先輩のアホ毛について
さて呼び出されたので来てみました。
なぜ体育館裏なのかは知りませんが、暴力沙汰ではないことを願います。
先輩のことだからそれはないと思うが。
・・・ないよな?
落ち着かない。
というか遅い。
約束の時間からすでに20分も過ぎている。
「ん~」
やることもないので体を伸ばした。
筋肉の伸びる感覚が中々気持ちいい。
そのまま周りを見てみた。
「あっ」
建物の影に隠れるように先輩が立っていた。
先輩も僕に気付いたようだ。
すると、なぜか慌てた。
「先輩?」
どうもやりにくい。
こうなってしまうといつもの距離感が分からなくなる。
「やあ、やあ、やあ」
片手を上げて挨拶をしてきた。
どうやらテンパっていらっしゃるようだ。
その様子がびっくりするぐらいツボに来た。
「どうしたんですか?」
色々からかってみても良かったが、少し面倒なので本題から入ることにした。
先輩がビクッとしたのを笑ってはいけないのだろうか?
「え~と、ですね・・・」
その後の続きが中々来ない。
緊張しているのか、からだがプルプルと震えていた。
どうしてそうも緊張するのかがよく分からない。
何か変化が起きないかと少し周りを確認してみるがやはり何も変わらない。
何か起きてくれた方がまだ楽だ。
もう見るものもないので先輩を見ることにした。
先輩の反応を見るのもなかなか楽しい。
そう言えば気になったことがあったのを思い出した。
「先輩のアホ毛ってどうなってるんですか?」
「へっ?」
さっきから葛藤していた先輩は唐突で予想外な質問にあっけにとられたようだ。
その姿も馬鹿にしか見えない。
いや馬鹿だ。
まあ、冗談はこれまでにしようか。
「だって先輩のアホ毛って気分によって向きが変わったり、萎れたり、ピンとなったりするじゃないですか」
「そうなの?」
気付いていなかったらしい。
先輩は自分のアホ毛を触って確かめている。
アホ毛を触ってもどうやら分からなかったらしく、アホ毛を触りながら首を傾げた。
・・・アホってどれくらい言ったっけ?
「さあ、分からない」
「そうですか」
ずっと自分のアホ毛を触っている。
言われて気になってしまったらしい。
「今から調べてくる」
そう言って、すぐに走り去ってしまった。
走り方が妹に似ていたな。
それよりも本題を忘れて行ったな。
やはり単純で馬鹿らしい。
「さ」
今から帰って寝よう。
明日ぐらいに先輩のアホ毛の真相を聞くか。
・・・どんどん話が逸れているのは気にしないでおこう。