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SS【サイドストーリー】 柊 紫苑 -ヒイラギ シオンー 1

シオン目線からのパニックの様子となります。

なぜ車の中に隠れていたのかが明らかに。

よろしくお願いします。

※今後下の名前につきましては読みやすさを重視して基本的にカタカナ読みにします。苗字については漢字のままとなります。

・・私は、柊 紫苑(ヒイラギ シオン)11歳。小学5年生になったばかりのお姉さん。

私のうちはパパと2人きり。・・ママは【りこん】していなくなっちゃった。新しいパパが出きて私がいらなくなったんだと思う。だって【りこん】してから一度も会ってないんだし。


・・でもそんなことはどうでもいい。私には大好きなパパがいるから。・・でも一緒にお風呂に入ろうとする時は大嫌い。一回、もう一緒に入りたくないって言ったらパパがこの世の終わりみたいな顔してたけど仕方ないと思う。


パパ、ロリコンってやつじゃないよね?


「シオン、おはよう。」


「ん。パパ。」


「ん。じゃダメだっていつも言っているだろう。ちゃんと挨拶しなさい。」


「ん。おはようパパ。」


「まったく。」


なんでもないいつもの朝の会話。

それがいつまでも続くと思ってた。


今日の朝ごはんは白いご飯と焼いた鮭とお味噌汁。

パパは料理が苦手だから仕方ない。

でも、美味しいからいい。


「パパ。」


「なんだい?」


「新聞読みながら食事しちゃダメ。」


「はっはっは。いいじゃないか。」


「むぅ。」


パパはぎょうぎが悪い。

いつも私が注意しても直さない。むぅ。


うちはパパと2人だけだからいいけどそんなだといい人見つからないと思う。

私はお姉さんだからパパが【さいこん】したいって言ったら「いいよ」って言うと思う。でもママみたいな人だったら絶対反対する。むぅ。


「シオン。」


「ん。」


「新聞見終わったからTV点けてもいいかい?」


「ダメ。ご飯食べ終わってから。」


パパは甘やかすとダメになるから私がしっかりしないと。

ふんすっと鼻息荒く注意したけどパパは


「いいじゃないか。もうお味噌汁だけなんだし」


と言いながらTVを点けた。

これも毎朝のことだけどちゃんと私に確認してるからいい。


TVではニュースが流れていて、えらい人が色々喋っている。

今は【しょうひぜい】が上がることについて議論しているらしい。

難しくて私にはまだよく分からないけどきっと大変なことなんだと思う。


「ふんふん。やっぱり消費税増税は近いみたいだなぁ。」


パパは頷きながらお味噌汁を飲んでいるけど、パパぎょうぎ悪いって言ったよね?

私が注意しようとすると画面が突然変わって、【りぽーたー】の人だけに変わった。なんだろう?


「番組の途中ですが、緊急速報を行います。先程、日本各地で謎の大型生物が多数発見されており、付近の住民を襲っているという情報がありました。現場から中継致します。」


「こちら現場の佐藤です。謎の大型生物は人型の物やトラなどの猛獣など複数の種類が確認されており、現在、警察が出動し捕獲を試みまております。現場は騒然としております」


「現場の佐藤さん。警察が出動しているとのことですが、大型生物はどこから来たのでしょうか?」


「付近の住民の証言によりますと大型生物は薄紫色の霧が発生した直後、突如となく現れたとのことです。住民は慌てて逃げた為、その時は被害がありませんでしたが、巨大なトラのような生物や角が生えた鬼のような風貌の生物もいたということです。」


「佐藤さんありがとうございます。警察が対応に当たっているとのことですが、状況はどうなっているのでしょう?では続いて現場上空から鈴木さんお願いします。」


「現場上空の鈴木です。今現在、警察と謎の大型生物との激しい攻防が続いております。アップで撮影しましたが見えますでしょうか?大型のトラと思われる動物に捕獲ネットを使い捕まえようとしていますが、警官が振り回されています。後方では麻酔銃を持った警官が配備されて隙を伺っています。あっ、今撃ちました!麻酔銃を持った警官が一斉に発砲しています!トラがぐらついています!・・えっ?効いてません!少しよろけていますがトラが立ち上がってこちらを威嚇しています。ッ!トラが突然発火しだしました!警官が火炎放射でもしたのでしょうか?・・・!!!ッ・・・。テ、TVの前の皆様、今のが見えましたでしょうか。トラが大きく口を開け・・炎が噴射されました。警官隊全員の安否は分かりませんがここからでも人が燃えているのが確認できます。トラは尚も口から炎を吐き続け辺りの警官を燃やしています。私は悪い夢でも見ているのでしょうか。・・目の前では地獄絵図が広がっています。い、以上、現場から鈴木が中継しました・・」


