


ただ、この場ではそんな数値は関係無かった。

実際に起きている事は、エルドラが砲口し、その隙にエンライを抱えライドがエルドラから遠ざかるとゆう事だけだった。

それが全てであり、その事に数値は関係無い。


エルドラが盟約を結んだ事は、里を襲わないとゆう事だけでは無かった。

それが里の外だろうと、襲うのは数十年に一度だけ、その一度が仮に失敗に終わっても、里まで逃げ延びたモノを襲う事はしないとゆうモノだった。


エルドラの砲口は、その事を理解した悔しさの砲口に違いない。

それでも、怒りに感情を委ね砲口しなければ或いは、ライドもその牙にかける事は容易だっただろうが、右目から流れる血が、プライドが、それを許さなかったのだろう。


エンライを連れ帰ったライドは、兄同様、里をあげてその勇姿を称えられた。さらには、身体に傷一つ無く、その事でさらに多大なる称賛を得ると、ライドはその事をエンライに助けられたからと謙遜した。

その場はそれで落ち着いたが、目覚めたエンライが事の顛末を話すと、帰還した時とは比べ物にならない程にライドは称賛された。


それ以来、ライドは里の英雄となった。


それでステータスが向上した分けでは無い。

その事はエンライが側で見て一番理解していた。

ライドは果敢に獲物に挑む。当然、ライド程度の攻撃力で歯が立つ分けが無いのだが、その速度と回避力で獲物からの反撃を受ける事は無かった。


称賛に湧きに湧いた里の熱は、ライドが狩りに出る度に冷めて行った。

次第にライドは一人になる事が増え、狩りに出ても誰かと行動を共にする事は無くなった。


そんなライドを気にかけ、エンライは何度も狩りに出る事を止めたが、それでも(外の世界に出たい)と、(何かがあれば皆を必ず守る)と言って狩りに同行し続けた。


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