第SP話 : 交差する気持ち
この話は投稿するか迷ったのですが、本編だけでは、あまり感情移入出来ないという指摘があったので上げさせてもらいます。
別にこの話を見なくても本編になんら影響はありませんが今から浮かぶ、または浮かんでいた少しの疑問。また、主人公。そしてその周りの環境について知る事が出来ると思います。
神時 バール
歴代の勇者の中で最も努力し職についた者の名である。
バールは生まれた頃から勇者職に就くことはわかっていたが、肝心の適正値が著しく低かった。
故に小さい頃から他の兄弟は訓練を厳しく受けているのにバールだけは何故か別の場所でそこまで厳しくない訓練を受けていた。
バールはそれがどうしても嫌だった。
自分はどうしても勇者になりたい。
世界を救う英雄になりたい。
小さい頃から願ってきた夢。
しかしそれは所詮夢なのである。適正値が物を言うこの世界。どうすれば上げれるのか。それもわからないバールは他の兄弟に負けないよう、自分の訓練が終わった後も1人で自主練に勤しんだ。
もし他の兄弟が自分の2倍をやっていたら、自主練ではそのまた2倍を、3倍を。とやってきた。
相手を想定した訓練をする為にバールは国の外にでて魔物を狩る訓練もした。他の兄弟達は危ないからと。小さい頃から何かあってはいけないから、と。家で訓練をさせられているがバールはそれには従わなかった。ただし誰も咎める者はいなかったのだが。適正値が低い故にもう誰も心配しない.....
ーー否。1人だけバールを心配する者がいた
親も訓練官も国民も、誰1人としてバールを心配しないのに、1人。見知らぬ女の子がバールを気にかけたのだ。
「...なんだ。訓練の邪魔なのだが。」
バールは太い木刀で素振りをしている。
「あら?別に私は邪魔にはなっていないはずよ?見ているだけだもの」
「それが邪魔だと言うのだ。気が散る。」
「それはあなたが訓練に集中していないからでなくて?.....あらぁ〜?それとも私に気があるから気になるのかしらぁ?」
ゴンッ
木刀が足に落ちる。
「いっったい!!お、お前!変な事を言うな!」
「ふふふ...別に変な事は言ってないわよ?事実なのでしょう?」
「な、な訳ないだろう!わかったから!気が散るか向こうへ行ってろ!」
「嫌よ?だって私、頑張ってるあなたを見るのが好きだもの」
「なっーー!っ...っ...。か、勝手にしろ!」
「もとよりそのつもりよ?」
見知らぬ少女はおかしそうに笑う。
と、まぁこんな感じでその少女は1人で訓練に勤しむバールを傍らで見守り続けた。
雨の日も雪の日も風が強い日も。
バールは木刀を振り、魔物を狩り、基礎体力のトレーニングを他の兄弟の2、3倍こなした。
その間も少女はバールを見守り続けた。
バールはふと少女に聞いたことがある。
「お前は親はいないのか?毎日外に出て大丈夫なのか?」
その少女の服装はドレス...とまでいかないが高貴なものには間違いはなかった。
そんな服を着ている少女が危ない外にでて、勇者のなりそこないになりそうな少年に毎日会っているなど普通なら無理な事である。
「あら?珍しいのね訓練中に。...そう、そうね。私を心配する家族はいないわ。」
ぽつり。少女が呟く
「...えっ...それはどういう...」
「それ以上聞くのはセクハラよ?わかったら訓練を続けて?」
と、バールは制されてしまう。
どういう意味だったのだろうか。
心配する家族がいない...。俺のように見捨てられたのか。それとも居ないのか...。
その日の訓練、バールはちっとも集中できなかった。
そして少女は次の日もその次の日も毎日来続けた。バールも訓練を毎日欠かさずーーー10年間。
バールは6歳から剣を振り、魔物の戦う訓練を始め、その頃に皆に勇者は無理だと諦められていたが、勇者になりたい一心で必死に毎日訓練をした。他の兄弟の何倍をも。
そして迎える16歳。適正値測定の時がやってきた。
「じゃあ。行ってくるよ」
バールはいつものように剣を振り終え、少女.....否、女性に声を掛ける。
「はーい。いってらっしゃい!バールならきっと大丈夫よ」
女性は穏やかに微笑む。昔のような無邪気な少女の面影は性格に少し残っている程度。他は、スタイルの良くどこか大人びた美人で華麗なお嬢様と言った感じだ。
「どうだかな...、まぁ悔いはないからね。じゃあ」
