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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

何が悲しゅうて戦闘員Aをやらねばならぬ?

作者: デョ

なろう作品の乙女ゲーム転生系の作品に触発されて書きました。


でも何故かこうなりました。


相変わらずネタ臭さが抜けてないです。

―前世を思い出す―


転生モノの有りがちな始まり方。


大抵がなにかしらのショックが原因で前世を思い出す。


私も絶賛体験中で有ります。


でも、言わせてもらって良いでしょうか?


普通、頭ぶつけたとかとちゃうん!?


前世で読んだ物語のシチュエーションの再現とかとちゃうん!?


何で…


何で…!?


姉のやっとる乙女ゲームの画面で思い出すっちゅうねん!?










大変お見苦しい所をお見せしました。


この物語の主人公です。


頭の整理を兼ねて自己紹介をば。


この物語の主人公、『田中(たなか) (えい)』と申します。


今年で五歳になる幼女でございます。


父、母、姉、私の四人家族。


住まいは銀河系っぽい宇宙にある太陽系っぽい星系の地球っぽい星の日本っぽい国の田舎町です。


家族の名前は


父:田中 ()

母:田中 (いち)

姉:田中 α(アルファ)




……なんといいますか、一族の殆んどが『名前考えるのが面倒臭え』という性格っぽいです。


役所よ、何故通した?


私の名前も最初は『A』の予定でしたが、今は亡きひい祖父ちゃんが『栄』の字を宛ててくれたとの事。


ひい祖父ちゃん、マジ感謝。


有ん難うございます。


ちなみにひい祖父ちゃんの名前は『ああああ』である。


ひい祖父ちゃんの同期の櫻の方々も『鍋』、『釜』、『ヤカン』なので当時の様相、推して知るべしである。


…さすがにひい祖父ちゃんの『ああああ』がリアル地球で通る訳が無いから、自分は此処をリアル地球ではなく、地球っぽい別の惑星だと思ってる。


私達は普通に地球って呼んでるけどさ。


話を戻しましょう。


何故、前世の記憶を取り戻したか?


その日、姉はリビングで乙女ゲームをプレイしてました。


私が記憶を取り戻したのは戦闘シーンのアニメーションを見た時でした。


当時、乙女ゲームに興味の無い私はゲーム画面よりも、お気に入りの玩具で遊ぶ事に夢中でした。


『ふぬりぃやぁあああ!』


その声に思わずビクリとします。


日本人女性が到底出すとは思えない、野太く、低く、腹に響く、やたらと聞き覚えのあるヒロインの声。


実際、声を宛ててるのは男性声優で声も男声、というか漢声のままですね。


そんな声が響いたモンですから思わず画面を見ました。


…見てしまいました。


流れる戦闘アニメーション。


ヒロインと思わしき女性?