「す、鈴木さんありがとうございました・・。今入りました情報によりますと同様の大型生物は世界各地で発生しており、既に連絡がとれなくなった地域もあるということです。日本国内においても都心部を中心に被害が拡大しているという情報も入っております。・・今回の件に先立ち、国会より総理より緊急の会見が予定されております。大型生物は日本各地で発生しています。国民の皆様は慌てず、自宅で戸締りをして救助を待つか近隣の避難所に避難をしてください。決して被害の大きな地域には行かないでください。」


パパと私は何も言えずTVを眺めていた。

今のってゲームの宣伝とかじゃないよね?

私もゲームは好きで竜伝説とか最後の幻想とかよくやってるけどその中で出てくる敵キャラみたいだった。


TVでは避難所の場所を放送してるみたい。

私が住んでいるのは猫見市(ネコミシ)。だからえぇと・・


「シオン。今の映像をちゃんと見たかい?」


「ん。ゲームみたいだった。」


「違う。ゲームじゃなくて本当に起こっていることみたいだ。家の中よりも避難所に行ったほうがいいかな。ここからだと西区の市民公園が避難所みたいだね。」


私が考えているとパパがTVで避難所の場所を確認してた。

こういう時のパパは頼りになる。

いつもこうならいいのに。


---------------------



この近くに怪物はいないみたいでちゃんと西区の市民公園まで避難できた。

|猫見市≪ネコミシ≫は東京からも近くて【べっどたうん】て呼ばれてるんだって。

私の家は南区で回りはおうちしかないけど

西区がお店がたくさんあって北区には工場がたくさんあるんだよ。パパは危ないから一人で行っちゃダメだっていうけどもう11歳なんだから大丈夫だと思う。


「シオン疲れてないかい?」


「ん。大丈夫。」


ウソだ。ここまで来るのにいっぱい歩いたし、回りの大人の人は怒っている人ばっかりですごく怖い。

でもパパに心配はかけられない。私はお姉さんだから。

だから怖くても我慢する。


「僕は疲れちゃったよ。テントもあることだし早めに休もうか」


「ん。パパがそう言うなら仕方ない。」


「はっはっは。ありがとなシオン。」


「ん。」


そう。パパが疲れたなら仕方ない。

私はお姉さんだからパパの面倒を見なきゃいけない。



---------------------





「・・!」


「・・ろッ!」


「・・・げろッ!」


夜中に騒がしくて目が覚めた。

辺りの人が騒いでいるのかな。近所迷惑だからやめてほしいと思ってたらそうじゃないみたい。


「化け物がやってきたぞ!急いで逃げろーッ!!」


「んっ!」


お水をかけられたみたいに意識がはっきりした。

お外の人は化け物がやってきたって言ってた。

ここにいたら危ない気がする!


「ん。パパ。起きて。」


「・・うーん。まだ夜じゃないか。」


パパは寝ぼけて起きない。いつもだったらすぐ起きるのにやっぱり疲れてたのかな。


「んっ。パパ起きて。怪物が来たって回りの人が叫んでる。」


「・・・大丈夫だよ。警察の人がいるから・・。」


パパをもう一度強くゆすったけどまた寝ちゃった。

・・しょうがない。


バッシーン!!