バールはそう言って勇者職適正値を測定しに行ったのだった。
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「それでは!!次代の勇者の選抜を行います!」
広場のど真ん中にあるステージで司会が大声で叫ぶ。国民のほとんどがこの広場に集まっている。
「今回の勇者候補はこの3人!!」
神時 レオス
神時 ダート
神時 バール
「この3人です!そして上から順に生まれた時からの適正値の高い順です!」
「よぉ。バール。久しいな。訓練で随分見ないと思ったら...自主練習でもしてたのか?...変わりすぎだろ」
「バール...お前、変わりすぎだぞ?」
バールは国が用意した訓練に出ていなかったので他の兄弟とは顔を合わせていない。(家は元々別なので訓練以外は顔を合わせる機会はない)
バールは他の兄弟とは違ってムキムキ...ほぼ逆三角形化していた。 2人は細マッチョ...と言うのだろうか。元々顔が良い上にそれなりの引き締まった体をしているようだ。しかしバールには関係ないなかった。見た目など気にしてなかった。
「それでは!待望の適正値測定を行います!」
司会が話を進めていく。この時が来たのだ。
「ま、バール別に勇者になれなくったってお前から騎士長位にはなれるさ」
レオスがそう言って肩を叩いてくる
「俺が勇者になったら剣士としてパーティに誘うからさ?」
ダートもそう言って肩を叩いてくる
何を言っているんだ。腑抜けたことを。
「勇者になるのは俺だ。」
バールは言い切る。自信を持ってハッキリと。
「...そうかい?そりゃ楽しみだね16%さん?」
16%
それはバールが生まれた時に測った勇者職適正値ある。バールはこのせいで生まれた時から見放されのだ。
「必ず...見返す。」
そうしてバールはステージに上がったのだった。
「では!まずはダート氏の適正値から!」
「しっかりな。測定ミスはやめてくれよ」
ダートは生まれた時には64%、充分に期待されていた。国民のほとんどが見守る中、ダートは複数の魔法陣に囲まれる。
「ピーーピピ.....ピー勇者職...適正値ーー」
「ピピーー75%ーー」
「ふんっ。ま、当然だ」
歓声が上がる。歴代でも70%を越える勇者はなかなかおらず、70%を越えた勇者はいい戦果を残してきた。またその時代かと国民がふるい喜ぶ。
「おいおい、ダート?盛り上げさせて悪いなぁ?俺がその歓声を全て持っていくのに。」
「ふんっ。言ってろレオス。焦ってるくせによ。」
「次は三兄弟の中でも最も高かったレオス氏の測定に入ります!」
「意外と緊張するもんだな」
「ピーピピーーーーピ...勇者職...適正値ーー」
「ピーピピ...79%ーー」
「俺の時代だ。」
「「「おおぉおおおおぉー!!」」」
その場の空気が震えるほどの歓声。
先程のダートの測定結果などなかったかのようにレオスを称える。
「うそ...だろ.....」
「すまねぇなダート。俺の時代だ。俺が魔王を倒して来てやるよ」
レオスは不敵に笑う。もうこれでレオスの人生は安泰。完全な勝ち組ーーーー
「何言ってるんだ?魔王を倒すのは俺だ。」
「.....んぁあー?...っはははは!何言ってんだ!お前もしかして、こんな結果を出されても測定受けるのか!?このほぼ全員いる国民の前で!?恥をかきにきたのかよ!」
レオスは腹を抱えて笑う。周りの関係者も同じ気持ちだった
「言ってろ。俺は勇者になるんだ。」
バールはレオスを横切り、ステージに立つ。
帰りそうだった国民達が少しバールをみてーー
「なんだバールか。」
「あぁ、あのなりそこないの...」
「自主練してるようだけど適正がないんならねぇ。」
と皆口々にいう。
「えーっと...測定しますか?バール氏?」
「無論だ。たのむ。」
「えー。ではバール氏の測定に入りまーす。」
するとバールの周りを無数の魔法陣が取り囲む。
「おいおい!あいつマジで測定してっぞ」
「俺らの前で恥かきにきたのかよ!」
「おい、測定おわったら盛大に笑ってやろう
ぜ!」
国民は口々に言う。
そして測定が始まるーー
「ピーピピ...勇者職適正値ーー.....ピピ」
「うっへへ!さぁ!どうなってるんだろうなぁ!落ちこぼれさん!!」
「ピー.........82%ーーーー」
「やったぞ...!!!俺が勇者だ!!」
バールが叫ぶ。
国中は1度静まり返り.....