ピンクのゴスロリドレスに身を包み…


ドレスを押し上げる堂々たる肉体。


胸の谷間を作るは乳房ではなく隆々とした大胸筋。


胸・腰・お尻と見れば|ボン・キュ・ボン(筋肉が作り上げる見事なまでの逆三角形)で…


顔立ちはひたすら厳つく、拳で天を掴みそうな某世紀末覇者や環境破壊で進化した超人類の王を彷彿とさせ…


髪は豪奢な金髪をさながらドリルのような縱ロールに結い上げられ…


それらの特徴を奇跡のようなバランスで違和感なく一つに纏めあげた乙女|(むしろ漢女)が画面の中に存在してました。


現世(リアル)で出会ったら一目散に逃げ出しますが…



『ぬぉおおりぃやあああ!』


炎弾、土塊、氷礫、風刃、雷撃…


迫る魔法を、その肉体で弾き、潰し、打ち砕く。裏拳で弾かれた炎弾が森の木々を爆裂四散させ…


正拳突きで砕かれた土塊が大地に還り…


蹴りあげられた氷礫は空に消え…


逞しき大胸筋に打ち返された雷撃が戦闘員Aの頭を消し飛ばしました。



……


………


そうです。


戦闘員Aです。


……それは前世の私でした。










前世の世界は乙女ゲーム…


というか自称・女性向け恋愛SLG『月光想君』というゲームの世界でした。


その世界の平民として生を受けた私は10歳の子供を集めて行われる魔力テストで魔力持ちである事が判明しました。


魔力持ちの子供は15歳になると費用国持ちで王都の学園に通えるようになる…、実際は強制ですが、通えるようになります。


隣の優しいお姉ちゃんは断って領主様に処刑されましたからね…


私も家族も了承しましたが、実際に通う時は来ませんでした。


14歳の時、飢饉で税が上がり、その方で奴隷として身売りする事になったからです。



奴隷となった私を買って下さったのは貴族の令嬢…


現世でいう『乙女ゲームの悪役令嬢』という奴ですね。


買って下さった時にお嬢様のかけて下さったお言葉は今でも覚えています。


「魔力たったの五?

ゴミね」


おぜうさま?

何故、地球のネタをご存じなのでせうか?


ちなみに平民の殆んどは魔力零、有っても一なので平民基準であればかなり高い方です。


…そして貴族の方々は低くとも四桁、高ければ八桁、あるいはそれ以上となります。


更にはお嬢様の魔力は10110110です。


0と1が並んでマシン語みたいですね。


それから見れば魔力五なんて無いも同然ですよね。


お嬢様の屋敷には私以外にも沢山の魔力持ちの奴隷が集められてました。


そして渡されたのは奴隷を縛る為の呪具兼戦闘服…


黒の全身タイツと黒地に白糸で大きくAと刺繍されたマスクでした。


もう一つの選択肢はマイクロ貝殻ビキニアーマーの上下セットだったので実質一択でした


この呪具は身につけると肉体と一体化し、二度と外す事は出来ません。


替わりといっては何ですが、魔力を糧に身体能力を上げてくれます。


このようにして私は平民の『エイシア』から戦闘員Aへと相成ったのでございます。










それから毎日は厳しい戦闘訓練の日々でした。


同じ全身タイツ仲間で仲の良くなった人もいます。


Bのマスクを被るビーノ君はとにかく明るく周りを和ませてくれます。


Cのマスクを被るシーナさんは凄く大人びてます。


メリハリの効いた、女性らしい体つきは物凄く憧れます。


でも歳を訊いたら年下でした…。


神よ、貴方は不公平です…。


Dのマスクのディルダップ君は寡黙なクールメン。


でもその分笑った時の破壊力はハンパ無いです。


ビーノ君の冗談でクスリと笑っただけで私の真横に有った射撃訓練用の大岩が砕け散りました。


以降、ディルダップ君は仲間から笑顔禁止を言い渡されました。


笑顔の破壊力って物理現象だったんですね。


そんな愉快な仲間達と過ごす日々。


休みの日には屋敷の図書室で恋愛小説や魔導書を読み耽り、


鍛練で傷つけば励まし合い、


やがてそれも終わりを告げる日が来ました。


「殿下に近付く不埒者を討ちます」


そう言えば城下町に『不埒なゴールド』という歌劇団が有りましたね。


「その者は卑しくも平民の身で有りながら殿下に近付こうとしています」


へ?


王族が芝居見に行くだけでその劇団潰されるの?


「その者はお忍びで芝居見物に参られた殿下の席の隣に許可もなく先んじて席を取っていたのです!

到底許される事では有りません」


劇団じゃない?


って言うか、その人、完全にとばっちりじゃない?


「故に我等、貴族の手で討たねばなりませぬ!」



うわぁ、その人かわいそう…


その時は確かにそう思ったんだけどねぇ。










さて襲撃でございます。


…が、


おぜうさま、ちょいと待ちませうや?


コレがおぜうさまの嫉妬の相手でござひませうか?


