ネルヴァ【1】
聞きなれた下校のチャイムが遠くで鳴っている。目の前はとても暗い。現実はとても残酷。
「それって、鹿野は俺のこと好きじゃないってこと…?」
聞こえた言葉が嘘ではないかもう一度尋ねてみる。もちろん、とても惨めだろう。
「ごめん…。」
なんで謝るんだろう。ほんと、嫌になるなぁ。
「ううん、忘れて。今まで通り友達でいいから仲良くして」
「うん…。」
この日僕は手痛い失恋をしたのだ…。
頭の先からつま先までつーんと、冷たい何かが走る。僕は何度か感じたことのある寒気と涙を我慢して自分の教室に戻った。
「おーい、掃除サボってどこ行ってたんだよ」
「わりぃ、トイレ」
「ふうん、そうは見えへんけど。」
全くどうでもいいことに鋭い。
「どう見える?」
「んー、顧問に叱られてきた後?」
前言撤回。こいつはこーゆうやつだ、中学の時からつるんでいるからもう慣れたけど。
「ぜんぜんちゃう」
「ほんなら食い過ぎでお腹痛いとか??」
いつもどうりニシシと白い歯を見せて笑っているその光景が今は安心する
「振られた。」
「あっそう、じゃぁ、ゴミ捨てよろしく」
「なぐさめろよ」
「お前が恋にうつつを抜かしてるうちにこっちは掃除してたんや!罰や罰。」
「りょーかい。」
そういうと八島は箒を掃除用具室にしまい、教室に立てかけてあった竹刀を持って教室を出て行った。
僕も今日はとことん泳いでやろう。そう決めてゴミとともに下駄箱に向かった。
***
ゴミを捨てて、プールまで向かうと既に水の跳ねる音が聞こえてきた。練習は既に始まっているんだろう。更衣室に入ると顧問の怒号が聞こえる。いつも通りだ。そんないつも通にすくわれてる。ベッドに入るまで泣くもんか、水着に着替えプールサイドへのドアを開いた。
***
部活が終わると夜8時半を過ぎている。指定クラブは夜8時まで活動が許されているらしいけど、僕たちの部活は8時半までやる。指定クラブでもないのに…。
そうなると家に着くのも遅くなる。大阪から京都のこの私立学校に通う僕はなおさらだ。家に着くと9時半すぎだった。
「おかえりー、何食べる?」
いつものように玄関から二階に上がると母の声が聞こえた。
「いらん、それと体調悪いし明日一日学校休むわ」
「ご飯はだべーや」
「いや、ほんまに食欲ない」
「ふーん、りょーかい。早よ寝なさいよ」
「はーい…。」
自室に向かう僕に母それ以上何も言ってこなかった。
ベッドに飛び込むと一気に泣くつもりだったのに午後の部活で全て水と一緒に流しきってしまったのか涙は出なかった。
しばらくぼーっとしていると携帯が鳴った。
八島からだ。
「はい。もしもし」
「お、泣いてるとこやった?」
「涙も出ない」
「気分転換でカラオケでも行く?」
「やめとく、部屋で気分転換しとく」
「不登校はやめろよ」
「ないない」
「じゃぁ」
電話はそこで切れた。八島が人の心配をするなんて、驚いたなぁ…。