「痛い!」


「パパ。起きた?起きてないならもう一回・・。」


「起きた!起きたよ!シオン!」


パパが寝ぼけている時にぱしーんとやるとちゃんと起きる。

いつもは痛いから止めてって言ってたけど今はいつもじゃないからいい。


「で、どうしたんだシオン。トイレか?」


「むぅ。違う。お外が騒がしい。怪物が来たから逃げろって皆言ってる。」


むぅ。パパは失礼だ。私は11歳だからトイレにも一人で行けるもん。

たまに怖くて一緒に行ってもらってたけどもう11歳だからきっと大丈夫。


「えぇっ!危ないじゃないか!今外はどうなってるんだ?」


「パパ。だからさっきから言ってた。」


「あぁ、ごめん。ごめん。ってそうじゃない!シオンとにかく外の様子を見てみよう!」


パパと私はテントから出て外の様子を見た。

そこには地獄が広がってた。


角が生えた大きな赤い人や青い人が金属の棒を持って人に襲い掛かっている。

多分あれは、桃太郎に出てくる鬼じゃないかと思う。

襲われた人はグシャグシャになって潰れてしまっていた。

警官の人が鉄砲を撃ったけど角が生えた大きな人には効いていないみたいで、当たったところをポリポリと掻いている。

くすぐったいだけみたい。


「・・うぷっ、うぇぇぇっ。」


「ッ。シオン大丈夫かい?」


気持ち悪い。

人がどんどんぐしゃぐしゃになっていくのを見て晩御飯を吐いちゃった。

一度吐くとどんどん出てきて気持ち悪いのが治らない。

なにこれ?本当に起こっていることなの?


「うぇっ、うぇぇぇっ、うぅ・・」


もう吐いても何も出ないのに止まらない。

私どうしちゃったんだろ。死んじゃうのかな?って思ったらなぜだかすごく怖くなった。


「シオン!シオン!待ってろパパがここから安全なところに連れていってやるからな!」


「・・パパっ・・。」


「大丈夫!パパに任せなさい!」


「・・ん。」


パパは私を抱き上げると急いで公園の出口に向かった。

鬼は他の人を襲うのに夢中でパパと私に気付かなかった。

パパと私は無事に公園から抜け出した。




「パパ」


「なんだいシオン?」


「・・これからどうするの?」


公園から無事に逃げ出した後、西区からおうちがある南区のほうへパパが走っている。私はパパに抱かれながらこれからどうするかを聞いてみた。

すごく、すごく、怖かった。だからこれからどうするかがとても気になった。


「そうだなぁ・・。どこ行っても危険はあるみたいだから、おうちに帰ってじっとしてれば怪物も気付かないんじゃないかな?」


「・・んっ。おうちなら安心できる。」


「そうだね。じゃあおうちに帰ろうか。」


「・・んっ!」


きっとおうちに帰れば怪物達もきっと来ない。

じっとしてればそのうち偉い人達がなんとかしてくれるかもしれない。

TVでも【そうりだいじん】が会見で自衛隊の人を派遣するって言ってた。


「・・早くおうちに帰りたい。」


「あぁ。そうだね。おうちに帰ろう。」


パパは笑って言ってくれた。ホッとする。

でも、おうちに帰ることはできなかった。


「グギャギャギャギャギャッ!」


「・・ひっ!」


「くそっ!こっちにも!」


帰り道で人の死体を見つけた時、また私が吐いてしまった。

その音を聞きつけて緑色の人が10人くらい現れた。

私のせいだ。


パパが私を抱いて必死に走っているけど曲がり角からどんどん緑色の人がやってくる。手には剣やナイフ、棒を持った人もいて、摑まったらどうなるか簡単に想像がついてしまう。きっと剣で刺されて棒で叩かれて私もぐちゃぐちゃになっちゃうんだろう。


「うぇっ。うぇぇぇぇっ。」


「シオン!」


想像したらまた吐いてしまった。もう吐くものなんてないのに。

私のせいでパパが走っているのに。

何がお姉さんだ。私一人では何にもできない子供だ。

パパを助けてあげたいのに何もできない無力な子供。


「シオン!大丈夫だ!シオン!きっとパパが守ってやるからな!」


「パ・・パ・・。」


暖かい。パパのぬくもり。

さっきまであんなに気持ち悪かったのに今はなんともない。

パパがいればきっと助かる。

あの時はそんな風に思えた。


パパは西区の繁華街を抜けて南区の住宅街までやってきた。

緑の人は後ろから追いかけてくるけれどまだ離れてるから大丈夫。


「シオンもう少しだ!もう少しでおうちだからな!」


「んっ!」


パパは住宅街を抜けて走っていく。

もう見慣れた道まで戻ってきた。

そこの十字路を曲がって3つ目の信号を左に曲がったらすぐにおうちだ。

パパが十字路を曲がった。

あとちょっとだ!

