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【第3節】5度目の正直、なんです!

 あの後もミュリアちゃんはそわそわしていた──恐らくだが、記憶がないのは精神的ショックを受けたからで本当はやっぱり奴隷出身者なんじゃ……とか、そんなことを思っていたんじゃないかと予想する──が、一度寝てからはそんな様子もなくなり何事もなく夜が明けた。


交代で、とはいったもののほとんどオレが見張りをしていた。そもそも気が付いたのが夕暮れ前だったのでそこまで眠かったわけでもなかった。なのでやはりというか、日が昇りはじめたときに火を見ていたのもオレだった。

ミュリアちゃんの体内時計はしっかりしているようで、太陽が顔を出して間もなく目を覚ました。


「おはよ」

ゆっくりと体を起こす彼女に声を掛ける。


「……! お、おはよう……ございます」

寝ぼけていたのか驚いた様子だったが、今の状況を思い出したようで語尾は落ち着いていた。


 「さてと、早速だけど村へ向かおうか。一晩戻らなかったからきっと心配してるだろうし……あ、ところで今さらなんだけど、水は良かったの? なんだったら少し戻って川にいく?」

空っぽの水桶を見ながら不意に思ったことを口にする。本当に今さらである。


「ああ、えっと、水はちゃんと溜めてた分があるので一日くらいは大丈夫だと思います」


「うん、じゃあよし。あ、薬は一応ちゃんと処理しておいてね」




━━━━━━━━━━




 程なくして村についた。男達に襲われた場所からは結構な距離だったが、川と村とはそこまで離れていなかった。このくらいの距離なら夜道でも大丈夫だったかな、と思う反面、万一があっても嫌だったし、まぁ安全な択を取って正解だったと思うことにしよう。

想定していたよりも立派な木の塀で囲まれた小さな村で、オレたちが歩いてきた方向のちょうど真逆の方に、これまた立派な村門があった。


アーチ状の門の上部、村名と思しき字の列はミルタと読めた。

……幸いにもオレのいた世界と使われている文字は同じらしい。いや、言葉が通じる時点で今さらだったか?


「止まれ!」

不意に男の怒鳴り声が聞こえてくる。

前方……村門の裏、此方から見えにくいところに槍と鎧を身に付けた兵士が立っていた。


「アンガスさん!」

オレの後ろを歩いていたミュリアちゃんが走り出す。


「ミュリア! おまえ無事だったのか!」

彼女が見えなかったらしいアンガスと呼ばれた兵士は、飛び込んできた彼女と軽く抱擁した。……なんだか知らんがズキッと胸が痛む。そうして数秒もくっついたあと、いそいそと槍をしまって此方に直った。


「ええと、ミュリアはいいとして、貴様は何者だ!」


「あ、この人は──」


「んーっと、まぁオレが誰かはともかく、そんな威嚇みたいな口調のままなら槍は仕舞わない方が良かったんじゃない?」

ミュリアちゃんが何か言い掛けていたがそれを遮って、ちょっと煽ってみる。若そうな見た目な上、行動が一々ギクシャクしているあたりから「私は新兵でこういうのは不慣れです」と言っているようなものだった。


対するアンガスはあっ、しまった、という顔をして慌てて槍を持ち直そうとする──が、いやもう遅いなと判断したらしく途中でそれを止め、口ごもりながらもう一度問い直してきた。


「ええー、ミュリアはいいとして、貴方はどちら様でしょうか?」


「ミュリアちゃんの恩人」


「……そうなのか、ミュリア? この奴隷にたぶらかされたとか襲われて一晩逃げまわってたとかじゃ……」


「ち、違います!」


「違うそうだが!」


「おまえの言ってることが違うって意味だ青二才」


「あ、あおっ……!?」


「ちょ、ちょっとなんでクノさんもそんな煽るような事ばかり言うんですか!」




━━━━━━━━━━




 「ミュリアを助けていただき本当にありがとうございました。村を代表して、何より父親として、心より感謝申し上げます」

恰幅の良いおっさんがオレに深々と頭を下げる。


 あのあとミュリアちゃんからこれまでの経緯を説明されたアンガスは、村の人──もっとも全員ではなさそうだが、手の空いていたらしい人達を集めてミュリアちゃんが無事だった事と、ざっくりとオレの紹介をしてくれた。


