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時を彷徨い  作者: 宮沢弘
1/9

十年後

 私はベッドに横になっていた。

「まだ目が覚めたか」

 声になったかどうかはわからないが、そう呟いた。

 ベッドの周りを友人たちが、とても古い友人たちが囲んでいた。昨日より一人か二人、増えているのかもしれない。それでも十人になるかどうかだが。

 ベッドの柵と壁に上半身をあずけようと、両腕に力を込めて腰から上を起こそうとした。だが、突然、咳が出た。一回治まったが、また身を屈め、何回か咳をした。

 その様子を見て、ベッドの左に座っていたコナーが私の背中に手を当てようとする。

「やめてくれ。大丈夫だ。ただ死にかけているだけだ」

 コナーに助けられ、壁に背中をあずける。枕を腰から背中に当てて。

 そこで一度深く息を吸い、そして吐く。

 コナーが近くのテーブルから水を取ってくれた。それを一口飲む。

「やっと終わる」

 ポツリと言う。言ったつもりではあった。

「なぜ… いつから…」

 ベッドの右からドーグラスの声が尋ねてくる。その顔からも声からも、いかにも不可解なものを見ているという様子が伺える。

「十年。十年でこうなったよ」

「だが、あなたは誰よりも」

 ドーグラスがそう言うが、私は右腕を振ってその言葉を遮る。ドーグラスの声の方に顔を向けた。

「コナー、ドーグラス。他にも。君たちが考えているのとは、いくつかの点で違う。これがプライズだ」

「私たちが聞いているプライズとは…」

 先程、私が起きるのを助けてくれたコナーが穏やかな、そして疑問もこもった声で言った。

「何回か言ったことがあるだろう。結局、君たちも、他の連中もプライズとは何か別のものだと言っていたが」

 コナーを凝視めて私は答えた。

「それにしても、十年で…」

 ベッドの足元にいる友人が言った。

「長い方だろうな。私が見た人は数年だった。短いからこそのプライズだよ」

「プライズを得る条件は一体…」

 ドーグラスの声が聞こえた。

 私は少し考えた。だが言葉が組み立てられない。十年は長い時間ではない。だがこの十年でずいぶん年を取った。これこそまさにプライズだ。

「プライズは… 納得、あるいは諦めによって得られる」

 霞む目で友人たちを見渡す。

「あるいは、プライズを得たことで、納得、あるいは諦めが得られる」

 友人たちは静かに聞いている。

「これはプライズがもたらしたものだ」

 また私は咳こんだ。コナーがまた水を渡してくれる。私はゆっくりと、一口だけ飲んだ。

「あるいは、これこそが本当のプライズなのかもしれない」

 そう言っても友人たちは声を挙げない。友人たちは、プライズとは何か違うものだと考えているのだから。少なくとも、まだどこかでそう考えている。私は長い人生の中で、プライズを得た友人をほんの何人か見てきた。だからこれがプライズだとわかる。だが、私の長い人生の中でも何人かだ。ここにいる友人たちは見たことはないだろう。

「では、最後の一人というのは?」

 ドーグラスの声がまた右から聞こえた。その声にまた顔を向けて答える。

「意味がないと以前から言っているだろう?」

 またベッドの周りは静かになる。

 私は腰をゴソゴソと動かし、毛布の中に戻ろうとする。コナーがそれを助けてくれた。

「ありがとう」

 コナーは静かにうなずき、枕を頭の下に動かしてくれる。

「ドーグラス、コナー、皆を頼む」

 左にいたコナーと右にいたドーグラスが私の手を握り、それぞれの懐しい言葉で誓ってくれた。私は二、三度うなずいた。

「さぁ、あとは静かに死なせてくれ」

 そう言って、私は目を閉じた。思い出がよぎる。辛いこともあったが、今となればただ懐しい。


「死にかけているだけだ」: アシモフの二百周年を迎えた男、シルヴァーバーグのThe Positronic Manからのセリフです。


設定として、"Highlander"が入っています。コナーという名前は "Highlander" からそのまま使っています。「最後の一人」(表現は違いましたが)も、「プライズ」も "Highlander" から使っています。


ポール・アンダースンの「百万年の船」も入ってます。

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