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時を彷徨い  作者: 宮沢弘
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100年まえ

##### 100年まえ


 ある湖畔の別荘に雇われていた数日の間、面白い光景を目にした。女性がものを書いていた。それもずいぶんの分量を。

 他の客も、何やら書いたり話したりしていた。

 古い言葉を少しばかり披露したからだろうか。別荘の客から、書いたものを読んでみてくれと言われた。何とも奇妙な話ばかりだった。

 しかし、私の心を捕えたのは、その女性が書いたものだった。死体の一部を動かすという話は聞いたことがあるし、見たこともある。だが、そういう程度の話ではなかった。何が蘇えらせたのかは明かにしていなかったが、関係するであろうことは描かれていた。

 そこで考えざるをえなかった。私たちは、その何かを過剰に持っているのだろうか。いや、崖の下で見たビオスを考えると、単にそういうことではないように思う。ハームとビオスの最期はどういうことなのだろう。その何かが急速に抜けてしまったのだろうか。それもどこか違うように思う。

 その女性に尋ねてみたが、彼女も詳しいわけではなかった。

 コナーの島で見た、煤煙を撒き散らして動く機械は、今となれば私の理解の範疇にある。だがその時期に見た奇妙な機械。あれはまだ私の理解の外にあった。そしてこの女性の作品。その両方が、人間の文明がこれまでとは違う方向へ、あるいはずっと先へと進むことを予感させた。


 それからしばらくして、別の著作を目にすることがあった。月へ行くというような話だ。面白く読んだ。その作者の他の作品も読んだ。海の底や空は私にとってもわからない世界だ。その空を越えて月へ。確かに壁があるわけでもないだろう。いつかは人間がその地に足跡を残すだろう。

 あるいは、時間を行き来する機械の話も読んだ。とくにこちらには興味を惹かれた。私たちは、時間を遡ることはできないものの、確かに私は10,000年近く生きている。その作品で描かれるほどに長く生きてもいない。ハームだって、どうやら30,000年か40,000年だっただろう。

 だが、法、昔コナーの島で見た奇妙な機械、あの女性の作品、そして時間を行き来する機械の作品。何かが私を不安にさせる。


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