ちなみにオレはミュリアちゃんがアンガスに説明した際、旅人だという事にされた。お礼がしたくて無理を言って付いてきて貰ったと。

また服については助けてもらった際に燃えてしまったので賊から拝借している、と。

……なんでも、ミュリアちゃんやアンガス、村の人達が着ている服とオレが着ている服は随分質が違うらしく(オレからしてみれば大差はないが)、一目で奴隷の物だとわかってしまうらしかった。

つまりあの男達はミュリアちゃんが話していたように元奴隷だということになるが、それだとミルタ村に入れないのでそういう事にしよう、というミュリアちゃんなりの配慮だ。


 もっとも事前に聞かされてなかったので最初は戸惑ったが上手く口裏を合わせられたろう。


「たまたま居合わせただけですから、どうぞ顔をあげてください」


「ケッ、猫被りやがってこのガキ……」


「こらアンガス! 客人になんて態度してんだい!」


アンガスの母親と思しきおばちゃんが彼をどやす。それはもう、思いっきりバチーンと背中を叩いた。今までしんみりとした空気だったが瞬間、どっと笑いが沸く。


「旅の御方にどれほどの礼が出来るかはわかりませんが、村の長として出来る限りのもてなしをする所存です。どうぞ好きなだけこの村でお過ごし下さい。おい母さん、クノ殿はうちで面倒をみていいな!」


「はいはい、じゃあ今夜はご馳走にしましょうね」

ミュリアちゃんの母親──因みにこれまた恰幅の良いふくよかな女性だった──がそう応える。


「お世話になります」

軽く一礼し、愛想笑いの1つも浮かべてみる。そこまで長居するつもりもなかったが、当面の目標──これからどうするかだとか、どうやって自分のことを思い出したり、元の世界に戻ればいいのか──を考える時間が欲しい。その間ここで宿と食事の提供をしてもらえると言うのなら、そんなありがたい話もなかった。




━━━━━━━━━━




 ほどなくして解散した後、ミュリアちゃん宅──村長の家と言うことで集会なども出来るよう作られているのか、かなりデカかった。丸太を組み合わせたようなそこまで複雑ではない(言ってしまえば凄く簡易な)造りで、床が平面じゃないので歩き辛かった──に案内されたオレは、日もまだ高いというのに半ば強制的に休まされた。正確に言えば、日があるうちは村長さんも奥さんもミュリアちゃんも自分の仕事があるらしく、オレに構えないから、という事のようだった。

流石に周りが働いていて自分だけくつろいでいるのは肩身が狭いし、何より娯楽の1つもないので暇だった。一応オレも仕事を手伝おうとしたんだが、客人だからという理由?で、なんだかんだとかわされてしまった。

結構グイグイ手伝おうとした割に頑なに拒まれたのは、あまりにも遠慮がち過ぎた気もするが……まぁそこはそれ、素直に厚意として受け取ってみる。


 「お口に合えばいいんですけど……」


「美味しいです、とても」

そんなわけで絶賛夕食タイムだ。味は現代人のオレからしてみてもお世辞なしに美味しかった。この世界に来てから何も口にしていなかったし、空腹が手伝ったというのもあるかもしれない。香辛料等が効いてない分、間の抜けた味付けと言えばそうとも言えたがそれ以上に素材が美味しかった。

少し贅沢を言うのなら、肉の臭みが強かったからゴマだれ辺りの香りの強いタレが欲しかったが。


 家族の団欒に客一人、といった具合で夕食は終わった。旅人という紹介をされた手前、何か旅の話でもしないといけなくなるかもと作り話を二、三用意していたのだが徒労だったようだ。


