シオンと模擬戦をします。
シオンを無事救出しあれから1週間が経ちました。
その後私達は、シオンのお父さんの火葬の準備もある為、避難所に向かう予定を変更し近くにあるマンションの一室を借りています。はい。無断拝借というやつです。緊急時ですので許されると思いたいです。
シオンのお父さんの火葬と埋葬は昨日までに済んでいます。
初日のマンション探索中に灯油が見つかったのでそれを使い火葬はさせて頂きました。
人の焼けた匂いというのは強烈なものでこの匂いでモンスターがいつ来るとも限らないので1日目はそれで終了し、マンションに引き上げました。
翌日燃え残った骨を回収し、マンション一階部分に埋葬しました。
灯油くらいの火力では灰になることもなく骨が大きかったので納骨は手早く済ませました。モンスターと鉢合わせがなかったのが幸いです。
今はシオンが憔悴していたこともありますので、マンションで休暇を取ることにしています。色々と試したいこともありますし、ね。
「ん。おはようカイト。」
「おはようございます。シオン。お父さんのところに行ってきたんですか?」
シオンがやってきました。
あれから日数も立ちすっかり回復し、肌の色艶も生来の年齢相当に張りのある弾力性を取り戻しています。よかったです。
シオンはお父さんを埋葬した後は毎日欠かさずお墓参りをしています。
お父さんを埋葬した墓地は外から見えにくいところにしています。
ですが外に出るとモンスターの危険もありますが、それでも会いたいのでしょう。タイミングが合えば私もできる限りついていくようにしています。
「ん。パパはだらしないからちゃんと私が行かないと見てくれるのをきっとさぼる。」
「ははっ。それではお父さんがあんまりですよ。お父さんを信用してあげてください。」
「ん。善処する。」
シオンは口数が少ないですが、子供ながらに色々と考えており、とてもしっかりした子です。このような状況ですが、しっかりと現実を見据えお父さんのことも自分の中で消化しようと努力しています。
強い子ですね。
「カイト。今日は何するの?」
「今日も昨日と同じですが一つ新しいことをします。」
「・・何?」
「剣術の練習を午前中にしてその後は周辺の観察と調べ物をするのは昨日と一緒ですが、そろそろ魔法の練習をしたいと思います。」
「ん。魔法。胸ワクする。」
「はい。私もずっと試してみたかったんですが、忙しくてなかなかできませんでしたからね。まずはいつもの素振りから始めましょう。」
火葬と埋葬が終わった後、休暇も必要でしたがそれ以上に痛感したのは戦うというのは想像以上に難しいということです。
ゴブリンと真正面から相対しましたが、私の実力では剣を闇雲に振るうだけでは精一杯で道具を使わなければ殺されていたのは私でしょう。
シオンの話によれば炎を吐き出すトラや大きな鬼なども確認しており、聞いた話では銃撃も効かなかったとのことでゴブリンより数段強いのは明らかです。
そこで休暇も兼ねて情報収集と戦闘方法を練習をしてから避難所に向かうことに決めました。
「ふっ!はっ!」
今日も天気は快晴です。春の気持ち良い風を感じながらマンション屋上でショートソードを片手に虚空に向かい剣を振り、突きを放ちます。当初は剣術の型から練習をしようと考えていましたが、時間が足りない為、実戦を想定したシャドー剣術をすることにしました。
「んっ!やっ!」
可愛らしい声と共にシオンも同じように剣を振ります。お父さんんのことで思うことがあったのでしょう。私が練習をすると自分も強くなりたいと決意を秘めたまなざしを湛えそんなことを言い出しました。小さな子供がそんなことをしなくてもいいとやんわりと否定したんですが、
「もう誰かを私の力不足で失いたくない」
と強い口調で言われてしまいました。
いつ誰が死んでもおかしくない世の中です。後悔しないよう戦う術を覚えてもいいかもしれないと思い承諾しました。
「えいっ!とぉっ!」
目の前のシオンは一心不乱にダガーを振り続けています。当初は予備のショートソードを渡したんですが、小さな体では重すぎるようで一振りすると体がそれに引きずられてしまいっています。そこで私のサブウエポンであるダガーを渡しこちらをシオンの武器にすることにしました。
この1週間。1時間程、シャドー剣術を行った後は、私とシオンで模擬戦を行っています。武器は互いに丸めた新聞紙でケガをしないよう注意しながらとなりますが。
シオンは新聞紙をダガー程度の長さにしています。
私は一般的な刀剣に近い程度の長さにしているので特にこだわりはありません。
より実戦に近い状態で模擬戦に臨みます。
「準備はいいですか?」
「ん。いつでもいい。今日こそ勝つ。」
今日までの成績は5勝0敗1分け。
体格差で今までは私が勝っていましたが、日を追う毎に鋭くなる動きにとうとう昨日は引き分けになってしまいました。このままではあっさりと抜かれてしまいます。ですが、年長者の威厳を保つ為にも負けれません。ええ、負けれませんとも。
「では、始めましょう。」
「んっ!」
シオンはダガーを模した新聞紙を逆手に持って姿勢を低く保ちます。これがやっかいでただでさえ小さい体が更に小さくなります。小さい体を活かし懐に飛び込んで斬りつけるのがシオンの戦闘スタイルです。
対して私はオーソドックスに正眼で新聞紙を構えます。
私は盾と剣を使ったものですので相手の攻撃を盾で受け、剣で反撃するというスタイルに落ち着きました。シオンも当初同じように順手で構えていましたが、それだと自分の特色が活かせないことに気付いたシオンはダガーを逆手に持ち、姿勢を低くしてスピードと手数を持って戦うというスタイルを編み出しました。スタイルを変えてからのシオンはどんどん強くなり、昨日は引き分けに持ち込むのが精いっぱいでした。
「・・私からいく。」
「来なさいッ!」
シオンは低い体勢を保ったまま私に向かってジグザグに走り寄ってきます!この動きは昨日思いついたそうで意表を突かれ引き分けになってしまいましたが初見ではないのなら!
