ゴブリンとガチで戦います。
ゴブリンを倒し、無事武器は手に入れることができましたが部屋は塩素ガスが残っている為、長居はできません。
思い入れの残っている家ではありますが、ゴブリンの死体with吐瀉物があるので塩素ガスがなくてもいたくはないです。
そうと決まれば脱出準備をしましょう。
服は小物を収納するポケットの多さを考えてスーツにしてみました。
メインウエポンはショートソード。
すぐに使うことになるでしょうしこれは抜き身のままでいいでしょう。
ダガーはサブウエポンとして装備します。
ゴブリンから奪った際、こちらも抜き身でしたが、うまいこと長方形のプラスチックケース筆箱が見つかったのでこちらを加工して鞘にしてみます。
そのまま使うには強度が足りないのでセロハンテープでぐるぐる巻きにしてみます。たかがセロハンと侮るなかれ。重ねて巻くことでかなり強度を保つことができます。十分に強度を確保したのちに筆箱の上部に直接刃を差し込みます。
そうすることでダガーが簡単に抜けなくなるので落としたりすることもないでしょう。後はこれを背中部分のベルトに固定してあげれば完成です。
上着を着ることで見えなくなりますので敵の意表もつけるかもという打算もあります。
丸盾は左腕に装着します。
所詮木製なので過信はできませんがないよりはマシといったところです。
後は自作した小物類をスーツの各ポケットに収納しておきます。
大したことのないものばかりですが何が役に立つか分かりませんから。
最後に食料品各種を山田さん宅に残っていたリュックサックに詰めます。
私もそうですが山田さんも一人暮らしでしたのでカップラーメンやレトルト食品が多く残っていました。有り難く頂きましょう。
もう一振りのショートソードも今は使いませんので刃先を新聞紙で何重にも巻いて放り込んでおきます。
こうして見るとスーツとリュックは合いませんね。違和感がすごいです。
更に武装しているので違和感はうなぎのぼりです。
「準備はできましたが今後の行動指針を決めていませんでしたね」
いざ出発しようとしたところではた、と気付きました。
冷静なつもりではいましたが、異常な現実を前に浮足立っていたみたいです。
私もまだまだです。
1歩外を出ればそこは弱肉強食のサバイバルが待ち受けています。
強ければ生き弱ければあっさりと死ぬでしょう。
この厳しい世界に何も考えず状況に流されていればすぐに手詰まりとなり、
屍をさらすことになるでしょう。
当然最終的な目標はこの世界で生き残ることですがど単純に生き残るという選択肢一つ取っても行動指針は様々な選択が考えられます。
大まかには3つですね。
1.避難民として組織に保護されるか
2.組織に所属せずたった一人で籠り続けるか
3.組織に所属はしないが複数のコミュニティを探すか
まず1番は論外ですね。
単純な自然災害であれば有効な手立てではありますが、モンスターという敵対勢力に対して保護されているだけというだけでは強力なモンスターが現れた場合対処方法を人任せにすることにより、保護していただいた勢力が負けた場合、抗うことができなくなりそのままBADEND一直線となるので却下します。また、こういったサバイバル状態の人間がどのような行動をするか予測が出来ない為、安易に頼るわけにもいかないでしょう。
何より魔法という力がある現状でただ保護されているだけなんて面白くないですし。剣と魔法なんて燃えるじゃないですか。
2番も楽しそうではありますが、いくらなんでも無謀でしょう。
一人でできることは限られていますので。
となるとやはり3番を選択するのがよいですね。
というよりも組織を探しつつその中で仲間を探すということがベターですね。
一人では生き残るのは難しい、けれど保護されているだけでは脅威に対して無力です。となると組織を探し信用できる仲間を探すべきです。
そうそう信用できる者が見つかるとは思えませんが、そういった心づもりでいるべきでしょうね。
行動指針を決めたところでそろそろ出かけることとしましょう。
窓から見える限り先程倒したゴブリン以外はこの辺りに見当たらないようですが油断はできません。
ドアの覗き窓から外を調べます。オーケー、敵はいないようです。
音を立てずそっと外に滑り込み1階まで静かに降りていきます。
住宅街はしんと静まり返っておりますが道路上に散らばる食べ残しが凄惨な現実を如実に伝えています。
吐き気がしますがこらえて先を進みます。
目的地については考えがありました。
この住宅街を進んで1時間程の距離に中学校が地域の避難所となっているのでまずはそちらに向かいます。
集団に合うのは危険を伴いますが仲間を探すのにも人が集まるエリアに行くのが得策でしょう。