「さて、そろそろミュリアは風呂にでも入って寝なさい」


そう言う村長さんに対し、怪訝な顔で何か言い掛けるミュリアちゃん。日もギリギリ落ちてないし、あんなことがあった後とはいえ確かに就寝時刻と言うには早めだった。普段から川と村とを何往復もしているそうなので、今日は少ししか動いていないのもあり、まだ寝なくても大丈夫だと言いたいのだろう。


「まぁまぁいいから、明日からまた頑張ってもらわないといけませんしね」

それを奥さんがなだめ、風呂場があるらしい家の奥へとミュリアちゃんを連れていってしまう。


 さあてオレもひとっ風呂……なんてことはせず、座ったまま何をするでもなくボーッとする。


村長さんはと言うと、夜風──というにはやはり少し早いのだが──にでも当たりたかったのか、食卓の席を離れ庭を見下ろせるベランダのような場所で、手すりに軽く身を預けるようにして涼んでいる。

ふとこちらを向くと、クノ殿、とオレを呼びながら手招きをする。

お呼びのようなのでオレも席を離れ、村長さんの右隣へ行って畏まる。


 「──ミュリアは実に優しい娘です」


唐突に話を始める村長さんを見て、ピンと来た。……どうやらミュリアちゃんが居るとし辛い話がしたかったようだ。


「私の言うことも、家内の言うことも素直に聞き、何よりも他人の気持ちを優先する気立ての良い子でもあります。ただ──少々優しすぎる節がありまして」


一旦そこで呼吸を入れると、少しうつむきながら──親子とは言え、その様子は昨日ミュリアちゃんが考えをまとめている時に見せた表情そっくりだった──再度口を開いた。


「……この村は神都からそれなりに離れていますし、便も良くはない……少ない人数で、それぞれがそれぞれの役割を果たして、なるべく最低限の生活で共存しています。当然、元隷属の者を受け入れられるほどの余裕はありません。──あれはあの子が七つの時でした。その時はおかしな気候が続いていまして、作物は思うように育たず、森の動物や家畜たちの状態も芳しくありませんでした。助けや物資を求めたいほどの状況でしたが、どこも似たり寄ったり……。我々は普段よりもさらに質素な生活でその時期を乗り越えようとしました。そんな矢先、あの子は一人の女性を連れてきました」


相槌を打ちながら昔話に耳を傾ける。


「丁度いま貴方が着ているような、無地の麻に身を包んだ──見るからに元奴隷の少女でした。歳は……12か13くらいに見えました。満足に言葉も話せず、字も書けないような子で……森の近くをうろついていたらしく、ミュリアが水汲みから帰る際に付いてきてしまったと。我々は話し合った結果、見棄てるのはあまりに惨い、法を破ることにはなるが生活を多少切り詰めてこの子を迎えよう、という事になりました」


「あれには歳の近しい女の子の友達が居ませんでしたから、それは大層喜びました。歳こそミュリアの方が下でしたが、字の読み書きをはじめ様々な事を教えている様子は実の姉妹のようにも。しかし──」


「その年の納が間に合わなかったせいで神都から階位を持った使者が来てしまい、報告にあった住民の数と実際の人数が合わなかった事からその少女の存在がばれ、彼女は連れていかれ私どもも罰を受けました。限りある魔法的資源を無駄に浪費するのは重罪である、と」


息が続く限り話したあと、呼吸を入れてまた一息に話をする。それを繰り返す様子から、村長さんが少し緊張してるのがわかった。オレなんかに緊張するか? とも思ったが、なんというか、そんな気がした。

カイイ、という言葉がよくわからなかったが……そういう物があるのだという事で勝手にイメージで補完しながら話を聞き続けた。──今一つ話が見えてこない。


「以来、その少女とは会っていませんが……恐らく生きてはいないでしょう。魔力値が3もありませんでしたし、刑罰も免れなかったでしょうから例え生きていても剥名級は必至。……仮に我々が手を差し伸べなければ、どんなに苦しくとも生きていたかもしれない事を思うと……今でも居たたまれない想いに駆られます」