「・・っ」
新聞紙をシオンの動きに合わせて左右に移動させます。飛び込んできたところを斬りつけるのが狙いです。シオンはそれを嫌がったのかより動きを激しくし、隙を探しますがそうそう隙は与えませんよ。
「むぅ。その剣がやっかい。」
「その動きは昨日見ましたからね。あなたの動きに合わせて剣を合わせればいいわけです。こちらは無理に近づいたところを対応するだけです。」
「んっ。じゃあこれならどう?」
「なんです?うわッ!」
シオンはなんと手に持った新聞紙をこちらに投げつけてきます。咄嗟に左手の盾で弾きましたが、その対応の間にこちらに肉薄し細い腕からアッパーぎみの掌底を繰り出しました!のけぞることでなんとか避けることができましたが肝を冷やしました。バックステップで距離を取り、新聞紙を構えなおします。当のシオンは残念そうに新聞紙を拾います。
「むぅ。当たると思ったのに。」
「いや。今のはギリギリでしたよ。たまたまです。」
「次こそ当てる。」
「次は私から行きますよ。」
シオン相手にどっしりと構えているだけでは予想もつかないことをされて負けてしまいます。ここはこちらから攻めてペースを掴みましょう!
盾を構えながらシオンに近づきます。
「ハッ!」
「っ」
隙の少ないよう突きを出し動きをけん制します。
シオンの特色は素早い動きと小さな体からくる俊敏性ですのでそれを出させないように何度も突きを繰り出し動きを阻害します。
「っ!避けるだけならなんとかなる。」
「でしょうね。これならどうです?」
「・・あっ。」
突きを途中で止めたことにより、シオンはフェイントに引っかかりしゃがんでしまいました。ふふ。私の勝ちです。
「これで避けられないでしょう?」
「っ。まだ、まだ!」
パシンッ
「はい。私の勝ちです。」
「むぅ。また負けた。」
私の新聞紙による振り下ろしをシオンはしゃがんだ体制のままなんとか避けようと身を捩りましたが、逃れることができず乾いた音が屋上に響き渡ります。なんとか勝てました。
「いやいや。シオンの動きも素晴らしいですよ。動きを捉えるのも一苦労。先程の投擲と掌底を防げたのは本当に偶然です。」
「むぅ。でも負けは負け。カイトは強い。」
「私もまだまだですよ。じゃあ罰ゲームですね。」
「ん。仕方ない。」
シオンとの模擬戦を始めた後、ただ模擬戦だけでは面白くないということで昼ご飯をどちらが作るのかという賭けをしています。今まで負けはなかったのでお昼はシオンにずっと作ってもらいました。引き分けの時は二人で作りました。
「じゃあ、ご飯作ってくる。」
「はい。私は周辺の監視をしておきます。」
「ん。お願い。」
「はい。お願いされました。」
シオンは階段を下り部屋に戻っていきます。
ライフラインはガスは止まっていますが、電気と水道は生きているのでそこまで生活に不便はありません。キッチンはガスコンロでしたの使用できませんが代わりに見つけた携帯ガスコンロで代用しています。
「避難所はあまり変化はなさそうですね。」
これも部屋で発見したデジカメの望遠機能を使い、周囲の様子を確認しますが大きな変化はないようです。
ここのマンションは同じ高さの建物は少なくそれなりに辺りを見渡すことができます。見える範囲で大型生物は見えませんが緑色のゴブリンの姿はちらほら散見できます。ある程度群れができているのでしょうか?複数で固まって行動していることが多く、建物内を荒したり食料品を貪っています。
酷いものになると人間を食べていたり、女性を・・いや。止めましょう。気分が悪くなります。
とにかくこの界隈ではゴブリンの縄張りとなっているようで、それ以外の生物が見当たらないのは幸いでした。銃が効かない相手など剣1本で勝てるとは思えません。
ただ、希望も残っています。それは魔法。ネット上での話ですのでどこまで信憑性があるのか分からず今まで試していませんでしたが、この状況を打開する為にも新たな力は手に入れるべきです。失敗しても中2病を患った男と幼女が誕生するだけなのですから。
・・そろそろシオンがお昼を作り終えたはずです。あの子は料理が上手いので結構楽しみにしている自分もいます。食事を終えたらネットで魔法の習得方法を調べて練習してみましょう。
拙い文章ですが読んでくださって感謝しております。
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