学の無ひ私にはどう見ても男というか漢にしか…


へ?


マジで女?

いや、でもさすがにコレ相手に女としての危機感抱くって無理有りません?


邂逅・接敵から一秒の間に戦闘員同士でそんな共有意思が生まれましたがお嬢様はお構い無しに口上を述べあげます。



「殿下に近付く不届き者よ!

泣いて詫びて素っ首差し出すがいい!」


口上と共に打ち出された数々の魔法。


けど一つとして標的を傷つける物は有りませんでした。


ていうかアレ本当に人間ですか?


土塊にしろ氷礫にしろ人体よりも遥かに硬いんですよ?


炎弾は当たれば爆発しますし風刃は切り裂きますし雷撃は一方的にその身を焼くんですよ!?


なんで拳で砕けるんですか!?


なんで裏拳で弾けるんですか!?


そもそも雷撃はそうやって防御する物では…



その突っ込みが人生最後の記憶でした…










そして今、目の前の画面では私の死亡後の戦闘が映ってました。ビーノ君は敵の拳打で首無し死体となり…


シーナさんの体は手刀で上下に切り裂かれて腸を撒き散らし…


ディルダップ君は足首を掴まれ棍棒の様に振り回され、飛び交う魔法を打ち落とす肉棍棒として扱われ爆裂四散…


一緒に農村時代のコイバナで盛り上がったイーネちゃんが…


調理場で下拵えを手伝ってくれたフレンディ君が…


辛い時、励ましてくれたガイ・エルム小隊長が…


一緒に訓練した仲間達が次々に肉塊に成り果て逝きます。


画面の主人公(ヒロイン)のHPバーは残り僅か…


イケる…


このまま推し続ければ倒せる…


そう思いました…


…なのに…


「今日はここまでにして差し上げましょう」


お嬢様の合図と共に攻撃が止みます。


「命が惜しければ…」


お嬢様の掌に生まれた巨大な火球。


「殿下には近づかない事ね」


降り下ろした手から放たれた火球を紙一重で躱した主人公が視線を戻せばそこにはお嬢様も生き残った戦闘員もいませんでした…


辺りに散らばる戦闘員の骸と火球が森に刻んだ一条の傷跡だけが夢でも幻でもない事を告げていました…


こうしてお嬢様と漢女(ヒロイン)の恋の闘いの日々が始まった訳ですが…


それはもうツッコミ所のオンパレードでした。


まずタイトル。


『月光想君』と書いて『つきあかり(月光)に君を想う』と読むそうです。


これは攻略対象達がふとした時に見上げた夜空の月や月明かりの風景に主人公(ヒロイン)を思い浮かべる、という意味なのですが…


この漢女(ヒロイン)ならばむしろ『猛き国 Toyo=Shima』とした方がしっくりきません?


因みにToyo=Shimaは力士っぽい名前百選からの引用です。


しかも攻略対象とのやり取りも殆どが『拳で殴りあって想いを確かめ合う』というものです。


例えば攻略対象の一人、ワイルドな王太子様からは河原で激しく殴りあった後、


「効いたぜ、お前のパンチはよ…

惚れちまったよ」


と迫られてますし、小動物系な子爵次男様が刺客に襲われている現場に颯爽と現れ助ければ


「あ、あの!

お名前、お伺いしても宜しいですか!?」


と頬を染めながら訊ねられ


イケメンボイスな騎士と殴りあった末に


「お前といると…

自分は自分でなくなってしまう…」


と言い寄られ…


「揃いも揃って貴様等M男か!?

拳で愛を語る前に言葉で語れよ!?」


と突っ込んでしまいました。


けど攻略対象の好感度をまんべんなく上げてる辺りから姉の狙いはハーレムエンドでしょうか?


何か違うような…


場面は更に進み、何故か漢女(ヒロイン)が攻略対象達を供にお嬢様と死闘を繰り広げて…


「行け、断ち切るんだ!」

「頑張って!」

「お前なら…、

イケる!」


声援を送る攻略対象達…


って攻略対象(男共)は支援要員かい!?