「「「ウォォオオォオオオォ!!!?」」」
再度叫び、震え上がる、
驚きを隠せないもの。今までのを罵倒が罪になるのではないかと震えるもの。そして喜び、応援するするもの。
「うそ...だろ...何で...お前が...!!?」
「レオス、ダート。すまないな。だが安心しろ。世界は俺が守ってやる。」
バールは不敵に笑い、ステージを降りたのだった。
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国中は大騒ぎで急いでバール用の装備に作り直している。前々からレオスの装備を作っていたようだが、的が外れたようだ。
バールは〝いつもの場所〟にいく。
「うふふ、おめでとう。きっとなると思ってたわよ?」
「...あぁ。ほんと...お前の言う通りだな。」
「うーん。こんな時まで〝お前〟ってのも嫌ねぇ。」
「そ、そんな事言われてもお前と出会ってまだ1度も名前を聞いたことがないんだが...。」
「.......えっ。ええ!!そ、そうなの!!?わ、私てっきり言ったと思ってて...それでもあえて呼んでくれないのかと...」
「なわけないだろう!!教えられたら直ぐにでも言うさ!た、ただ、何か家族に事情がありそうで聞けなかったんだ。」
「じ...事情.....あぁ!あれ!!あ、あれはただの冗談よっ!名前を全然呼んでくれないからイジワルしちゃったの...悪いのは私の方だったのね...ごめんなさい。」
「な!そうなのか!いや、それはそれで安心だ!良かった!」
「ふふふ...やっぱり優しいのね。あ、私の名前はエンクリード=ネイル。貴族の一人娘よ」
「貴族.....エンクリード!?エンクリードってここら一帯を収める貴族の長の家系じゃないか...!?あ、ご、ご無礼を...っ」
「ちょっとバール!?やめて。そう言うの。私嫌いなの。あとネイルって呼んでちょうだい。怒るわよ?」
ネイルは腰に手を当てて膝まづいたバールをにらむ
「えー、っと...いいのかな?ネイル。今まで名前呼んでやれなくてすまん。それと...ずっと訓練に付き合ってくれてありがとう。」
バールは頭を下げる
「もー。私はそんな事をされるためにしたわけじゃないのよ?ただあなたの訓練を.....いえ。照れ隠しね。あなたが好きだったから、頑張るあなたが好きだったから毎日見てたのよ」
サラリとネイルが言う。
「そうか。...それは、よk.....えっ!!?す、す、えぇ!!!?すえぇ!!!!?」
バールは心底驚く。
ネイルは顔も綺麗で美人でしかもスタイルも良い貴族の長の家系の一人娘。
対してバールは勇者一家と言うだけで別にお金持ちではないし、バールの顔はそんなによくない。16歳にしては老けているようにも見えるし、体つきもゴツゴツしすぎている。
「えっ...あのっ!?」
「返事はまだ後でいいわ?それよりも今は忙しいでしょう?バールを探す声が聞こえるわ。いってらっしゃい」
「お、おう...。」
と、バールは困惑したままその日の決め事や装備の着付け等をやったのだが。ほとんどが上の空だったのは言うまでもないーーー。
そして勇者の旅立ちは想像よりも早く行われた。
バールは授かった剣を持ち、バール用に合わせてもらった鎧を着込み、国民ほとんどが見守る中城門の前に立っていた。
ただ、バールはまだ行かない。一言、ある事を言わなければならない人がいるからだ。
「もう...私に挨拶せずに行く気?」
人混みの中から1人の女性が出てくる。
「やっぱり...来てくれた。ネイル。」
この二人の会話に国民はどよめく。しかし2人は反応はしない。
「ネイル。この前の...あの話。とても嬉しかった。正直俺じゃあ釣り合わないし勿体ないのはわかっている。ただ...俺は嬉しかった。」
ナイルはここで覚悟を決め、言う。
「ただ。今はダメだ。俺は今から旅に出る。今から数え切れないほどの危険に合うし、最悪死ぬかもしれない。そんな男に付き合わさせるわけにはいかない。だ、だから...まってて...くれないか...ず、図々しいのはわかっている!!あ、あ、そ、それか俺よりいいやつが現れたr」
「はいはい!わかったわよ!まったくマジメなんだから...」
ネイルが呆れたようにため息をつく
「...まったく。あんまり時間かけると私、老けちゃうんだからね?.....バール。待ってるわ。」
そういうとネイルはニコリと微笑む。
バールの目頭が熱くなる。
この人は...ネイルは...最初から最後まで俺を信じてくれている。俺は...期待に応えなければならない!!
