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改良品

 ドゥミ嬢を迎えに行くため、祐樹が飛び出していった直後の客室。

 残されたのは四人のエプロンドレスの少女達だ。

 魔法で穏やかに眠るハイボとトワイス。

 ショックから立ち直ろうとしているミスト、そして怪異の正体を調べている亜利奈だ。



「ドゥミお嬢様、大丈夫かなぁ?」

 ミストが案じた声を出す。

「大丈夫、ユウ君が必ず連れて来るよ」

 亜利奈は確信めいた調子で答えた。



「そうだよね……大丈夫だよね。

 祐樹がついてるんだもん」

 ミストは自分に言い聞かせるように復唱する。



「……祐樹ってすごいよね。

 みんなのためにあんなに一生懸命になって走り回れるんだから」

「ユウ君だから、すごくて当然だよ」

「そっか。当然か」


 ミストは涙を拭ってしばし物思いに耽る素振りを見せ、そして、

「……。

 …………。

 …………亜利奈ちゃん、ってさ」

 手探りする様に、こう問いかけた。


「祐樹の――〝何〟?」

「亜利奈? うーん」

 亜利奈はミストの方を向き、

「ユウ君のねー……、」

 挑発的な笑みを見せて、



「〝ミストちゃんが絶対になれないもの〟。

 ――だよ?」



 と、答えた。

「――……っ」

 ミストの表情に、ぴくりと、苛立ちと嫉妬が走る。


 女性同士が直感でお互いの情意に気付き、目には見えない緊迫した何かが部屋を支配した。


 僅か数秒の膠着が、張り詰めた時間の中で遥かに長く感じられる。



「――なーんちゃって」

 亜利奈がおどけた声を出し、今度は朗らかに笑んだ。

「ふふっ、大丈夫。

 ユウ君のただの幼馴染みだよ」

「あ……っ。

 〝なれないもの〟って、そういう……」

 そりゃあ、今からどんな努力をしようが、彼の幼馴染みにはなれはしない。

 一杯喰わされたと、ミストはバツの悪い顔をした。

 イタズラ成功とばかりに亜利奈は笑い、立ち上がると、コップに水を注いで、

「はい」

 とミストに渡した。

「ユウ君の事、好きになっちゃったの?」

「……わかんない。

 でも、祐樹が他の子とくっついているのを見ると、なんかモヤモヤする」

「ユウ君はかっこいいからねー。

 しかも無自覚にモテるの」

「あー、なんかわかるかも」

「罪作りなんだよ、あの人」

 二人は隣り合って仲良く座り、気を許した様子で笑い合う。

 ミストはコップの水を飲みほし、

「ね、幼馴染みなら、さ……」

 と、再び探るようにして、

「祐樹の好みのタイプとか、わかっちゃったりする……かな?」

 ミストはそう言ってから、自分の言葉が直接的過ぎた事に気付いたのか、

「あ、えーっと。

 これは……純粋な興味なんだけど」

 と、頬を紅潮させてしまった。



「ふふっ」

 亜利奈は微笑む。

「な、何よ……笑わないでよ!

 ホントにただの興味なのっ!」

 ミストはからかわれていると感じたのか、少し狼狽して取り繕う。

「うふふっ」

「やめてってば!」

「ふふふ」

「だから……、」

「ふふふ、ふふっ。

 うふふふふふふふっ」

「――……?

 亜利奈……ちゃん?」




「うふふっ、なんで飲んじゃうかな?

 ばーかばーかっ♪

 うふふふふふふふふっ」



「…………――――、え?」



「私言ったよね?

 最初は小さいから、食べ物に混ぜられてもわかんないって。

 飲まされても記憶消されるよって。

 なに簡単に飲んじゃってるの?

 ねえ、頭弱いの?」

「…………」

「大丈夫、安心して。

 私が改良したから、このぶよぶよの粗悪品とは比べ物にならないくらい高性能なの。

 もう勝手に吐いたりしないよ」

「……。

 …………。

 ………………、

 あ、あはは……」

 ミストは笑う。

 またそうやってかつぐつもりだな、この子は。そんな調子で乾いた笑い声をあげた。


「うふふ」

「あはは」

「うふふふ」

「あ、あははは」

「ふふふっ。楽しいねっ♪」

「……ねぇ」

「はい、なぁに?」





「冗談――、だよね?」





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