泳げたい〇きくん
ピピピ、ピピピ。
うるさい。
目覚ましの電子音で目を覚ましてしまった。
いつもはかけていないはずなのに。
ああ、面倒くさい。
もう少し眠ってしまおう。
休日なので、また布団にもぐろうかとしたときに机に置いてあったスマートフォンから泳げたい〇きくんのメロディが・・・、
って、ちょっと待て。
そんなの着信音にした覚えがないぞ。
そしてなぜ泳げたい〇きくんなんだ。
もう少しなかったのか他に。
「もしもし」
とりあえず取りはしたが、多分不機嫌な声になってしまっただろう。
「こんにちは!」
電話から朝からビックリするくらい大きな声が聞こえた。
その声に目が完全に覚めてしまった。
「先輩でしたか」
「ですよ」
「今は朝ですよ」
「ですか」
「先輩眠いんですか?」
「です」
「眠った方がいいですよ」
「で~す」
切れた。
何の用だったんだろうか?
そう思ったがとりあえず朝ご飯を食べることにした。
「おはよう」
ああ、母さんだ。
今日も年齢通りとは思えなく若々しい。
ちなみに年齢は・・・。
「小遣い2千円減らすわよ」
「いきなりですか」
「心当たりがないとでも言いたいのかしら」
「・・・・・・・・・」
どうしてこうも僕の思考を読んでくるんだろうか。
前に先輩にも考えていたことがばれていた。
僕が分かりやすいのか?
「さっさと食べちゃいなさい」
「はい」
急いでパンを口に入れた。
しかし詰まりそうになったので結局ゆっくり嚙みながら食べることにした。
2枚食べるのに大体3分ぐらいだろうか。
「ああ、そう言えば」
母さんの方を向かずに行儀は悪いかもしれないが食べながら言った。
「僕の部屋に勝手に入らないでください」
「あ、気付いた」
母がははは、と笑う。
つなげてみたら言い難いことこの上ないな。
「目覚ましの時間変えてたり、着メロが泳げたい〇きくんになったらそりゃ分かりますよ」
「いい選曲だったでしょ」
「力を抜くという意味では良かったんじゃないんですか。というか、どうやってパスワード抜けたんですか?」
「ふふ、母親に不可能などないのよ」
この人といる間は僕に自由はないらしい。
「もう少しいじりたかったんだけどね~。本のしおりの位置変えたり、あなたの隠しているものを机に置いたり」
地味にきつい攻撃を仕掛けてきやがる。
そして隠してあるものはそっとしておいてほしい。
「それより敬語止めてよね」
「今更変えるのは面倒くさいんですよね」
小学校から父がそういう風に接していたからどうも移ってしまった。
だからいまだに敬語抜きには話せない。
「そう言えば彼女とかできないの?」
ニヤニヤと少し近付いてくる。
鬱陶しい。
「できませんよ」
「意外と顔がいいのにね~」
「ですね。どうしてなんでしょうか?」
「そう言うこと言うからよ」
はあ、とため息をつきながら僕の顔を見る。
「こういうところは父さんに似ちゃったのかしらね?」
「はは、やめてくださいよ。あの人と似ているなんて」
「それもそうね」
自分のいないところでこんなに言われているとは父さんもなかなか可哀そうだ
まあ言ってるのは僕なんだけど。
「そう言えばなんであんなことしたんですか?」
適当に流していたが気になったので聞いてみた。
「ああ、聞こえない」
聞こえているのはバレバレなのでこう言った。
「老化のせいで耳が遠くなったんですか?」
後日、小遣いが二千円減らされた。