「っ!!あぁ!!行ってくる!!!!」
バールはそう意気込んで外へと飛び出したのだった。
ーーバールの戦果は素晴らしいものだった。
持ち前の根気強さと、諦めの悪さ、そして全てのことに対しての努力。そして旅先で集まったパーティのチカラ。
この持ち味で魔王幹部を3人倒し、歴代の中でも上位に喰い込んだ。しかしバールは1度王国に呼び戻されることになる。それは勇者の血を引く子孫を残すためだ。バールは国に戻る。
ーーー20年ぶりに。
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「貴殿の活躍は聞いたぞ。流石だな!」
国に着くと国王が出迎えてくれる。
「いえ。勇者として当然の事をしたまでです。あー。えっと確か戻された理由は...」
「そうじゃそうじゃ。貴殿には子孫を残してもらわなければならない。未来のためにな。ここに見合いの写真がある。あまり時間はないがここから合う人を.....」
と、国王が写真を渡してくるがバールはそれを手で制す
「失礼。国王。私にはもう心に決めた人がおりますゆえ。」
バールは国王に礼を言い、〝いつもの場所〟へと走る。全速力で。通りかかる国民が挨拶をしてくるがそれどころではない。バールは走る。その場所へと。
「っ...っはぁ、はぁ!...ネ、ネイル!!」
バールは呼ぶ。しかしそこには誰もいない。
...やはり俺は愛想をつかされたのだろうか。
20年...20年も待たせたんだ。この国でほかの人が見つかってもおかしくはない。おかしくは.......
バールは鼻の奥が熱くなる。視界が滲んできた。
これはーー泣kーーー
「遅いわよ。」
突然後ろから聞こえてくるのは聞き慣れた声。
「っ!!!!」
バールが咄嗟に振り向く。
ネイルが腕を組んで立っている。もうすっかり大人の女性の顔だ。
「もう!遅すぎるから、おばさんになっちゃったじゃない!もっと速く戻ってきてh」
バールは抱きつく。ネイルの言葉を遮って。
力強く。
「ネイル...ネイル...!!!」
「ちょ、いた.....まったく...今バールが味わった気持ちを私は20年も耐え続けたのよ?」
「ありがとう...すまない....ネイル.....。」
バールが手を離しネイルと向き合う。涙を拭き、真剣に言う。
「ネイル...。結婚しよう。」
ネイルは分かってたかのように頷き
「.....はいっ!」
そう返事をするのだった。
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その後、結婚式は盛大に行われた。
誰も反対する者いない。
みんな、わかっていたことだったから。
祝福の声に包まれて
2人は結婚したのだった。
ーー2ヶ月後ーー
「バール...!見て!今蹴ったわ!」
「おぉ!元気だな!男の子かな?」
ネイルは子を授かっていた。
「名前は何にしましょうかね...!」
「そうだな。男ならナイル!女ならノイル!どうだ!?」
「なんで2つとも私に名前が似てるのよ。」
「む、むむ?あ。そういえば。」
ーなんて他愛もない会話を2人はしていた。
こんな平和で幸せな毎日が続くと思っていた。
否、あんな事が起こるなんて誰も想像もしなかっただろう。
ある日の深夜。突然ネイルが苦しみ始める。
「ううぅ...!!!うううぅーーー!!!」
「ど、どうした!!?ネイル!!どうしたんだ!!」
家中がパニックになる。医者や助産師が部屋に詰め寄る。
「うぅーー!ううぅ.....!!!!」
「ネ、ネイルはどうしたんだ!?産まれるのか!?」
「そ、そんな!まだ産まれるには1ヶ月程早いですが!!」
原因がわからず困惑する。しかしネイルはその間にもずっと苦しんでいる。
すると1人の医者がネイルのある異変に気付く。
「...あ!!!あれ!!ネイル様の首に!!!」
「な...何なんだこれは!!」
ネイルの首には鎖のようなものが、がんじがらめに巻かれているような跡がついていた。
「これは.....呪術!!!しかも...この魔力.....魔王関連のものか!!!!」
そう。そのネイルの首にかかっていたのは呪術で魔王幹部の1人が得意とするスキルである。
「くそ...!勇者の子孫を残さないためにネイルを狙ったのか!非道なやつめ!!どうにかしてこの呪術は解けないのか!」
