道案内
「あの~」
道を歩いていると呼び止められた。
美人だったら良かったのだが悲しいことにただの男だった。
ただの男ってなんだろ?
「道を教えてもらいたいんですが」
「いいですよ」
別に教えないというような意地悪をする必要がない。
そんなことをして変なフラグが立ったらどうするんだ。
「郵便局はどこですか」
中学生の英文に載っていそうな質問をされてしまった。
同じように中学生の英文で返せばいいのだろうか?
「ありがとうございます。では」
郵便局の道なんて知らないが交番は教えておいた。
今日は先輩に会いに来ただけだからこの道の地理はそう知らない。
交番の道を知っているのは落とし物を届けたことがあるからだ。
悪いことなど一つもしていない。
嘘じゃない。
ホントだぞ。
言葉を重ねるうちに真実味が増してしまった。
本当にどうしようもない。
「お~い」
お、先輩だ。
先輩が来たことが少し嬉しいのを隠しながら後ろを振り向く。
そして驚く。
なぜか先輩がさっきの男の一緒に居たからだ。
「また会いましたね」
僕はまた作り笑顔で道を聞いてきた男に話しかける。
先ほどと同じと調子で。
「知り合い?」
先輩の声がどうも場違いに聞こえる。
それとも場違いなのは僕の方なのか。
「さっき道を教えただけですよ」
本当にただ、それだけだ。
ただ、それだけで僕はよくも知らない男に嫉妬をする。
先輩の隣にいるだけで。
本当にただ、それだけで。
「先輩はなんでその人と一緒に居るんですか?」
出来るだけ自然に切り出す。
こんな気持ちを吐き出すのは馬鹿だ。
「私のお兄ちゃんだから」
「そうなんですか。似てませんね」
「そう」
「先輩はどこからどう見ても馬鹿にしか見えませんからね」
そうして先輩が怒った。
僕は先輩を笑いながら見る。
隣にいる兄とやらを気にしながら。
「うちの妹は馬鹿だからね~」
「お兄ちゃん!!」
「ハハ」
気は合うが苦手なタイプのような気がする。
僕はその人に質問をする。
「ここら辺に住んでいるなら別に道を聞かなくても良かったんじゃないんじゃないんですか?」
すると顔が悪戯っぽくなった。
とてもイラついた。
どうも嫌な気分がする。
「妹の好きな男を見ておこうと思ってね」
さらっと爆弾を落としてきた。
先輩の反応がよく分かる。
「君も妹のことが好きそうだし良かったよ」
嫌な人だ。
こんなことをしなければ友達になれたかもしれないのに。
無邪気を装って何かを企んでいる。
そんなように見える。
笑顔で傷をつけてくる。
本当に嫌な人だ。
これじゃあ、僕は今のままではいられないじゃないか。