でも、そのあとちょっとの距離が私とパパにとってとっても遠い距離だった。


「そ、そんな・・。ここまで来たってのに!」


十字路を曲がった先から緑の人がたくさんやってくる。

とてもじゃないけど通れない。

無理に通ろうとしたらきっと摑まる。


「パパ!別の道は?」


「そ、そうだッ!ここは十字路だから別の道がきっとあるは・・ず。」


ダメだった。

反対側の道もまっすぐすすんだ道も緑色の人がいっぱいいる。

後ろからも緑色の人が追いかけてくる。

建物はなくて電柱にぶつかった車がポツンとあるだけ。

回りの壁は高くて登ろうとしたけどパパも私も届かなかった。


「パパ・・どうしよう。」


「一体どうしたら・・はッ!そうだこの放置車両の鍵が開いてれば・・!」


パパは車のドアを祈るようにして引っ張ると車は開いた。

どうやら鍵はかかってなかったみたい。


「よしッ!シオンそこの車の中ならに隠れなさい!」


そうか!車の中に隠れたら見つからないかもしれない!

でもパパは私を車内に入れたらドアを閉めようとしている。


「っパパは?パパも一緒じゃないと嫌!」


そう。パパはいつも私といっしょにいてくれた。

だから隠れる時もいっしょ。


「パパは外に残るよ。怪物はこちらに気付いているみたいだから気をそらす必要があるからね。」


そう言ってパパは私を優しく撫でてくれた。


「・・パパぁ。ごめんなさい。私が声を出して見つかったから・・」


「はっはっは。シオンのせいじゃないよ。こうまでたくさんいたら遅かれ早かれ見つかっていたさ。」


でも、私が足手まといなのは事実。

私が子供じゃなかったら、もっと強かったら、パパを守れるのに。

悔しくて涙が出てくる。


「ほらほら。泣かない。可愛い顔が台無しじゃないか。」


「・・だって。」


「パパは大丈夫。強いからあんな奴らなんかあっという間にやっつけて迎えにいくから、静かにして隠れてなさい。」


「・・でも。」


「大丈夫。」


「・・だけど。」


「パパは大丈夫。」


「・・うん。」


パパはまっすぐに私を見ながら大丈夫だと言い続けた。

そしてそっとほっぺにチュウをしてドアを閉めた。


「・・おまえは生き残って幸せになりなさい。」


ドアを閉める直前パパが何か言っていたが聞き取れなかった。


「ギャギャギャギャギャッ!」


「怪物どもめ!ただではやられんぞ!娘だけは守ってみせる!」


鍵を閉めて車の中で隠れていたら辺りが騒がしくなってきた。

怪物の声とパパの声が聞こえる。

大丈夫。パパは強いんだ。


「グギャァァァァァッ!」


「娘はやらせん!やらせんぞ!」


パパの叫び声が聞こえてくる。

大丈夫。パパは大丈夫。


「ギャッギャッギャッ」


「ぐぁぁぁぁぁ!」


パパの悲鳴が聞こえてくる。

パパ。大丈夫だよね・・パパ。


「ギャッギャッギャッギャッギャッギャッ」


パパの声が聞こえなくなった。

どうしよう・・パパ。


「ゴフッ!シオン!パパはもうダメだ!だからおまえだけでも逃げなさい!幸せになりなさい!」


パパの最後の声が聞こえた。

その後は緑色の人達の声しか聞こえなくなった。

パパ・・パパ・・パパ・・。


パパが危ない。パパを助けないと。パパをパパをパパをっ。


「・・助け・・なきゃ。パパ・・を助けな・・きゃ。私はヒック・・お姉さんだからパパを・・グスッ・・助けるんだ」


涙が零れてきます。

パパを助けなきゃいけないのにドアまですぐ近くなのに体が動いてくれない。

ガタガタと震えがきて動けない。