時折「ギャア、ギャア」と周辺住宅から鳴き声がすることに戦々恐々としながら道路を進んでいましたが、あいにくモンスターと鉢合わせすることもなく拍子抜けしましたが大きめの十字路に差し掛かったところで敵と遭遇しました。
敵は3体。ゴブリンです。
どうやら2体はお食事中のようで倒れた人に覆いかぶさっているみたいです。
残る1体はこちらに背を向けて大破した車に棍棒を叩きつけています。
どうにかやり過ごせないか辺りを調べましたが身を隠して進むには大きく過ぎる十字路で進めば見つかるのは間違いないでしょうが他に回り道もありません。
どうしたものかと逡巡していると
「ギャ?」
途端にゴブリンが振り向きましたが間一髪近くの放置車両に滑り込みます。
危ない危ない。
そっと放置車両の陰から確認します。
ゴブリンは気のせいだと思ってくれたみたいでお食事に戻ってくれました。
このまま隠れて様子を伺います。
食事中の2体は全くを回りを気にせず一心不乱に貪っていますが、
車を叩き続けている個体はひどく興奮しているようで車に対し攻撃し続けています。
あ、窓ガラスが割れました。ゴブリンは醜悪な顔を喜悦に歪めて車の中に手を入れたその時
「・・来ないで!」
と小さな声でしたが不思議とハッキリ聞こえました。
よく見ると車内に女の子がいたようでゴブリンが狙っていたのはあの子だったのでしょう。
「ちぃっ!」
その事実を確認した途端、自分自身でもよく分からない焦燥に駆られて、物陰から飛び出します。
車まで20m。ゴブリンは気付かず女の子の腕を掴み引きずりだそうとします。
力の差は圧倒的で白い腕が車外にどんどん外気にさらされていきます。
15m。ようやくゴブリンが私に気付き指を指して騒ぎ始めます。
女の子は今だ腕をガッシリと掴まれています。
10m。食事中の2体はまだ食事を続けています。
女の子を捕まえてるゴブリンは女の子を引きずり出そうと腕を引っ張り続けます。割れたガラスで切ったのでしょう白い肌から血が滴り落ちます。・・もう少し!
「ここです!」
5m。背中に手を回しダガーを抜いた私は前方のゴブリン達に向けて投擲します。狙いは女の子を襲っているゴブリン!失敗は自分と女の子の死を招く為、確実に当たるであろう距離まで肉薄したこともありダガーは一直線にゴブリンの胸元に吸い込まれていき見事に命中します。
「よし!」
ゴブリンは女の子から手を放し空を掴みながら仰向けになり倒れました。
これで女の子が襲われることはなくなりました。
食事中の2体はようやく来襲者に気付き立ち上がります。
武器持ちは1体のみで手には鎌を手にしています。
「ふぅー」
2体は1体を倒したこちらを警戒してすぐには襲い掛からなかったのを幸いとし乱れた息を直します。ここからが本番です。
手に持ったショートソードの感触を確かめつつ初めての正面からの闘いに臨みます。今さらながら震えがきます。
「グギャギャギャギャギャ!」
2体は決心が固まったのか叫び声を上げながら突進してきます!
「ちょっ!同時は無理です!うわっ!」
致命となる鎌の振り下ろしを寸でのところで回避できましたが無手の1体の突進をもろにくらい後ろに吹っ飛びます!
どんだけ力ありあまってるんですか!
「グギャッ!」
鎌持ちが追撃とばかりに吹っ飛んだ私を追いかけますが無手の突進で態勢を崩した私にそれを回避するのは不可能です!
鎌持ちが歪んだ笑顔で鎌を振り上げますがそうはいきません!
「・・このッ!」
「ギャンッッ!」
スーツのポケットから紙袋を取り出しマル秘アイテムその1【こしょう玉】を投げつけます!アパートを出る前にいくつか作成したものでこしょうと唐辛子をたっぷり入れ、サランラップで丸めただけですが効果は大きく顔に当たった鎌持ちが涙を流しのたうち回っています。
今がチャンスと鎌持ちを先に倒そうとするも間に無手のゴブリンが入り込み邪魔をしてきました。
「邪魔をするようならおまえから倒させて頂きます。」
できれば鎌持ちを先に倒したかったのですが、無手が邪魔をしてそうもいきません。なので鎌持ちが回復する前に無手を先に倒す必要があります。
無手は鎌持ちを守るように背後に収めた後、一直線に私に向かってきます。腕の届く範囲まで近寄り、拳を振り上げ迫ってきます!
「甘い!」
一発目は冷静に避けれたのでこの隙にショートソードで攻撃しようとしたのが間違いでした。
「うぐっ!早いです!ぐはっ!」
左の一撃を避けたところで右のレバーブローに左のストレートを食らってしまいました!ボクシング得意なんですか?あぁそうなんですか!くそ!
「グギャギャッ」
無手は止めとばかり右腕を大きく振り下ろします!
