馬鹿な先輩と僕
トボトボと歩く背中が見えた。
小さい身長がさらに小さく見える。
「はあ」
近付いてみると溜息の吐く音の聞こえる。
まだ僕には気付いていないようだ。
「先輩」
「ひゃうん」
思いっきり背後から呼んでみるとかなり驚いたようだ。
狙ってみたのだけど。
やっぱりいきなりラブコメみたいになんていけないね。
どうも体が受け付けない。
「先輩」
もういいや。
どうとでもなってしまえ。
勢いで何とかいけるだろう。
「大好きです」
言葉に装飾はいらないだろう。
感情を伝えるのにそんなものはいらない。
ただ目を見る。
それが馬鹿には一番良い。
お互いに。
そんなことを真面目に考えていたのに目を逸らされてしまった。
恥ずかしいぞ、これ。
少しかっこつけてたのに。
「先輩は?」
顔を赤くしたままこっちを向いてくれないので返事を急かす。
僕だってそれなりの勇気を振り絞ったのに恥ずかしい思いだけされるのは流石に嫌だ。
告白のモチベーションが自分でもどうかと思う。
「・・・・・・るい」
先輩が何かを言ったが聞き取れない。
「何か言いました?」
「君はずるいよ」
拗ねた顔でそっぽを向く。
その耳が赤いことに気付いた。
もう少しテンパってくるかと予想していたのだが、先輩の口調は落ち着いている。
いきなりの告白だったんだが。
「私を悩ませるだけ悩ませて、いきなり告白するなんて」
怒っているのか早口だ。
それがふりにしか見えて笑ってしまう。
「何回も私のことをからかってくるし、泣かせるし、いつも表情が変わらないし」
あまり自覚をしたことがないから分からないが変わってないのか?
自分では表情豊かだと思っているのだが。
「君はいつも笑っている」
それだったら納得だ。
それ以外の表情など浮かべられるものか。
あんなに楽しい時間を笑わないで過ごせるわけがない。
「私をからかうのがそんなに好きなのかと思ってショックを受けていた私が馬鹿みたい」
馬鹿って言ったがいいのだろうか。
それがどうも習慣のようになってきてしまった。
しかしどうも場面に合わないように感じたので先輩を撫でてみる。
優しくそっと。
柔らかくて、温かい。
「もう」
頬を膨らまし、されるがままにされていた。
そのまま5分ぐらいは撫でた。
どちらも無言だった。
それが心地いい。
「それで返事は?」
「分からないの?」
「心配性なんですよ」
「馬鹿だね~」
そして腕を組まれる。
先輩の感触を右腕に感じる。
その大きな胸も一緒に。
僕が考えることなんて、こんなものだ。
それでも何か違うことを考えてみたくて、先輩の顔を見る。
その顔を笑わせよう。
そしてまた僕は先輩に言うのだ。
馬鹿ですね、と。