あぁ・・私は怖いんだ。パパを助けなきゃいけないのに何もできない。無力な子供だから。




あれからどれだけ時間が経ったんだろう。回りからはほとんど音がしない。

顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


「・・大丈・・夫かな。」


音がしないからきっと大丈夫。


「・・いなく・・なったのか・・な。」


パパが守ってくれたからきっと大丈夫。


「・・ちょっと・・見てみるだけな・・ら。」


きっと大丈夫。もうあの怖い人達はきっといない。


そっと窓から外を覗いてみる。


「・・ひっ!」


そこにいたのは変わり果てたパパを食べている緑色の怪物だった。


「パ・・パパ・・?」


パパに群がる緑色の怪物。

グチャグチャと嫌な音が聞こえてきたみたいだ。

車の中だから音なんて聞こえないはずなのに。


「うぇっ・・うぇぇぇっ。」


おなかの中は何もないのに吐いてしまう。

一度始まると止まらない。


「うぷっ・・うぇぇ・・」


「ギャ?」


「・・・っ!」


吐き気が止まらず、でも視線はパパを見てしまっている私に緑色の怪物が食事を止めて振り向いてしまった。

とっさに隠れたが遅かったようだ。


「グギャギャギャギャギャ!」


「・・ひっ!」


私に気付いた緑色の怪物は私の足くらいの木の棒を片手に近づいてくる。

車に近づいた緑色の怪物は


「グギャァッ!」


木の棒を窓ガラスに叩きつける!

ヒビが入る窓ガラス。


「グギャァッ!」


「いや・・やめて・・」


緑色の怪物が木の棒を振りかざす度に車が揺れ、窓ガラスの蜘蛛の巣が大きくなっていく。


何度目かの叩きつけの後、バリンッという音と共に窓ガラスが砕け散った。


「・・ひ」


緑色の怪物はにやにや笑いながら私を捕まえようとする。

後ろに下がろうとしたけど、すぐに助手席側のドアにぶつかった。

緑色の腕が私の腕を掴んだ。


「・・来ないで!」


思いの外強い拒絶の声が出たが緑色の怪物は気にすることなく私を引っ張る。


「グギャギャッ」


私が抵抗をしても子供の力じゃ抵抗できない。

どんどん外に連れ出されていく。


あぁ、パパが守ってくれたのに私がまた見つかったから無駄になった。

私が鈍くさいから。無力だから。子供だから。


窓ガラスで切ったのか腕から血が流れているのを見ながらそんなことをぼんやりと考える。緑色の怪物はどんどん私を引っ張る。そして私が外へ連れ出されそうになった瞬間。


「ここです!」


ナイフが飛んできて、緑色の怪物に刺さる。

緑色の怪物は青い血を流して倒れてしまった。


「・・助かった・・の?」


現実を認識できなくてボーッとしていると


「ちょっ!同時は無理です!うわっ!」


と男の人の声が聞こえてくる。

そっと外を見てみるとリュックを背負ったスーツを着たお兄ちゃんが剣と盾を持って緑色の怪物と戦っていました。


お兄ちゃんは武器を持った緑色の怪物に何かを投げた。

すると怪物は目を押さえて転がりだした。何だったんだろう?


そのうちに駆け出そうとしたお兄ちゃんが、何も持ってない怪物に邪魔された。


「邪魔をするようならおまえから倒させて頂きます。」


と何も持ってない怪物に斬りかかっていったけど全部避けられてた。

お兄ちゃん弱いのかな。


お兄ちゃんはその後も何度も何度も諦めずに剣を振っていますが当たらない。


「あっ!」


「グギャギャギャギャギャ!グギャッグギャッグギャッ」


お兄ちゃんが剣を振った後に倒れてしまった!