「くっ!」
今度は苦し紛れに左手に装着した丸盾をかざし間一髪防ぐことができました。
「ギャンッ!」
無手は右拳を痛めたのか叫んでのけぞります。
そりゃ痛いですよねぇ。
「お返しです!」
無手と距離が開いた私がショートソードを切り付けましたが・・あっさりと避けられました。
「・・グギャップ」
心なしかバカにされている気がしてムッとしてしまいました。
剣術素人なんだから仕方ないでしょう!
「くそっ!当たれ!当たりなさい!」
「ギャッギャッギャッギャッ」
その後もブンブンショートソードを振り回すも全く当たる気配がなく疲労だけが溜まってきます。無手のゴブリンは避けるしか方法がない為、一定の距離を置いて剣を避け続けます。このまま時間が経過すれば鎌持ちのゴブリンまで回復して詰んでしまいます。
早急に打開をしなければなりません!
「いい加減当たったらどうですか!」
「グギャギャギャ」
「えーい!当たりなさい!うわっ」
「グギャギャギャギャギャ!グギャッグギャッグギャッ」
何度目になるかも分からない斬撃を避けた後、疲労から足元がおぼつかなくなり尻持ちついてしまいました。その際に手が滑りショートソードを落としてしまいました。それを見た無手が無防備に近づいてきます。
無手は心底楽しいといった表情ですがあなたたちの笑顔が見てて嫌悪感しかありませんのでやめてほしいです。
目と鼻の先までやってきた無手はその汚い笑顔を張り付けながら近づいた無手が気が付きました。
私も笑顔を浮かべていることに
「あなたに闇雲に剣を振るっても素人の私では勝てないのは理解しました。ショートソードも失った今、脅威も薄れてしまっています。ですが、人間は本来頭を使う生き物です。ゴブリンのあなたにこれが理解できますか?」
「グギャッ?」
私がスーツのポケットから取り出した二つの物体を持っているのを不思議そうに眺めましたが、理解はできないようで射程距離にうまく入ってくれました。
「分かりませんか?ならば答えをあげましょう。これが人間の知恵というものです!クソゴブリンさん!」
手に持った物体から勢いよく炎が噴き出しゴブリンを燃やします。
用意したのはマル秘アイテムその2【スプレー缶と100円ライター】。
スプレーから出た可燃性の液体にライターの火が引火したことにより簡易的な火炎放射器を作ったわけです。
「ギャァァァァァァァッ!!」
炎は勢い良く無手を燃やしますが火力が弱い為、大した効果は期待できません。ですが無手はゴロゴロと転がって体についた火を消そうとしています。火を消すのに必死でこちらを気にもしていません。
そんな中私は悠々と落ちていたショートソードを拾い、転がっているゴブリンに歩いていきます。
「ギャッ!」
「これならいくら素人の私でも当たりますよね?」
ニッコリと黒い笑みを浮かべながら
転げまわるゴブリンの背中を足で押さえて逃げ場をなくしました。
「ギャ・ギャギャッ」
「命乞いは認めておりません。えぇ、認めておりませんので」
「ギャッ!ギャギャギャギャァ」
言葉は通じないはずですが相手からは「命だけは」といった声が聞こえてきましたので黒い笑顔を残したまま返答してあげます。
その後も助けを乞うような声を出していましたが問答無用とばかりにその無防備な背中にショートソードを突き刺します。
無手は青色の血を流しながら暴れますが段々と抵抗が弱くなり最後には動かなくなりました。
どうでもいいですが青色の血って赤血球とかどうなってるんでしょうか。
これでやっと2体です。
「さて、待たせてしまいましたね。・・ある程度効果は期待してましたが予想以上に上手くいきましたね。」
鎌持ちをみると目に入って沁みまくっているのでしょう。今だにのたうち回っていました。。【こしょう玉】で目が潰れていたのでしょう。
首をめがけてショートソードを振り下ろします。こちらに気付くことなく首と胴体がさよならをして動くことはなくなりました。
「・・なんとかなりましたか。・・あれ?」
危険を去ったことを確認して安堵した途端に足がガクガクと震えだします。
生まれたてのコジカのように。
そのまま地面にストンと倒れてしまいましたが、初戦闘でここまで動けたのでよしとしましょう。
異論は認めてません。えぇ、認めてませんとも。
拙い文章ですが読んでくださって感謝しております。
感想、誤字脱字、ご意見ありましたらなんでも賜ります。
評価をして頂けると励みになります!よろしくお願いします!
※戦闘シーンがあっさりしすぎていましたので加筆修正しましたが、大筋に変化は出ておりませんので過去のものを読まれた方でも大きく話は変わりません。
主人公のザコっぷりが3割増ししています(笑)