先輩の人生について考える
「ねえ~」
「なんですか?先輩」
「なんで後輩君は頭がいいの?」
「それは先輩さんがびっくりするぐらいに頭が悪いから、僕が余計に頭がよく見えるのでしょう」
「むう」
ああ、膨れちゃった。
どうしてこうも子供っぽいかな。
・・・馬鹿だからかな?
「馬鹿じゃないもん!」
「心の中の言葉に突っ込まないでください」
プライバシーというものがないのか、全く。
もしかして・・・。
「先輩、プライバシーって言葉知ってますか?」
「ん?何それ」
やっぱり馬鹿だ。
プライバシーという言葉を知らなかったらプライバシーなど無くなるのか。
なんと恐ろしい事だ。
まあ、先輩なら大丈夫だろう。
馬鹿なのだから。
「ねえ、なんで慰めるように肩を叩くの?」
「先輩のこれからの人生を想像してしまって、つい」
「ついじゃないよ!これからいいことが起きるの」
「へえ、例えば?」
「宝くじ当てたり」
「高校生は買えませんよ」
「ん!?じゃあギャンブルで大当たりとか」
「先輩にギャンブルは向いていませんよ」
「え~と」
「先輩は運にしか人生を任せられないんですね」
本当に心配になって来た。
先輩の人生は大丈夫なんだろうか。
「先輩」
「何?」
「先輩が行き遅れたら貰ってもいいですか」
「はわっ!?」
あら~、赤くなっちゃって。
いや自分で言って結構すごいこと言っちゃったな。はは。
まあ少し狙ったけど。
「で、どうなんです?」
おお、先輩の体が小刻みに動いている。
一緒に揺れるものもなかなか。
何がとは言わないが。
「な、なんでそんなこと言うのかな」
赤くなって聞いてきた。
そんな先輩に僕は答える。
「先輩が馬鹿だからですよ」
あ、ズッコケた。
というか本当に転んだらしい。
膝も擦り剝けている。
「大丈夫ですか?」
「君は私に馬鹿しか言わないのかな?」
「ああ、洗った方が良さそうですね」
「話を聞いていない!?」
背中をポコポコと殴ってくるがあんまり強くない。
正直、鬱陶しい。
だから僕は先輩の手を取って引っ張ることにした。
その手は思ったよりも小さくて少し冷たい。
「あっ」
先輩が静かになった。
それが少しつまらない。
自分でも矛盾している気がするが、そう思った。
「先輩、歌でも歌っていてください」
「歌?」
「そうです、歌です」
「こんなところで?」
周りは多くはないが人がいる。
それで恥ずかしいのだろう。
「馬鹿」
ぽつりと、そう言われた。
そして歌いだした。
まさかそんなことを先輩に言われるとは思わなかった。
馬鹿に馬鹿って言われるのはどうなんだろうか?
それと本当に歌うとは思わなかった。
「別に貰うのが早くなってもいいんですけどね」
そんな声は歌っている先輩には聞こえなかったようだ。
僕は耳を澄ましながらその声を聞くことにした。