剣も離れたところにあって届きそうにない。

何も持ってない怪物は笑いながらお兄ちゃんに近づいて拳を振り上げた。


「・・嫌っ!」


これ以上見たくない。もう人が死ぬのは見たくない。

車の中に隠れて耳を塞いだ。

それからしばらくした後に


「ギャァァァァァァァッ!!」


と大きな叫び声が聞こえてきた。

きっとお兄ちゃんなんだろう。


「・・ですかー?」


叫び声の後も耳を塞いでいたら、声が聞こえてきた。

緑色の怪物だろう。


「・・嫌。・・嫌ぁ。」


声が漏れてしまう。あの怪物に聞こえてしまうかもしれないのに声が出ちゃう。


「・・リンは・・・・・・大・・夫・・よー?」


また、聞こえた。もう何も聞こえないようにとギュッと耳を塞ぐ手に力を入れる。


「一・・・・・し・・ので車の・・まで行きます・・・で・・・ねー。」


また、聞こえた。今度はさっきより大きな声だ。

思わずビクッとしてしまう。

動いたことにより音も出てしまった。


どんどん声の主は近づいてくる。怖い。怖い。怖い。

そして声の主は姿を現した。


「こんにちは。危なかったですね。もう大丈夫ですよ。」


・・私の顔を覗き込んでいたのは怪物ではなくさっきまで戦っていたスーツのお兄ちゃんだった。


「・・誰?」


知ってる。私を助けてくれたお兄ちゃんだ。


「私は赤木 海人(アカギ カイト)といいます。あなたが襲われていたのでとっさに助けに入ったんですが無事で良かったです。お一人ですか?」


私が助けてもらったのは赤木 海人(アカギ カイト)という名前だった。黒髪で優しそうな顔をしている。カイトお兄ちゃんって呼んでいい?って聞きたかったけど恥ずかしくて聞けなかった。


カイトお兄ちゃんは私だけじゃないと思っているのか、他に人がいるか聞いてくる。途端にパパの笑顔が浮かんで涙が溢れてくる。


「・・違う。パパと・・一緒だった。・・怪物に追われてたら・・・パパは・・危ないからここで隠れてなさいって言って・・お外に出ちゃっ・・た」


そう、パパは私の為に外に出た。


「そうですか。無事だといいんですが。」


カイトお兄ちゃんがパパの心配をしてる。


「・・ううん。パパは・・食べられちゃっ・・た。・・パパはもうダメだから私だけでも逃げなさい・・って・・聞こえ・・・た。けど、・・私は怖くてお車から外に出ること・・・できなかったの。・・もし私が・・お外に出れば・・パパを助けられた・・か・・も・・しれないのに・・・・きっと・・私のせいでパパが死んじゃったんだ!・・私さえいなければよかったのに!」


「ッ!」


私は聞いた。パパが叫ぶのを。私は見た。パパが食べられてるのを。

全部私が弱かったのが原因。あの時、車から飛び出せれば、パパを助ける力があれば。そんなことを考えるうちにどんどん言葉が止まらなくなってくる。・・そう私さえいなければパパは無事だった!


カイトお兄ちゃんはすまなそうな顔をして謝った。

うぅん悪いのは弱い私だから。


「すいません。辛いことを聞いてしまいましたね。ですが、自分を責めてはいけませんよ。あなたのお父さんもそんなことは望んでいないでしょう」


望んでないのは分かってる。・・でも!


