No.1 起こした悲劇
第一話「起こした悲劇」
赤い血が滴った。
真っ赤に染まった自分の体がふと、鏡に映る。
本当にやってしまったのだと、改めて実感して。
――――皆殺しにしてから、何時間経っただろうか。
ふとそう思った。
「……ハッ」
ふと自分を笑いたくなり、呟くように発する嘲笑。
いつもなら返って来るはずの中傷の言葉が、今日は返ってこない。
当然と言わば当然だった。
何故なら少年、柳蒼哉は屋敷内に居た人間全員を殺したのだから。
蒼哉は幼い頃から報われずに生きてきた少年。
テストで満点をとっても、習い事で全国大会優勝しても、都内最高偏差値の学校に特待生として受かっても――――。
誰一人、喜んでくれる者はいなかった。
誰一人、褒めてくれる者はいなかった。
父は大物政治家、母は大女優、何十人もの有能なメイド。
誰もが素直で純粋な十四歳の弟を褒め、誰もが蒼哉を忌み嫌った。
弟の成績が蒼哉より劣っていても、誰もが弟を褒めた。
そして、蒼哉を咎める。
誰もが憎たらしかったのだ。駅で笑顔を振りまくキャンペーンガールも、弟を褒める父母もメイドも、テレビに映るタレントも。
この世界の全てを壊す為に、蒼哉はまず、家族と言える存在を全て消したのだ。
蒼哉の服や手に纏わりつく血が、その証である。