「こ、この呪術は難解でして!術者を倒さない限り解けません!!」
「なっ...くそ...どうすれば.....!!」
バールがパニックに陥る。
どうしようかと考え固まっている時に服の裾を掴まれる感覚があった。
「ネ.....イル...?」
「...コヒュッ.....。バー...ル.....ヒュッ.....私は...い...い...から...ゲホッ...この子を.....」
もう息が出来なくなってきているネイルが力を振り絞って伝える。
「な!!ネイルは!?ネイルはどうすr」
「...はや.....ヒュッ.....はやく!!!!.....ッ」
それはネイルがはじめて怒った時であり、初めて叫んだ時でもあった。
その場にいる医者や助産師は頷く
「ここで子どもを先に助けます。関係の無い方は出ていってください!!1秒が命取りなんです!!はやく!!!」
ナイルも飛び出していた。
魔力感知を最大限に張り、術者を探す。
こういう奴は大体近くにいる。結果を見るために。虫唾が走る。一刻も早く殺してやる。殺して、殺し尽くしてやる。バールは国中を走る。
すると微かに魔力の反応がある。バールはそれめがけて死ぬ気で走る。急がないと。ネイルが。
その魔力感知に引っかかったのは...術者であった。
「あれ...見つかったのかぃ。ふっ。まぁ、もう遅い。あの女はもうs」
ーー閃光。
魔王幹部の呪術師が話し終わる前に聖光の光と魔力で練られたエクスカリバーで叩き斬る。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
跡形も残さず。全てを消す。
「っ...はぁ。はぁ。はぁ。ネイル...
ネイルは間に合ったか!!」
バールはまた全速力で走る。ネイルとその子どもがいる部屋へ。死ぬ気で。もう肺がはち裂けそうだが走り抜ける。
そして部屋の前につき、勢いよく扉を開ける。
「ネイル!!ネイル!!!!!」
「.....おぎゃーー。おぎゃーー!!!」
部屋にいたのは元気な男の子の赤子と
ーーーー体が冷たくなったネイルだった。
「...く...ぁあ...ぁ.....ぁ...ぁぁ...。」
バールは言葉がでない。涙でもう視界は全く見えない。体は痙攣している。
「立派な.....最後でした。」
医者が伝える。
「ほぼ息が出来ない状態で...それでも産み終わるまで耐え、最後この子を抱き、お前の名前はナイル。そして私はお前のお母さんだよ...と.....。」
バールは赤子の横に膝から崩れ落ちる。もうすべてを失ったような気分だった。
思いっきり唇を噛む。血が滴り落ちているのに痛みは感じない。心の痛みがそれを上回っている。
魔王。魔王。魔王のせいだ。魔王のせいで。世界が壊れ魔物や幹部が現れた。魔王。魔王さえいなければ。いや、もう魔王関連するもの全てが憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。殺す。殺す。殺す。一人残らず。
バールが憎悪を膨らましている時、赤子が......否、ナイルの手が滴り落ちるバールの血に当たり、その血がナイル口に運ばれる。
ーードクンーーー
ナイルの心臓が1度大きく鳴る。
それ以降は何も無かったのだが。
バールがおもむろに立ち上がりもう冷たくなったネイルを抱きしめ、言う。
「お前の敵は絶対に取る。絶対に。取るからな。」
その後、この部屋にはナイルの泣き声が延々と...続くだけだった。
⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅ ◌ ⑅
ーー2ヶ月後ーー
「入るぞ。」
バールが部屋に入る。
「どうだ。今日1日変な事はなかったか?」
「はい。何事もなく落ち着いていらっしゃいます。食事の時と便意のあるときに少し泣くくらいかと」
ナイルの面倒を母親代わりにみているメイドが言う。
「そうか...。よかった。」
バールはベッドで寝ているナイルに近づき、そっと頭を撫でる。
「父ちゃんは...もう歳だから。魔王討伐までは行けないだろう...。ナイル。頼んだぞ。」
バールは書務を終えるとナイルの部屋に来て、安否を確認し、頭を撫でながらこれを言うのが日課であった。
「あー...ぅあーー...?」