「それからと云うもの、ミュリアはそういった話──奴隷だとか、隷属制度に関してだとかに過敏になってしまいまして。慈愛の気持ちが行き過ぎてあまり好ましくない事をしたり、今回のような事も実は5度目でして……」


5度目。初耳だ。しかしなるほどと内心で納得する。そんなことがあったから今回のような事──特に顕著なのが縄をほどいていこうとしたり薬を作った辺り──が起こったわけだ。


 「ところでクノ殿、これは別に疑っているだとかではないのですが──」


こちらに向き直る村長さんに対しオレも姿勢をただして、はい?と口に出さずに首を傾けた。


「──魔法を見せて貰うことは叶いますかな?」


……ああ、なるほど。


「魔力値が低くなければまず奴隷になることはありません。あなたが聞いた通りの腕の立つお方なら造作もないでしょう。……それに些か失礼ではありますが、ミュリアはこの村の中でも高い魔力値を持っています。そのミュリアが敵わなかった男三人をあっという間に倒してしまうとは、にわかに信じ難い──そしてそれほど強い方が服を燃やされるような目に遭うのか、とも……」


「こんな試すような真似はしたくないのですが、私は貴方を信じたいのです。どうかその証拠を見せてほしい」


 どうしてそんな昔話をするのか、と思っていたが簡単な話だった。どうやら村長さんは──恐らくは、ミュリアちゃんをここから離れさせるのに一役買った奥さんも──オレの事を奴隷だと、ミュリアちゃんがオレを庇うために作り話をしたのだと、疑っているらしい。

思い返せば奥さんや村の人が妙に優しかったり仕事の手伝いを頑なにさせてくれなかったのも、旅の話なんかを要求されなかったのも、村長さんがこう緊張しているのも──奴隷の少女の話は何もミュリアちゃんに限った話ではなく村長さん自身の心にも暗い影を落としているのだろう。そして奴隷かもしれないオレを前に、その正体を暴こうとしている事が、そして恐らくは村から追い出そうとしている事が、少し心苦しいのだと思う──、府に落ちなかったところは色々あったが、全て合点がいった。

しかし魔法か。どうしよう、異世界に来ている時点でこの世界の法則に則ればオレにだって使えないことはないのかもしれないが、何も教えて貰わずに即興で使える自信なんてない。だいたい使えたとしても奴隷かそうでないかというラインを越えれるかもわからない。


 「話は聞いたぜ親父さん!」


どうしたものかと思案していると、やかましい声が下の方から聞こえてきた。


「アンガスくん! いつからそこに……」


ベランダ?の下からアンガスが顔を出す。地面から3メートルはあるのにジャンプして手すりを片手で掴むと、一息でヒョイッと飛び越えてしまう。……鎧を身に付けたままだし、何やら緑色の風のような物が見えた気がしたので、もしかしたら風魔法でも使ったのやもしれない。

そんなわけで目の前にアンガスが立ち、オレを見下ろして──と言うより睨み付けてくる。


「コイツの事を疑ってるのは親父さんだけじゃないって事さ。舐められっぱなしってのも癪だし、こういうのは階位兵たる俺の仕事だろ?」


カイイヘイ。どうやらアンガスは先の話にのぼったカイイというのをお持ちのようだ。そしてオレみたいなのを追い出すのも彼の仕事らしい。


 「明日の早朝、俺と決闘形式で闘ってもらう。おまえが俺にほんの少しでも傷を付けれたら、それで全部信じてやる。出来なかったらこの村から出ていけ。ミュリアには俺が()()()()出ていったって伝えとく。……アイツがこんな事になってるなんて知ったら傷付くだろうしな……。下手しなくても今以上に拗らせかねない」


随分と自信をお持ちのようだが、これはうまい具合に話が転んでくれたようだ。少なくとも魔法を使ってみせろと言われるよりは可能性があるし、話も単純だった。


 アンガスくん……とアンガスのミュリアに対する思いやりに感極まったのか涙まで浮かべている村長さんと、まるでオレが奴隷であるのは確定しているかのような雰囲気のもと、オレとアンガスの決闘が決まった。

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