「・・でもっ!・・私が動けなかったのは事実・・だから!」


そうそれが事実。それが結果。パパを助けることができなかったのは変わらない。


「それでも、お父さんはあなたが生きていることを喜んでいるはずです。子供の無事を喜ばない親なんていませんよ。」


うん。きっとパパならそう言うと思う。

それはいつもいっしょにいた私だから分かること。


「・・・うん。・・でも私が動けなかったのは・・事実」


何よりも一番許せないのは怖くて震えてた子供の私。

無力な私。それだけは絶対に許してはいけないと思う。

そんなことを考えていたカイトお兄ちゃんがこんなことを言った。

多分この言葉は一生忘れないと思う。


「あなたが後悔しているのであればお父さんの分まで幸せになりなさい。それこそがお父さんが望んでいたことだと思いますよ。」


パパの分まで幸せに・・。

おっちょこちょいなパパ。料理が下手なパパ。寝起きが悪かったパパ。そして優しくて強かったパパ。

私はそんなパパの分まで生きなきゃいけないんだ。

それがパパの望んだことなら私は幸せになろうと思う。

でもごめんねパパ。わがままを一つだけさせて欲しいの


それは強くなること。

弱い子供のままじゃ何もできない。それが良く分かった。

だから強くなる。絶対に。

それならこんなところでじっとなんかしてられない。


「っ!・・うん。分かった。それがパパがして欲しかったことなら私は幸せになる。・・私もついていっていい?」


そう。私の目の前には怪物に立ち向かって勝ったカイトお兄ちゃんがいる。剣は苦手かもしれないけど・・一人で頑張るよりはいいはず。

いっしょに行っていいよね?カイトお兄ちゃん。


「もちろん。こちらこそよろしくお願いします。っと車から外に出る前に確認したいんですが、非常に聞きにくいことですが外にある亡骸はもしかして・・」


「・・うん。パパだよ」


カイトお兄ちゃんは快く返事をしてくれた。

・・よかった。ダメって言われたら勝手についてくるつもりだったから。

カイトお兄ちゃんは車を出る前にパパのことについて聞いてきた。きっとパパの変わり果てた姿を見てしまうことを気にしてくれたんだろう。


「答えにくいことを聞いてすいませんでした。あなたのお父さんの亡骸は損傷が激しいので隠せるようシーツか何かを持ってきますので暫く待って頂けませんか?」


「・・大丈夫。パパをちゃんと見送ってあげないといけないから。・・私は大丈夫」


うん。大丈夫。

私がパパを見送ってあげないと天国で困ってしまうから。

パパは結構抜けてるから。


「・・大丈夫。」


「いや、本当にやめたほうが・・」


「・・大丈夫だから。」


「・・分かりました。無理はしないでくださいね?」


「・・ん。大丈夫。」


カイトお兄ちゃんは心配なのか何度も聞いてくる。

心配性なのはパパといっしょ。

何度も大丈夫って言って信用してくれた。


「・・ん。ありがと。」


「どういたしまして。」


カイトお兄ちゃんにお礼をきちんと言う。

挨拶は大事だから。

そうして私はパパに向かって歩いていく。


「パパ・・」


パパ・・変わり果てた姿になってるパパ。


「パパ・・パパ・・パ、パァッ・・ウァァァアッ」


パパ・・私の為にボロボロになったパパ。


「パパッ!ごめんなさい!私のせいで・・私のせいで・・!ごめんなさい!」


涙が止まらなくなる。

強くなるって決めたのに。

ごめんなさいって言葉が止まらない。

この後強くなるから、頑張るから、だから今だけは許して。パパ。


泣き止まない私を見てお兄ちゃんがパパに声をかけた。

優しくもしっかりと声が私の耳に響いてくる。


赤木 海人(アカギ カイト)と申します。あなたが身を挺してお子さんを守る為に使った時間で私はお子さんの危機に立ち会うことができました。あなたの死を無駄にしないようこれからは私があなたに代わり保護致します。どうか安らかに眠ってください。」


カイトお兄ちゃんがパパに向かってお礼を言っている。

うん。私もカイトお兄ちゃんに負けないよう、パパに心配かけないようにしないといけない。


「お兄ちゃん・・」


ついお兄ちゃんとポロリとこぼしてしまった。

けどカイトお兄ちゃんは特に気にした様子はなかった。

ホッとしたけど無視されるのも嫌だ。むぅ。


「ほら、お父さんもごめんなさいばかり言われてしまうと困ってしまいますよ。幸せになるんでしょう?」


「・・うん。・・ごめ・・ううん。ありがとうパパ。パパのおかげで私はお兄ちゃんに助けてもらったよ。ヒックッ、パパのっ・・分までっ幸せになるヒグッ・・ね?だヒックッ・・からお願い。・・私をっズズッ見てくれる?」