「おーっとと...起こしてしまったか...すまないな。もう夜も遅い。おやすみナイル。」
バールはそう言うと静かに部屋を後にした。
ーーーこうして2年の時が立つ。
ナイルは父親はバール。そしてメイドの人を母親だと思い育ってきた。
そんなナイルは2歳になった日から訓練が始められた。最初は意味のわからなそうだったナイルだが次第にこれが普通にやる事なのだと思い込む。
毎日毎日毎日毎日毎日。
ナイルは2歳からずっと。〝魔王を倒す為。お前は勇者になるのだ〟この父の言葉を聞きながら訓練をしてきた。そして年月は経ち、ナイルは5歳。遅めの勇者職の適性が測られる。
努力でのし上がった勇者の父親の血を引き継ぎ、その上2歳から努力している。国民の期待値は高かった。
結果は92%
5歳にして歴代ダントツトップ。
国十が湧き上がったのは言うまでもない。
そしてその頃から父親が訓練に過剰に厳しくなっていく。
毎日の訓練に加え、外での狩り、学問、医術を5歳児から叩き込む。手を出し、厳しく教える。
必ず勇者にし、魔王を倒させる。この意思を父親の方が強く持ってしまい、それを押し付けてしまったのだ。
そして8年。ナイルは13歳。遂に今までしてきた事が普通ではないこと、何故か父親が魔王を酷く嫌っており、その気持ちに浸り、その気持ちを押し付けている。そう捉える。
「ちっ、何だよクソ親父。また殴りやがって...。アザができてら...。」
ナイルは次第に反感を覚えてくる。自分はなぜこんな事をしているのか。何故勇者にならなければいけないのか。そんな思いが渦巻いていた。
そもそも、勇者とは何なのか。ナイルは家にある書物部屋で勇者についての本を開く。
数千年前、魔王が侵略し始め世界が恐怖に陥っている所に、どこからとなもなく突如現れた不思議な技を使う青年がいた。
その青年は見た事も無い服を着て奇妙なスキルを使い、魔王軍を圧倒し、国中から賞賛された。
そして、その青年の特性...〝血継承〟を引き継いだのが勇者一家である。その勇者は一家は不思議な青年の苗字、神時を代々受け継いできた。
そして苗字と共に受け継いだ、〝血継承〟の内容は〝魔王因子殲滅〟である。
そう、本には書いてあった。
「ん...?よくわかんねぇな。だから?勇者一家は皆、魔王の因子を殲滅したい気持ちに駆られてるのか?」
その頃のナイルはわからなかった。その〝血継承〟は勇者一家全員に引き継がれるが発動するのは相当な魔王関連を殲滅したいという気持ちに駆られるか勇者の適性がかなり高くないと発動しない事を。それを知らないナイルはよくわからないままその部屋を後にする。
そんな日の夜。ナイルは父親の寝室の前を偶然通った際にある話を聞いてしまう。それは〝お母さん〟と父親の会話だった。
「すまないな...ナイルの面倒をずっと見てもらって...。お前には他の仕事もあるだろうに。」
「いえ。良いんですよ。私はこの仕事楽しいですし。それにナイル君も私の事を母親だと思ってくれているようですし、今更やめるわけにもいきません。」
「そうか...。すまない。頼んだぞ」
ーーーーは?
ナイルは困惑する。初めて聞く事実。
ずっとお母さんだと思っていた人は実は違った赤の他人だった。
では母親は?本当の母親は?
ナイルが頭の整理がつかない所にバールの声が聞こえてくる。
「ナイルの母親を...ネイルを...死なせたのは私の責任だ...。私のせいだ...。私があの時...魔王の幹部を...もっと早く倒せていたら.....。」
「バ、バール様!おやめください!あの事件は仕方の無い事なのです!!」
あぁ...そうなのか。
ナイルの意思はここで全て変わってしまう。
自分の母親は...本当の母親は死んだ。
魔王幹部に殺された。
その時父親も一緒にいた。勇者職の父親も。
なのに母さんは殺された。
勇者がいたのに殺された。
...あぁ。なら勇者になどなっても意味は無い。
その人が一番大切にしていたものを、勇者になっても守れはしないのだから。
そして父親は勇者なのに殺せなかった魔王への気持ちを押し付けているのか。
ならばそれには絶対に従わない。一番大事な物も守れないような職にはつかない。父親の呪縛からも逃げてやる。
俺はーーー俺のやりたい職に就く。
こうしてひねくれたナイルが完成したのだった。