そして漢女(ヒロイン)の拳がお嬢様の心臓の辺りに穴を開けました。


血反吐を吐くお嬢様。


突き刺さった拳を体から抜いて数歩よろめきます。

「フフフ…」


お嬢様が笑いだす。


「ハハハハ!」


お嬢様の哄笑が私の耳に突き刺さる。


「アーハッハッハッハッハ!」


口から大量の血反吐を吐きながら、それでも笑うお嬢様。


「…見事ね…」

顔は蒼白で…


「貴女の魔法では私は死なない」


血反吐を吐きながらも毅然として…


「見届けなさい…」


両の手に魔力を掲げ…


「何一つ、負ける事も、恥じる事も…」


魔力は収束し…


「私には無い!」


放たれた魔力は屋敷の屋根を消し飛ばした。


魔力の光がおさまったそこには…


「無事か!?」


王太子の誰何。


「…死ぬかと思いました…」


瓦礫を押し退ける子爵次男。


「…鍛えが足らん」


顔を煤で汚した騎士。


「…」


無言で立ち尽くす漢女(ヒロイン)の前に


「…」


そのままの姿で立つお嬢様の姿があった。


「…死ん…でる?」


お嬢様の死に沸く攻略対象達。


漢女(ヒロイン)はお嬢様の瞼を伏せ、近くのカーテンで亡骸をくるむと沸き立つ攻略対象達を尻目に大事な物を抱えるかのように亡骸を抱き上げて歩きだす。


そして流れるスタッフロールとこれまでの死闘を背景に歩き続ける漢女(ヒロイン)


「…宿敵(とも)よ…」


スタッフロールの終りをその言葉が締めた。


画面は青アザ浮かべた攻略対象達に囲まれた仏頂面の漢女(ヒロイン)が写るセピア色の写真と共にFINの文字が飾られた。




ってこれ、絶対に乙女ゲームの終り方じゃねえ!




その夜、ゲームの攻略本を姉に借りて読ませてもらった。


攻略本の書き出しは攻略スタッフ達のコメントから始まっていた。


『こんなの乙女ゲームじゃない』

『乙女ゲームというより漢女ゲーム』

『雑誌紹介に書かれたジャンルは自称恋愛SLG』

『格闘ゲームかアクションゲームで出して欲しかった』

『マッスルウェイブ社って筋肉サイコー!なゲーマー御用達の会社でしょ?なんで恋愛SLGって思ったよ』

『パラ上げメニューに筋トレだけ20種類近くある…』

『プロテイン調合メニューがある恋愛SLGなんて聞いた事が無いよ』

『絵師さん提供イラストの内、特に(リキ)入れて描いたってキャラ達だけ見つからない…』


更にめくる。


プロテインの調合方。

各キャラ毎の攻略ルート

効率的な筋トレタイムテーブル。


それらのページを越えた先にあったキャラ解説のコーナー。


そのコーナーの最終数頁に渡る無名キャラのコーナー。


『作中で一番の(リキ)入れて描きました。

是非探してみて下さい』という絵師のコメントと共にその絵はあった。


そこには私達がいた。


冒険者に成りたかったビーノ君が剣を振り…


針子に成りたかったシーナちゃんが繕い物をし…


酒場の看板息子だったディルダップが物理破壊を起こさない笑顔で接客し…


ウェディングを着て隣の誰かに微笑むイーネちゃん…


料理人姿のフレンディ君…


仏頂面なのに子供にモテまくる保父なガイ=エルム小隊長…


そこには夢を叶えた戦闘員(皆)の姿があった。


そしてそこには当然私の姿もあった。


フリルとレースがふんだんにあしらわれたロリータファッションの女の子。


「こんな高い服…

着た事無いよ…」


いつの間にか泣いてた私はその一枚で笑い出していた。

感想お待ちしております。

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