パパありがとう。パパのおかげで私は助かった。

だからパパの分まで幸せになるから見てて。


「きっとお父さんも天国であなたのことを見守っていますよ。ほらほら、可愛いお顔が台無しです。ほら、鼻かんで。チーンですよ。」


「・・むぅ。私は子供じゃないもん。」


カイトお兄ちゃんが子供扱いしてくる。私はもう子供じゃない。

大人になるんだ。


「はいはい。分かりましたお嬢様。次からはお一人でお願いしますね?」


「おじょっ・・?・・ん。今回はお願いする。」


カ、カ、カ、カイトお兄ちゃんに・・お嬢様って言われた。

顔が赤くなるのを感じる。

こんなことパパにも言われたことないのに。

照れ隠しに鼻をかんでもらうことにした。むぅ。


「はいはい。」


「むぅ、はいは一回。」


「フフ、はい。分かりました。」


「チーンッ」


パパと同じようにはいはいって言ったからはいは一回って注意した。

カイトお兄ちゃんとパパはどこか似ているのかもしれない。


「では、これから改めてお願いします。赤木 海人(アカギ カイト)です。お名前を伺ってもよろしいですか?」


カイトお兄ちゃん。

最初に教えてくれたから知ってる。


「・・私は柊 紫苑(ヒイラギ シオン)。」


私の名前。紫苑はお花の名前らしい。私のお気に入り。


「紫苑≪シオン≫ちゃんですね。よろしくお願いします。」


「ん。ちゃんはいらない。紫苑≪シオン≫でいい。カイトはいくつなの?」


そうちゃん。いらない。

子ども扱いしないで欲しい。


「私ですか?私は今年で25歳です。紫苑≪シオン≫からしたらおじさんです。」


「むぅ。おじさんじゃない。・・紫苑≪シオン≫と14歳離れているだけだから・・おっ・・お兄ちゃんになる」


私が11歳だからえーっと14歳差。

それならお兄ちゃんで大丈夫。

私がお兄ちゃんになるって言ったのに


「フフ、有難う御座います。私のことはカイトとでも呼んでください。」


「・・むう。分かった。カイト。」


カイトお兄ちゃんはカイトって呼び捨てで呼んでくれって言われた。

私はカイトお兄ちゃんと呼びたいのに。むぅ。

でもお兄ちゃんと呼ぶのが恥ずかしかったので今はカイトでいい。


「カイト」


「はい。なんですかシオン」


「・・パパ。ここにそのままにしておきたくない。お墓を作ってあげたい」


パパをこの場所にひとりぼっちにするのは可哀想。

なんとかできないかな?カイトお兄ちゃん。


「そうですね。私もこのまま野ざらしというのはいくらなんでも可哀想だと思いますが、ここまで損傷の激しい亡骸を移動させるのは難しいです。」


「移動させるのは難しいですが、ここで火葬して葬るということであれば可能すね」


お墓が作れないと言われてしょんぼりしてしまった。

けどカイトお兄ちゃんはちゃんと考えてくれてこの場所でお葬式をしてくれるみたい。よかった。


「ただ、今は火葬する準備もないので今すぐにというわけにはいきません。モンスターもいますので、出直す必要がありますがよろしいですか?」


「・・モンスター?」


モンスターってなんだろう。ゲームのことかな?


「あなたが先程言った怪物のことですよ。ほら、私が倒した死体もあります・・し?」


角を生やした大きな鬼。そしてパパを殺した緑色の怪物。あいつらはモンスターって言うんだ。

・・あいつらは絶対許せない。

強くなって絶対にやっつけてやる。

カイトお兄ちゃんは緑色の怪物を指さしましたが、いつの間にか消えている。

その後には黒い石ころだけが転がってた。


「・・いない」


「ですね。確かに倒したはずなんですが・・いや、消えた?そんなはずは・・。いや、しかし・・」


「・・いないならいい」


そう。いないならいい。まだいるなら強くなって倒す。


「まぁ考えても答えは出ませんし、また余裕がある時にネットで調べてみます。」


「ん。」


カイトお兄ちゃんは調べてくれるって言ってるからそれでいいと思う。

モンスターについて分かったら色々教えてもらおう。


「倒したモンスター以外にも何が出てくるか分かりませんし、火葬の準備をする為にも一旦ここを離れましょう。」


「・・ん。分かった。」


さよならパパ。

|柊 紫苑≪ヒイラギ シオン≫はパパの代わりに幸せになるから。

見守っていてください。


当初ショートストーリーの予定でしたが予想以上に長文となってしまいましたが楽しめましたでしょうか?


拙い文章ですが読んでくださって感謝しております。

感想、誤字脱字、ご意見ありましたらなんでも賜ります。

評価をして頂けると励みになります!よろしくお願いします!


次回更新は明日17:00を予定しております。

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