ネルヴァ【3】
「いつもと違うって、いつも私の声ってどう聞こえてるの?おばさん?」
「おばさんですね」
「怒るよ」
葵さんを彼女にしたサークルの先輩とやらが羨ましく思えるほどに、葵さんは可愛い。
「冗談です。風鈴みたいなこえやなぁっと」
「風鈴かぁ…。確かに綺麗な音だよね」
「はい、夏は必ず出しますし、好きです。」
「照れるよ」
葵さんがおどけて言う。
「風鈴の話ですけどね、俺はどんな声ですか?」
ふと疑問に思い聞いてみる。普段自分の声など意識しないので他の人の意見がちょっとだけ気になった。
「んー…」
「難しいですか?」
「ラクダ!ラクダみたいな声!」
「それってバカにしてます?」
「違う違う。落ち着く声だよ」
「ラクダの声なんか聞いたことないですけどそんな鳴き声なんですか?」
「ううん、私も聞いたことない。」
「適当かい! 」
「ちゃんと考えたけどね」
そんなたわいもない会話をしていると玄関の開く音が聞こえた。妹だろう…。母は今日は夜遅くまで仕事だ。しかし、妹が帰ってくるということはもう、夕方になったってことだ。
「そろそろ、切りますね?」
朝に生姜焼きを食べてからずっと喋っていたのでお腹が空いたのだ。
「まって!」
切羽詰まった声だったので通話停止ボタンを押さなかった。
「どうしたんですか?」
「私、彼氏と別れたんだ…。」
だから、さっき戸惑ったのかと、驚きはしなかった。
「なんでですか?あんなにラブラブだって言ってたのに」
単純に疑問だった、あそこまで惚気話を聞かされたのになぜ別れることになったのか。
「んー…、高校生に頼るなんてみっともないよね」
高校生。だから相談できない。大学と高校ではそんなに差はないはずなのに…
「みっともなくないですよ、それに頼ってもらえると俺は嬉しいです。いつも相談のってもらってたから今度は俺が頼られるの番です。」
何か力になりたいと考えている、それは鹿野に対しての失恋を掻き消すため何かすべきことを見つけたかっただけだったのだろうか…。
「ねぇ、会わない?」
「えっ、それってどうゆう…」
言い終わる前に葵さんはいった。
「リアルで会わない?」
そして、これが僕のあやまちの始まりだった。