始まりの前
「皇后様、態々お越しくださいまして・・・」
「この度は御出産おめでとう」
「勿体のうお言葉恐悦至極に存じます」
「さぁ、赤ちゃんを見せておくれ」
(きた!)
艶華はそう思いながら、理朶に子供を差し出す。
彼女の思惑など何も知らない理朶は姫を抱き上げ、そして・・・
「キャッ!!」
ガンっ
息をしていない赤子に驚き、つい、落としてしまった。
それを見た艶華はニヤリと一瞬笑い、すぐに絶望に歪んだ顔をし、
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
とわざと大きな悲鳴を上げた。
「あ、赤ちゃんが!!赤ちゃんがぁ!!」
姫に駆け寄る艶華は涙を流しながらキッと理朶を睨み、
「一体これはどういう事ですか?!わたしの赤ちゃんを何故?!!」
いっきに責めたてる。
当然理朶は真っ青な顔で否定する。
「ち、ちがっ!私が抱き上げた時にはもう・・・」
「黙れっ!!そんな言い訳が通用すると思うなっ!!!」
「ひっ!!」
突如豹変した艶華に驚き怯える理朶。
そして丁度そこに艶華の悲鳴を聞きつけて女官らが駆けつける。
バンッ
「曹妃様?!一体如何なさったのですか?!!!」
艶華は理朶を指差し、駆けつけた女官らに、
「この女を捕らえろ!!この女は自分に子供ができないからと私の子を私の目の前で殺した大罪人だっ!!!」
そう命令を下す。
当然女官らは驚愕の表情を浮かべ、理朶の方を見る。
理朶はもう真っ青な顔で泣きそうだ。
「ちっ、違う・・・私じゃない・・・私が抱き上げた時にはもうっ・・・もう息をしていなかっ「黙らぬかっ!!そんな言い訳をまだ言い張る気かっ?!!」い、言い訳じゃないわよっ!!」
流石に理朶の方も声を荒げるが・・・
「偽りを申すなっ!!私の赤ちゃんを返せっ!!返せ!!返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せっ!!・・・赤ちゃんを返してぇ・・・!!」
艶華の演技は完璧だった。
女官らは明らかに理朶には不審、自分には同情の眼差しを向けている。
「返してぇ・・・」
「これは何の騒ぎです?!」
そこに皇太后がやってきた。
「こ、皇太后様!!」
理朶は慌てて彼女に助けを請うように駆け寄る。
「皇后様が私の赤ちゃんを殺したのです!!」
「なに?」
「ち、違います!私が抱き上げた時にはもうすでに息をしていませんでした!!」
「貴様ぁ!!まだそんな事を言うか!!」
「きゃあっ!!」
艶華が理朶に飛び掛かり、彼女の頬を叩く。
「曹妃!落ち着きなさい!!」
皇太后が厳しく言うが、
「落ち着けですって?!これが落ち着いていられますか?!私はお腹を痛めて産んだ娘をたった今失ったのですよ?!いいえ!!奪われたのです!!こんな事断じて許してはおけません!!」
艶華も言い返す。
「一体これは何の騒ぎですか?!」
其処へ今度は琿春が駆けつける。
「陛下・・・」
艶華はワッと泣き出し、琿春に駆け寄る。
「艶華?一体どうしたのだ?」
「申し訳、ございません・・・」
艶華は潤んだ瞳を琿春に向け、
「あ、赤ちゃんが・・・赤ちゃんがぁ・・・」
そう言って再び琿春の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
「どういう事だか説明してください」
琿春は艶華を宥めながら皇太后に訊ねる。
「そ、それが・・・」
流石の皇太后も困ったように理朶の方を見る。
「理朶?」
「こ、琿春様っ・・・」
琿春に名を呼ばれ理朶は真っ青な顔を彼に向ける。